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第15話 その夜

 その日の仕事を終え、僕は私室に戻る。

 私室に入ると、他の人達の就寝時間になるまで時間を潰した。

 そして、就寝時間になると、僕は密かに部屋を出た。

 まず、向かったのは、ティナの部屋だった。

 護衛として連れて行くのもあるけど、襲撃があったばかりの所に、僕と一緒に行動しているティナが居ないと変に思われるかもしれない。

 そう思い、僕は館の中を見回っている兵士達に見つからない様にしながら、ティナの部屋に向かう。

 で、部屋の前に着いたのだけど。

『ティナ。今日はどうして、あのような事をしたの? それもあんな朝早くから』

『それは』

『何かあったの、お母さんにも教えてくれないの?』

『それは……』

 部屋から話し声が聞こえて来た。

 この声はソフィーだな。

 今日の事で、何でそうなったか詰問しているようだな。

 これでは連れ出せないな。どうしたものか。

 と考えていると、向こう側からカーミラさんがやってきた。

 カーミラさんは口に指を当ててウインクした。

 静かにと伝えたいのだろう。

 僕は頷くと、カーミラさんは部屋の前まで来た。

「これだと、ティナは連れ出すのは難しそうよ」

「だよね」

「どうするの?」

「……仕方がないので、ここは僕達だけで行こう」

「そうね。そうしましょう」

 カーミラさんは僕に抱き付きいてきた。

 その大きな胸が僕の腕に当たりつぶれる。

「か、かーみらさん、あたっているのですが?」

「ふふふ、当てているのよ♥」

 僕の肩に頭を預ける。

 ううむ。ここまでされると、振りほどく事も出来ない。

 仕方がなく、僕達は一緒に館を出る事になった。

 まぁ、ティナと一緒に行ったように、厨房の出入り口から出る様にしたのは、人目につかない様にする為だ。

 最も、館を出ると、ルーティさん達が既にそこに居た。

「お供します」

 皆を代表してか、ルーティさんが頭を下げて言う。

「今日は何が起こるか分からないけど、僕が合図を送るまで何もしないように」

「はっ、ですが」

「そっちが不味いと判断したら動いても良いけど、出来るだけ僕の命令に従うように」

「……承知しました」

 ルーティさんがそう言うのを聞いて、僕達は会議に出た『天馬亭』に向かう。


 ルーティさんに警護されながら、僕達は『天馬亭』に向かっていたのだが。

 途中で、何人かの仮メンバーとあった。

 そして、僕を見るなり、何か睨んできた。

 久しぶりだな。この嫉妬と殺意に満ちた視線は。

「あの、何か?」

「……アルテナはどうした?」

「今日は事情がありまして来れなくなりました」

「そうかい」

 メンバーの一人がそう言うと、歩き出した。

 でも、何かピリピリしているんだよな。

「ふふ、ウィルも人気者ね」

 そう思えるカーミラさんはどういう神経をしているのだろう。

 まぁ、実害は無いから放っておくか。

 僕達はそのまま歩き出して、数十分後。

 目的地である『天馬亭』の前に着いた。

 廃業されている所為か、建物は汚れており入り口にはは釘を打ち付けられた板で封鎖されていた。

 ここで合っているんだよな?

「此処だよな?」

「ああ、だけどよ」

「入れないよな」

 メンバーの人がノブを動かすが、ドアは開く気配は無い。

 どうしたものかと、僕達は頭を悩ませていると。

「居たぞっ」

「囲め囲め‼」

 何だ? と思っている間に、僕達は何か良く分からない人達に囲まれた。

「こいつら『クリムゾン・ティガー』の奴らじゃねえかっ」

「どうして、ここに?」

 これは、もしかしてヤバイ状況だな。

 とりあえず、僕がする事は。

(まだ、手を出さないで)

 と近くにいるルーティさんに合図を送った。

 これで後は流れに任せるとしよう。


会議でこの『天馬亭』に来いと言われて、僕達は来たのだけど、何故か『クリムゾン・ティガー』に囲まれている。

 ここに来る事は、昨日決まったばかりだ。

 それが何で、敵のチームがここに居るのか。

 確実に言えるのが、内通者が居る。

 正メンバーか、それとも仮メンバーのどっちかは分からない上に、何人いるか分からない。でも、絶対に居る。

 じゃないと、この状況は有り得ない。

 その者を探すのは後にして、今は、この状況をどうにかしないとな。

「へっ、此処に居るのは全員(・・)仮メンバー(・・・・)のようだな」

 うん? 今の言葉に何か違和感を感じたぞ。

 と、そんな事を考えているよりも。

「でもよ。情報だと女性はチンチクリンしかいねえって話じゃなかった?」

「ああ、そうだよな」

 敵メンバーの人達は、カーミラさんに目を奪われていた。

 チンチクリンって、多分、ティナの事なんだろうな。

「……どこが、チンチクリンだよっ」

「滅茶苦茶、美人じゃねえかっ」

「じゃあ、とっ捕まえて、お楽しみをさせてもらおうぜっ」

 おぉい。声が漏れているぞ。思いっきり聞こえているけど、分っているのかな?

