第11話 まさか、襲撃を受けるとは
夜。
僕は何時もの様に厨房で待ち合わせていた。
そうして、ティナがやってきた。
「待った?」
「うんうん。特に待ってないよ」
「じゃあ、行こう」
「っと、その前に話があるんだ」
「話?」
「うん。実は」
僕はソフィーに相談された事をティナに話した。
「ええ、本当?」
「うん」
「むう、まずいわね。当分はあの店に行く事になるだろうから、髪に匂いが移りそうだわ」
「帰って来たら、髪を洗うとかは?」
「何処から、お湯を調達するのよ」
そうだよな。この世界でもボイラーの役割を持った物はあるのだが、魔石を使うので、使う度に魔石に蓄積されている魔力が消費される。
それでバレるかもしれない。
一番良いのは、魔法でお湯を作り出す事だが。
「ティナは水魔法の素養がないし、僕はまだ会得してないから、水魔法は出来ないんだよな」
そこまで話していて、僕達は溜め息を吐いた。
「……仕方がないわ。朝の内に髪を洗うようにしてみるわ」
「ごめんね」
「良いの。リウイに付き合う事にしたのは、あたし何だから気にしないの」
「僕は良い幼馴染を持ったな」
「ふふん。当然でしょう。あたしはリウイのお姉ちゃんなんだから、これぐらいはしないと」
胸を張るティナ。
そんなストーンの体形で胸を張っても、逆に滑稽に思うけどね。
「今、何か変な事考えなかった?」
「気のせいだよ」
相変わらず勘が良いな。
まぁ、今はさっさと行くとするか。
僕達は話をそこそこにして、店に向かう事にした。
館を出た僕達は店に向かっていると、向こう側から、何かガラの悪そうな人が居た。
もう、深夜といえる時間なのに、こんな所にいるなんてどんな用があるのやら。
ガラの悪そうな人達は、煙草を吸いながら談笑していた。
その様子から、誰かを持っているようだ。
このまま近づいたら、絡まれそうな気がするな。
「ねぇ、少し遠回りする?」
「う~ん。・・・・・・いいや、このまま行こう」
僕はそう決めると、そのまま歩き出す。
そのまま歩き、ガラの悪そうな人達を追い越す事が出来るという所で。
「おい、そこのガキ共。ちょっと待ちなっ」
そう声を掛けられ、僕達は足を止めた。
「何でしょうか?」
下手な事を言って、刺激しない様に僕は話す。
「ここを通ろうとしたな。通行料を払いな」
「通行料ですか?」
何で、僕の領地で通行料を払わないといけないんだよ。
馬鹿馬鹿しいを通り越して、呆れるな。
「ここは俺達に縄張りだからだよ。あん、文句あんのか?」
文句というか。今世で公道で金を取る人初めて見たよ。
「すいません。今、急いでいるんで」
僕達は話を切り上げて、先に進もうとしたが。
「待てや、こらっ。俺達『クレイジーベアー』から逃げられると思ってんのか?」
男がそう言うと、ナイフやら鉄の棒を出してきた。
「『クレイジーベアー』? 確か北地区のチームじゃないか。何で、ここに?」
「ほら、副リーダーのガイウスって人が、このチームと『デッドリースネイク』っていうチームが良く他の地区に喧嘩をしに行くとか言ってたじゃない」
「ああ、そう言えば」
その言葉に納得していると、向こうの人達もそれを聞いて驚いていた。
「ガイウスだとっ。『プゼルセイレーン』の副リーダーの名前じゃねえか」
「それって『斬鬼』の事か?」
「ああ、そうだ」
何か、カッコいい二つ名を持っているんだな。あの副リーダー。
「何処に行くか知らねえが、ちょっと、俺達と話をしねえか?」
その顔で話と言われても、拷問しか思いつかないのだけど。
「仕方がない。ティナ」
「りょうかい」
僕達は戦闘態勢を取る。
得物はもちろん自前の物だ。
僕は腰に差している剣。ティナは魔弾銃だ。
まさか、千年経って、その武器を見る事になると思わなかったな。
「来るわよっ」
「ああ、分かった」
僕達は駈け出した。
「良い度胸だぜっ」
「まぁ、少し痛めつけてやるぜっ」
『クレイジーベアー』の人達も僕達に向かって来る。
あと少しで、交戦距離になるという所で。
「ってぇぇぇ⁉」
その声と共に、矢が放たれた。
僕達に当たらないように、良く狙って放たれたようだ。
「「ぎゃああああっ⁉」」
『クレイジーベアー』の人達に矢が当たる。
何十本の矢が放たれているのに、誰も急所には当たっていない。凄い腕だな。
