第5話 密かに家を出るのは、いくつになってもドキドキだ。
その夜。
皆、多分リッシュモンド以外は就寝している時間。
僕は寝室から密かに出て、厨房に向かう。
別にお腹が空いて、厨房の冷蔵室にある食べ物でつまみ食いする為に向かっているのではない。
厨房の出入り口から、僕は館を出るのだ。
正面入り口は兵士が詰めているので、確実に捕まる。
なので、出入り口から出て塀をよじ登り外に出る。
皆に見つからない様に、この館から出る様にする為にはこうしないといけない。
屋敷の中を見回っている兵士に見つからない様に隠れながら厨房に向かう。
ふっ。姉さん達に見つからない様に鍛えたスニーキング技術が、こんな所で役に立つとは思わなかった。そう思いながら、僕は厨房の前まで来た。
厨房に入ると、辺りをキョロキョロする。ここでティナと合流する予定なんだけどな。
「わっ⁉」
「っっっ⁉‼」
いきなり、背中を押されて驚いた。
おもわず声が出そうになったが、何とか耐える。
「い、いきなり、なにをするんだよっ」
小声で怒る僕。
そんな僕を見て、ティナは悪びれる事無く笑う。
「ごめんごめん」
「まぁいいや。そろそろ、行こうか」
「りょうかい」
僕達は出入り口から外に出た。
そして、一応周りを警戒しながら歩き、塀の所まで来た。
「じゃあ、お願い」
「もう、仕方がないわね」
そう言って、ティナは両腕を広げる。
僕はティナに抱き付いた。腰に腕を回して離れない様にした。
「~~~♥」
何か、嬉しそうな顔をするティナ。
そして、ティナは腰を落として足に魔力を溜めた。
「じゃあ行くわよ」
そう言って、ティナは跳んだ。
塀を飛び越えて、向こう側に着地した。
地面に着地し、周囲を見たが誰も居ない。
「ふぅ、どうやら問題ないようね」
「流石はティナだ。あれだけ高い塀を飛び越えても、音も無く着地するなんて」
「ふっふ~ん。そうでしょう。あたしが新しく生み出した『雷震脚』は」
鼻息を荒くして胸をはるティナ。
ストーンな体型なので、胸を張っても自慢できる物は。
「今、何か変な事考えなかった?」
「ぜ、ぜんぜんっ」
そう言われて、僕は首を横に振る。
あ、あい変わらず勘が良いな。
ともかく、今は『プゼルセイレーン』がいる『カフェ&バー テンダー』に向かうわないと。
「ほ、ほら、早く行こう」
「そうね」
僕達は歩き出した。
途中、ティナが手を繋ぎたいと言うので、手を繋ぐとティナは嬉しそうな顔をした。
館を出て、少し歩くと目的の場所である『カフェ&バー テンダー』に着いた。
「ここがそうだね」
「そうね」
僕達は店の前を見た。
僕の予想では、酒場件宿屋みたいな店だと思っていたが、この造りだとパブみたいだな。
バーの割りに静かな店だな。
シックな外観だからかな? 分からないけど。
「リウイ。入るの?」
「当然、その為に、こうして夜に来たんだから」
僕はドアノブに手を掛ける。
ドアを開けると、店の中を見た。
ふむ。カウンター席が全部で二十席で、テーブル席は六つか。
それなりに大きい店といった感じだな。
店の中にいる客達は、入って来た僕達を見る事無く酒や談笑を楽しんでいる。
音楽はないようだけど、静かで落ち着きがある雰囲気だな。
そう思いながら、僕は店の中に入り、カウンター席に座る。まぁ、丁度二人分席が空いていのもあるけど、それよりも、カウンターにいるマスターが見たかったのもある。
前世でもこういう店にとんと縁がなかった。
接待やら一人で酒を飲んだ事はあるけど、こういう店に行く事なかったからな。
僕の隣にティナが座ると、カウンターにいるマスターがグラスを拭きながら僕達を見る。
ふむ。見た感じ、このマスターは魔人族のようだ。
前世から思っていたけど、この世界の鬼人族と魔人族の違いが殆ど見分けがつかないんだよな。
両種族とも角生えて人間の姿だから。
違うのは肌の色と目の色が違うぐらいだ。
「注文は?」
マスターが訊いてきた。そうだな、ここはテンプレでいこう。
「エールで」
「あたし果実酒」
僕達が注文すると、マスターは手に持っていたグラスを棚に戻して、注文した品を運ぶため言った。
こういうバーで酒を飲めたら、ちょっと格好いいだろうな。
そう思いつつ、注文の品が来るの待った。
少しして。
「はい。お待ち」
マスターが僕の前にグラスを置いた。
グラスを置くは良いのだけど、何か白い液体が入っている。これは。
「あの、これは?」
「ミルクだ」
「えっ?」
何で、エールを頼んだのに。
そう思っていたら、隣に座るティナが笑い出した。
「ぷっ、リウイ。あんた、子供だと思われたんじゃない」
「…………」
かも知れない。
何せ、この世界に転生して十五歳になるけど、身長は百六十ぐらいだし童顔なせいか、少し背が大きい子供みたいに思われても不思議じゃない。
この世界の平均身長は男性百八十、女性百七十だ。
ちなみに僕の姉さん達ははロゼティータ姉上を除けば、百八十の長身だ。
なので、会う度に抱き締められる。
そう笑うティナの前にも、マスターはミルクが注がれたグラスを置いた。
「…………」
ティナは言葉を失う。
「ぷっ、ティナも子供だと思われているんだね」
「~~~、ちょっとっ」
「何だ?」
「注文の品が違うんだけどっ‼」
「ガキはミルクで十分だ。それ飲んだら帰んな」
「何ですって⁈」
ティナはカウンターを飛び越えて、マスターに飛び掛かりそうになったので、僕は抑える。
「落ち着いて、落ち着いてよ。ティナ」
「ふー、ふー、ふー」
駄目だ。これは、頭に血が上っている。
ここは別な話を振って、ティナの気を静めないと。
「あ、あのマスター」
「何だ?」
「聞きたい事があるんですが」
「聞きたい事?」
「はい。ここに『プゼルセイレーン』のメンバーが訊ねてくると聞いたんですが、本当ですか?」
僕がそう言うと、マスターは僕を胡乱な物を見る目で見て来た。
この反応をするという事は、どうやらここに『プゼルセイレーン』が来るのは間違いないな。
さて、どう話をしようかな。