「おしっ。手前ら、行くぞっ」

「「「おおおおおおおおおおおおっ‼‼」」」

「やべっ、来やがった」

「とりあえず、この建物の中に入るぞっ」

 襲い掛かる《クリムゾン・ティガー』のメンバーの攻撃を防ぎながら、仮メンバーの一人がそう言う。

 その言葉に従い、僕達は急いで、『クリムゾン・ティガー』のメンバーが襲い掛かって来るのを防ぐ。

 防ぎながら、閉鎖された店のドアを蹴破る。

「待てやっ、こらああっ」

 敵メンバーも僕達を店の中に入れない様にしてきたが。

「邪魔よ」

「あべしっ」

 カーミラさんの腹パンで敵のメンバーの一人が吹き飛ばされ、その勢いのまま他のメンバにぶつかった。お蔭で、敵が怯む。

 その間に、僕達は店の中に入る。

「何か、押さえになる物を持って来いっ」

「防げ防げっ」

 仮メンバーの人達は、防戦しながら入口に、机やら椅子やら板やらなんでも積んで、防壁代わりにする。

 敵もそうはさせじと、防壁を壊そうとした。

 数の方では敵の方が多いのだけど、必死の抵抗と、逐次カーミラさんが強力な魔法を放つ事で、何とか防壁を作る事に成功した。

 それにより、敵が攻撃を止めて、膠着状態になった。

 しかし、このままだとこちらが圧倒的にヤバイ。

 この建物で籠城しても、敵が火を放ったら逃げ出さないと駄目だ。

 一か八かの突撃で、このまま逃げ出すという案もあるが。

 そう上手くいくとは思えないし、それに数では向こうの方が多い。あっという間に包囲されてタコ殴りにあうかもしれない。

 あと、残っている手段は一つしかない。

 僕がルーティさんに合図を送り、敵の後方を襲撃してもらい、混乱している所を逃げ出す。

 これが現状で良策だ。

 その代わり、僕の正体がバレるけど。

 このままタコ殴りにあうよりも、マシだと思い、そうしようと思ったが。

 ここって室内なんだよね。

 どうやって、合図を送ろう。

 そう頭を悩ませていると。何か外が騒がしくなった。

 何だろう? そう思い、僕達は防壁の隙間から、外の様子をうかがう。

 すると、『クリムゾン・ティガー』が襲われていた。

 もしかして、ルーティさん達が我慢できずに襲ったのかと一瞬思ったが。

 目を凝らして見ると、エルダー・ダーク・ハイエルフではない。

 じゃあ、誰だろうと思っていると。

「うちのもんに手を出したんだ。只で帰れると思うなよっ」

「ガイウスだっ」

「『斬鬼』が来たぞ⁉」

 ガイウスが先頭きって、『クリムゾン・ティガー』に襲い掛かる。

 それにより、敵は及び腰になった。

「ぎゃああああっ、いてえ、いてえよおお」

「駄目だ。逃げろっっっ」

 その声が響いたと同時に、敵は逃げだした。

「待てっ、逃げんな。手前らっ」

 しかし、敵のチームメンバーは足を止める事はなかった。

「ちくしょうっ。引き上げるぞっ」

 今回の襲撃を指揮したと思われる人が、そう指示すると、かろうじて戦っていた敵のチームメンバー達も逃げ出した。

 ふぅ。とりあえず、助かった様だ。

 





 

 

 

 









 リウイが『クリムゾン・ティガー』に囲まれていた頃。

 その頃のティナはと言うと。

「何か不満でもあるの? だったら、わたしにちゃんと言ってちょうだい?」

「い、いや、別に」

「じゃあ、何かあるの? もしかして、リウイ様に不満でもあるの?」

「ち、違う。別にリウイに不満なんか」

「じゃあ、何であんな事をしたの?」

「そ、それは、その、……」

「普段だったら、喧嘩なんてと思うのだけど、ティナ、貴女此処の所、変よ」

「べ、別に、変な所なんて」

「じゃあ、何で喧嘩なんかしたの?」

 ソフィーの追及にしどろもどろになるアルティナ。

(うわ~、リウイ。早く助けてよ~~」

 内心、涙目になりながら大好きな幼馴染に助けを求めるアルティナ。

 その本人は、既にこの館に居ない事も知らずに。

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