誰が放ったんだと思い、周囲を見る。
「何だ。今の悲鳴は?」
「こっちから聞こえたぞ」
その声と共に、数人の足音が聞こえて来た。
そして、現れたのは『クレイジーベアー』の人達だった。
まだ居たのか。
「あっ、おい。見ろっ」
「うちの奴らじゃねえか」
「あのガキ共がやったようだな!」
「ふざけやがってっ。ぶっ殺す‼」
あっ。こっちに来るぞ。
そう思っていると、その人達の前にふらりと誰かが現れた。
暗がりなので、良く見えないけど、シルエットから女性のようだ。
「何だ、てめえ」
「『ひれ伏しなさい』」
女性の声が聞こえたと思うと『クレイジーベアー』の人達がいきなり地面に倒れだした。
この声って、もしかして。
「が、ががが」
「な、なんじゃ、こりゃ?」
地面に倒れた『クレイジーベアー』の人達は立ち上がろうとしているが、強力な力で押さえつけられているようだ。
「こ、これは。いったい?」
「御無事でしたか。リウイ様」
そう言いながら、僕の傍に寄って来たのはルーティさんだった。
更に、ルーティさんの背後には短い弓を持ったルーティさんと同じエルダー・ダーク・ハイエルフの人達がいる。
「大丈夫。リウイ」
そう言ってきたのは、シルエットの女性のようだ。
近づいてくるとようやく姿が見えて来た。
その姿は、予想通りカーミラさんであった。
「カーミラさん? それとルーティさんがどうしてここに居るんだい?」
見回り? いや、この二人が一緒に見回りするのは、まだ先だと思ったのだけど。
「ああ、影から貴方の護衛をしていたのよ」
「護衛? 何時から?」
「昨日からですが」
「昨日⁉ いったい誰がそう命じた……」
言っていて、誰か分かった。
「「リッシュモンドさん(よ)」」
「やっぱりかっ‼」
何時から気付いたんだ⁉
「何でも、夜に館を警戒させているリッシュモンドさんが呼び出した死霊が、館を密かに出たリウイ様達を見つけて、その後を付いて行かせたそうです。それで、リウイ様が何をしているか調べさせたそうです」
初めて有能の部下を持って、偶に不便になるのだと思った。
「それで、次の日からわたし達が影から護衛するように言われました」
「吸血鬼は夜でも問題なく動けますから、わたくしも選ばれたようです」
「成程」
館に戻ったら、リッシュモンドに一言言わないとな。
「それにしても」
「何か?」
「あのリッシュモンドという者とは、どういう関係なの?」
「えっ? どういう意味?」
「だって、わたくし達にこの話しをした時に『リウイ様の性格から、裏口から館を出る。恐らく幼馴染のメイドであるアルティナと一緒に』って言っていたけど、本当に一緒に出るのだから驚いたわ」
くっ。流石は前世から仕えている僕の部下。
僕の行動パターンが読まれていたようだ。
「で、この人達はどうするの?」
カーミラさんは、僕を襲った『クレイジーベアー』の人達を見る。
「そうだな。ルーティさん」
「ルーティで結構です。主君」
こういう所は、父親のボルフォレとそっくりだな。
僕は内心、苦笑した。
「じゃあ、ルーティ」
「はっ」
「部下の人達と一緒に、この人達を牢獄に入れておいてくれるかな」
「はっ。承知しました」
ルーティは一礼して、部下に指示を出した。
部下の人達は何処からか紐を出して『クレイジーベアー』の人達を出して縛っていく。
数珠つなぎに縛り上げ『クレイジーベアー』の人達を、ルーティは部下の人達と一緒に連れて行った。
僕達はルーティ達に後ろ姿を見送ると、カーミラさんが近づいてくる。
「じゃあ、目的の場所にいきましょう。リウイ」
カーミラさんは僕の腕に抱き付きながら『カフェ&バー テンダー』に向かうように促す。
「あ、あんたねっ」
「何かしら?」
ティナとカーミラさんが僕を挟んで睨み合った。
はぁ。どうしてこうなるのかな。
右手にカーミラさん。左手にティナ
その二人に挟まれながら、僕達は『カフェ&バー テンダー』の下に行く。
「ふっふふ。夜の散歩も良いものね。邪魔者も居るけど」
「ふん。あんたが邪魔者でしょうっ」
先程から、二人はこの調子だ。
はぁ。もっと仲良く出来ないのかな。
そういえば、ティナはアルネブともよく喧嘩をしていたな。
これはもしかして、ティナに問題があるのかな?
