第20話 さて、今後の方針を決めようか
翌朝。
館に戻り、僕達はそれぞれの部屋で眠りについた。
母さんとソフィーが居るからか、カーミラさんもこの間みたいに、冗談を言ってくる事はなかった。
お蔭でぐっすり眠れた。
で、一晩明けて、僕は寝間着から服に着替えて、朝食もそこそこにして執務室に向かう。
昨日、ガイウスに言われた事をリッシュモンドに相談する為だ。
僕一人だけで考えても、良い答えは出ないだろうから、ここは我が忠臣にして知恵袋の意見を聞く。
「その内、助けて、リシュエモンと呼んだら、何処からか飛んで来たりして」
「お呼びに寄りに参りました」
「ぉぉおおおおおうっ⁉」
冗談を言っていたら、話しに出ていた本人が現れて、驚いて変な悲鳴をあげてしまった。
「どうかしましたか?」
「い、いや、何でもないよ」
「ノックをしたのですが、返事がなかったので勝手に入らせてもらいました」
「そっか」
ちょっと考え込んでいて、聞こえなかったのかな?
「まぁ、そんな事よりも、昨日、チームの副リーダーから重要な案件を任されたんだ」
「ほう。それはどのような?」
「実は・・・・・・」
僕はガイウスに言われた事を言われた通りに告げる。
「そうですか。つまり、我が君は、東地区のチームとの同盟又はそのチームの根城を探す事と、チーム内の内偵調査ですか」
「そうなんだ。とは言っても、僕達三人でそれをやれというのは、流石に無理がある」
「ですな。では、どうなさいますか?」
「其処の所を、ちょっと話そうと思って」
「左様ですか。でしたら、両方同時進行でするというのは如何ですか?」
「同時進行?」
どうやるんだろうか。
「まずは、東地区で『ビアンコ・ピピストレロ』の情報を手に入れて、その情報を少しだけ仮メンバーに話すのです」
「その情報を聞いて、スパイは自分のチームに話すだろうね」
「その通りです。その情報で動けばよし、動かなくても何かしらの行動をとる筈です」
「確かに」
「そして、主君は手に入れた情報を活かして、その『ビアンコ・ピピストレロ』と同盟を結ぶのです。さすれば、主君は正式にメンバー入りできます」
「うん。その通りだな」
悪くないな。方針はそれでいこうか。
「しかし、この方法には一つだけ問題があります」
「へぇ、問題ね。それは?」
「三人でするには手が足りません」
「そうかな?」
何とかいけると思うけど。
「『ビアンコ・ピピストレロ』のチームメンバー、根城、などの情報収集をして、仮メンバーに手に入れた情報を渡し、更にその仮メンバーが何処のチームと繋がっているか調べる。その上、同盟を結ぶなど、どう考えても。三人では手が足りないと思いますが?」
「う、う~ん。……そうかな?」
何か、話を聞いていてそんな気がしてきた。
「ですので、ここはわたしから一つ提案があります」
「提案?」
「はい。いっその事、他の側室候補の方々に手を貸して貰ったら如何ですか?」
「ぶうっ⁉」
思わず吹き出した。
「お、おま、おまえは、何を言っているのか分かっているのか⁉」
「はい。ですが、手が足りないのであれば、何処からか手を借りた方が良いと思います」
「う~ん。でもな」
僕が声を掛けて、手を貸してくれそうなのは、アマルティア、アルネブ、アルトリアだな。
他の部族だと声を掛けても手を貸してくれるかな?
「皆、主君の寵愛を得ようと頑張っているようです。ここで主君が手を貸してくれと言ったら、快くはどうか分かりませんが、手は貸してくれるでしょう」
「う~ん。そうかな?」
「そうですよ。それに」
「それに?」
「どうやら、主君が夜、密かに館を出ている事が知られ始めているようです」
「はぁ⁉」
おかしいな。誰にも見つからない様に細心の注意を払って出ていたんだけどっ。
「どうも、主君が店に入る所を見た者が居るようで、その者から伝わったようです」
そう言えば、昨日、アマルティア達に店に居る所を見られて、思わずチームに入っている事を話したような。
でも、昨日だぞ。情報の伝わりが速すぎるだろうっ。
「生まれ変わっても、主君はおモテになりますな」
「嫌味?」
「いいえ、本心です」
「ふん。まぁ、そういう事にしておこう。それよりも」
「ええ、その内、館にいる者達が全員知るでしょう。そして、その者達の口から、館で出入りしている者達、仕事で通っている者達に知られるかもしれません」
「その情報を他に漏れないようにするには、どうしたら良いと思う?」
「簡単です。その情報源を潰せば良いのです」
「確かにそうだ。じゃあ、その情報源になっている者を連れてきてくれ」
まぁ、流石に時間が掛かるだろうな。
「既に誰なのか目星をつけています。それと、もう呼んでおります」
「早いなっ⁉」
「というよりも、そんな事を言うのは、一人しか居ないのですがね」
「一人?」
誰だろう。昨日、会ったのはアマルティアとアルネブの二人だから、その二人かな。
コンコン。
ドアがノックされた。
「どうぞ」
『失礼するぜ』
そう言ってドアを乱暴に開けて、入って来たのは『イシメオン』族の族長の娘であるバイアさんだった。
「おはようさん」
部屋に入るなり、朝の挨拶をするバイア。
「おはようございます。バイアさん」
年上なので、さん付けはする。
立場的には僕の方が上なのだが、どうも年上の人にさん付けする癖は抜けないな。
「おう、で、よ。こんな朝早くに呼び出しって、何か用か?」
僕が答える前にリッシュモンドが口を開いた。
「貴殿に訊ねたい事があって呼んだのだ」
「訊ねたい事?」
「二日前に、深夜といえる時間にリウイ様がとある店に入るのを見たと言っていたそうだが、本当か?」
「ああ、間違いねぇよ」
ふむ。そんなに目立つ格好をしていたかな?
