第6話 今世で初めてバーに居る
「何で、そんな事を聞くんだ?」
「この都市にあるチームの何処かに入ろうかと思って」
まぁ、嘘ではない。
ごろつきがチームを組んでいるとは言っても、どんなチームなのか分かっていない。
しょっちゅう喧嘩しているみたいな事を聞きはしたが、どんな理由で喧嘩しているのか知りたいな。
このバーには『プゼルセイレーン』のメンバーが見かけたという情報が入っている。
だったら、マスターに話しを聞けば何かしら分かるだろう。
「そんな訳で、何処か良いチームを知りませんか?」
「知らんな」
マスターはにべもない返事で返した。
ふむ。こんな反応を見る所、僕を敵のチームのスパイか何かだと思われているのかな?
それとも、子供だから話す事ではない思っているのかも知れない。
さて、どうしたものかな。
「じゃあさ、ここに入り浸っている『プゼルセイレーン』とか言うチームは此処に何時来るの?」
ティナが話に割り込んできた。
「……何で、そんな事を聞くんだ?」
「あたし達、そのチームに入ろうかと思って」
「さぁな。そんなチームが此処に来るとは初めて知ったぜ」
マスターはグラスを拭きだした。
それは、嘘だな。
客商売の仕事をしているのだから、情報ぐらいは耳に入るものだが。
これはあれか、袖の下が必要なのかな。それともこのマスターもチームのメンバーと考えた方が良いのかな。
むぅ、どっちなのか考えさせられるな。
「あんた、それでもこの店のマスターなの?」
「何だと?」
ティナ。そんなイラっとくるような事を言わないでよ。
ほら、マスターもカチンと来たのか、明らかに先程よりもムッとした顔をしている。
「お嬢ちゃん。言葉には気を付けた方が良いぜ」
「ふん。どんな客か知らないで、注文を受けるんだったらそこいらに居る人にも出来る事じゃない。仮にもこの店のマスターなんだから、どんな客か注意深くなりなさいよ」
出されたミルクを一気に飲んで言うティナ。
マスターの顔は僕達を睨みだした。
これ以上刺激したらまずいか。でも、もう少し情報が欲しいな。
そう思っていたら、店のドアが開いた。
客が入って来たようだな。
どんな客が来たのかなと思い、僕は入り口の方に目を向けた。
身なりは悪くないけど目つきが悪い男女数名が入って来た。
皆、服装はバラバラだ。
でも、唯一共通点があった。
左胸に何かの動物を模したバッジを着けていた。
よく見ると、あれはセイレーンのようだな。
上半身は鳥の翼を持った女性で、下半身は魚のようだから。
本や話しには聞いてはいるが、実は今だお目に掛かった事は無い。
そおセイレーンのバッジを着けているという事は、もしかしてあの男女は『プゼルセイレーン』のメンバーかな。
確証は持てないので、何とも言えないが少なくとも関係はあると考えた方が良いかな。
そう思って見ていたら、男性の一人が僕に気付いたのか、歩み寄って来た。
「何だ。坊主」
「すいません。聞いても良いですか?」
「何をだ?」
「皆さんって『プゼルセイレーン』というチームメンバーですか?」
「ああ、そうだ」
男性は胸のバッジを誇らしげに見せた。
「この都市最強のチーム『プゼルセイレーン』とは俺達の事だっ」
「そうなんですか」
多分、他のチームメンバーに訊いても、皆そう答えるだろうな。
「で、その俺達に何の用だ?」
「ああ、実は、僕達も『プゼルセイレーン』に入りたいんです」
「はぁ? 俺達のチームに入りたいだぁ?」
「はい。そうなんです」
正直に言えば、何処でも良いのだが。他のチームに比べて、メンバーが此処にいるという情報が入っているので、このチームにしただけだ。
断られたら仕方が無いから、他のチームにこの話しをしよう。
「お前等、名前は?」
「僕はリ」
「ちょっと」
名乗ろうとしたら、ティナが肘打ちして止めた。
そして、僕の襟首を掴んで『プゼルセイレーン』の人達から離れる。
「ど、どうかしたの?」
肘打ちされた所をさすりながら、僕はティナに訊ねる。
「ここ本名名乗ってどうすんのよ。偽名使いなさいよ」
「ああ、言われてみれば」
僕からしたら、前世の名前の方が本名の気がするから、今世の名前を名乗ってもイマイチ本名という感じがしないんだよな。