う~ん。どうなんだろう。
そう考えて、道を歩いていると。
ドゴンッ‼
何か、派手な爆発音が聞こえて来た。
「爆発っ⁉」
「向こう側からよっ」
「もしかしてお店が襲撃を受けてるっ!?」
「急ごうっ」
僕達は駆け出した。
少し走ると、店の前に沢山の人達が居た。
その人達は店に攻撃していた。
「ヒャッハー‼ これでもくらいな‼」
「魔力が尽きるまでぶっぱなせ‼」
「俺達『クリムゾン・ティガー』に喧嘩を売った事を後悔させてやるっ」
魔法や色々な物を投擲して、店を攻撃していた。
僕達は物陰に隠れながら、その様子を見た。
「また、派手にやっているわね」
「そうだね」
「話を聞いた限りだと、あたし達がこの前、襲撃した『クリムゾン・ティガー』の奴らのようね」
「ああ、仕返しにきたようだね」
これはどうしたものかな。
「なめんな。赤猫どもっ」
「手ぶらじゃあ帰さねえぞっ」
「てめえら、反撃だっ」
店の中に居たのだろう。『プゼルセイレーン』のメンバーが反撃しだした。
ああ、魔法の撃ち合いになっちゃった。
これは面倒な事になりそうだな。
「ねぇ、このままだと不味い事になるわよ。リウイ」
「う~ん。どうしたものかな」
「あたし達も参加する?」
「いや、このまま参加してたら泥沼化するかもしれない。だから、このまま様子見しよう」
正直に言えば、あの戦闘に参加したら、その内、警備兵が来る。
その時に、もし捕まったらかなり不味い。
絶対、ソフィーやアリアンに説教される。
あの二人を怒らせたらと思うと、うう、背筋に寒気が。
「リウイ?」
「もし、警備兵が来たら、館に戻る事にしよう」
僕がそう言うと、二人は頷いた。
そして、そのまま観戦していると。
「ぎゃあああっ⁉」
「な、何だ。ぐあっ!」
何か『クリムゾン・ティガー』側から悲鳴が聞こえて来た。
どうしたんだと思い、目を凝らすと。
「手前ら、うちのヤサに攻め込んで、無事に帰れると思うなよっ」
ガイウスが手に持った剣を振り回す。
いや、あれは。剣というよりも刀に近いな。
剣にしては細身だし、刀身が反っている。
「へぇ、あの者。中々の手練れのようね」
「そう言えば、さっきあたし達を襲った人達が、ガイウスの事を何か渾名を呼んでいたわね」
「ああ、確か『斬鬼』とか言っていたね」
内心カッコいい名前だなと思った。
あっ、そう思っている間にも、ガイウスが次々と敵のメンバーを倒していく。
「くそっ。もう半分やられたぞっ」
「仕方がねえ。引き上げだ!」
その声で『クリムゾン・ティガー』のメンバーは怪我したメンバーに手を貸しながら引き揚げていく。