「あたいは後ろに居たから、顔は見えなかったけどよ。領主と同じ背丈で同じ髪色をしていたし、その隣によ。馬の尻尾を二つ作った髪型をした女の顔は見たからな」
馬の尻尾を二つ作った? それってツインテールの事か。
それで、僕だと分かったのか。
「成程。そうですか。で、バイア殿」
「何だ?」
「その話を誰にしました?」
「えっと、アルトリア、デネボラ、ボノビビ、ランシュエ、ハダ、サンゴって所だな」
デネボラ以外は十二氏族の人達だな。
アルトリアはデイオメデスの娘だし、ボノビビは『タシエル』族の族長の妹だ。
ランシュエは『タゼブル』族の族長の従妹だそうだし、ハダは『ジャミニン』族の現族長の親戚と聞いている。
サンゴは『カッサカル』の族長の姉だ。
「結構な人数に話したようで」
「まぁな。親しくしている奴に世間話がてらに話したからよ。何か問題でもあったのか?」
バイアさんはそう尋ねてくるが、僕達は答えなかった。
「これにアマルティアとアルネブも加わるから」
「全員で八人ですな」
「これだけいたら、人手は問題ないね」
「? 何の話だ?」
「ああ、実はね」
僕は事のあらましを簡単にバイアさんに教えた。
「成程な。それで、あたいも手を貸してほしいって事かい?」
「ああ、お願い出来るかな」
「……なぁ、王子様。何事も持ちつ持たれつって言葉があるの知っているかい?」
ギブ&テイクの事か?
ふむ。この場合はバイアさんが求める物と言えば。
「お目当ては、交易品の関税の引き下げかな?」
「話しが早いな」
正解だったのか、バイアさんは口角をあげる。
十二氏族と樹海で暮らしている部族の者達が作る装飾品にはある程度の税を掛けている。
とは言っても、それほど金を取っている訳でもない。
大きさによって違うが、平均で二割から二割半の税を掛けている。
楽市楽座の方法も考えたんだけど、あれって結構欠点があるから、ここの領地だと使えないんだよな。
あれって、組合を排した自由取引市場のように見えるけど、実際は領主に都合がいい商人を御用商人にして、その商人の下で統制される様になっているからな。
一見自治に見えても、本当は代官などでによって治められていたのだ。
人によっては、商業の統制政策であったっていう人もいるぐらいだしな。
つまり、この領地で行う場合は、商人達を監督する御用商人が必要なんだけど、その御用商人が居ないので楽市楽座は出来ないという結論になった。
「関税はこれ以上下げるのは無理だな」
当初は、関税無しにしようと思ったが、各部族の領地からの運搬費用が結構高い。
なので、仕方がなく関税を掛けている。
こういう時って、流通が整っていると問題はないんだけど、あいにくまだ道まで整っていない。
その内に道路を作ろうと思っているのだけど、どの道をどう作るか検討している最中だ。
「じゃあ、物品の大きさ、重さによって税を掛けないで、全部均一にしてくれよ。そうしたら、あたいらも文句ないよ」
「それも無理かな」
全部、均一の値段にしたら儲けが出ないかもしれないからな。
いずれは、関税を無くすが今では無い。
其処の所を理解してくれと言っても無理だろうな。
う~ん。どうしたものか。
「リウイ様。わたしに策がございます」
おお、流石は我が知恵袋。
「ほぅ、策とは?」
「リウイ様が以前、おっしゃっていた楽市楽座を行えば良いと思います」
「でも、あれって、官僚たち一同で話し合った結果、御用商人がいないと無理だという話しになったんじゃあなかったか?」
「その御用商人に心当たりがあります」
「心当たり? 何処にだ?」
「東地区に『鳳凰商会』があるではありませんか」
「あ、ああ」
そう言えば、そんな話があったな。
「で、その商会が御用商人になるかどうか見極めてはどうですか?」
「どうやって?」
「皆さまの手を貸したら如何ですか」
「皆様?」
「先程、バイアが名前をあげた者達と、リウイ様が名前をあげた者達の手を貸してもらうのです」
「ううっ。あの人達に手を借りるのか」
先程、名前があがった人達って性格というか、キャラが濃いんだよな。
その人達の手を借りるのか。
そう思っていると、リッシュモンドが顔を寄せて来た。
「口止めを兼ねて呼び寄せ、そして手伝わせるのです。そうすれば、これ以上、情報の流出は防げると思います。
「確かに、そうだな」
「というよりも、リウイ様は側室候補の方々に接してくれませんと、面倒な事になりますよ」
「うっ。そう言われても」
十二氏族と樹海で暮らしている部族の殆どから側室候補の人達が、この館に居るのだが、前世で結婚した経験も恋愛をした経験もなかったので、どう接したら良いのか分からないのだ。
「この機会に一人でも二人でも誑し込んで、各部族の関係を良くしてください」
「わ、分かった」
ああ、面倒な事になりそうだな。
「という訳で、バイア殿」
「お、おう」
「そうですな。……三時間後に先程の話をした者達を、この部屋に呼んできてもらいたい」
「わ、分かった」
リッシュモンドにそう言われて、バイアさんは返事をして部屋から出て行った。