「どんな偽名にしようか?」
「あたしはアルテナにするわ。リウイは、そうね。……ウィルとかどう?」
「まぁ、それで良いか」
僕達はそう決めて『プゼルセイレーン』の人達が居る所に戻る。
「お待たせしました」
「おう。何で、名前を聞いて、話し合いをしたんだ?」
メンバーの人も不思議そうな顔をしていた。
「あ~、それはですね。僕の本名が長いので、どう略すか話しました」
「長い名前ね。ちなみにどんな本名なんだ?」
えっ⁉ それ聞く? え、えっとそうだな。
「……ウィルフレッドトゥーリマンルーセンススレイハイペリオンベガです」
「長えなっ⁉ お前の親、何でそんな長い名前をつけたんだよ?」
「さぁ、僕にも分かりません。長いのウィルでいいです」
「そうか。で、そのちっこいのは?」
「誰がちっこいよっ」
「いや、お前ちっこいだろう」
メンバーの人がティナの頭に手を置いた。
置いた手を自分の方に動かした。すると手が当たったのはメンバーのお腹であった。
「小さいな。ちゃんと食べないと大きくなれないぞ」
メンバーの人は笑みを浮かべる。
「う、うるさいわね」
「そんなにちっこいから、育つべきところが全然育ってないしな」
メンバーの人はティナの頭から足まで見た後で、ある所に目を向けた。
無論、そこは胸だ。
その視線に気づいたのか、ティナの全身が震えだした。
あ、ああ、まずい。
僕はティナを宥めようとしたが、遅かった。
「……してやる」
「はぁ? 何だって?」
メンバーの人がよく聞こえる様に耳をティナの方に向ける。
「ぶっころしてやるって言ったのよっ‼」
そう言ったティナの全身に電気が走った。
「な、なんだっ⁉」
「ころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころす」
そう言って、ティナは手に電気を集めて、拳を作った。
そして、その電気を纏った拳でメンバーの人を思いっきり殴った。
「ぐへええっ⁉」
顔を殴られ、変な声を出してメンバーの人が倒れる。
「ど、どうした?」
「何よ。この子?」
「どっかのチームが送って来た刺客か?」
「そんな事はどうでもいいから、早く取り押さえるわよっ」
ああ『プゼルセイレーン』の人達がティナを押さえようと襲い掛かる。
「うわあああああああん。誰が貧乳よっ。誰がもう育つ見込みがないよっ」
「い、いや、そんな事、俺達は言って、……ぶべしっ」
「あひゃっ」
ティナを押さえようとした人達は殴られて壁に飛ばされて行く。
ああ、ティナに胸に関しては禁句なのに。
唯一アルネブだけが言っている。まぁ、それで喧嘩しているんだろうけど。
ソフィーが母親だから余計に惨めな気分なんだろうな。
何だって、あの爆乳だからな。そしてくびれた腰。デカい尻だからな。
ダイナマイトボディっていう言葉がピッタリな肢体だからな。
その娘が、ストーンじゃねえ。
「うわああああああああああああっ‼」
ティナは暴走しだした。このままだと店にも迷惑が掛かるな。
そろそろ止めるか。
「ちょっと、これはいったいどういう事なの⁉」
入り口から女性の声が聞こえて来た。
見ると、そこには『プゼルセイレーン』のバッジをつけた男女数名が居た。
どうやら『プゼルセイレーン』のメンバーのようだ。
さて、どうしたものかな。
「マスター、これはいったい」
「俺が知るか、普通に話していたら、突然、あの子が暴れ出したんだよ」
何か、すいません。僕の連れが迷惑を掛けて。
「騒々しいわね」
そんな騒がしい中で、女性の声が耳にハッキリと聞こえた。
声がした方に、僕は顔を向ける。
顔を向けた先に居たのは、綺麗な女性だった。
モデルの様なな体型な所為か、肉付きは無い。
長身で全体的に引き締まった肢体。
切れ長の目。水色の瞳。
染めているのか、七色に輝く髪を腰まで伸ばしていた。
ホットパンツを穿き、黒のインナーの上に青色のジャケットを羽織っていた。
「「「「り、リーダー⁉」」」」
「すいません。今、押さえますから」
メンバーの人達が綺麗な女性に対してリーダーと言った。
もしかして『プゼルセイレーン』のリーダーなのか。
まさか、リーダーという名前じゃないだろうし。
う~む。これは、また意外な所で会えたな。




