閑話 魔都での一騒動
この話は三人称です。
魔都『ニヴルヘイム』のギャラブル魔宮殿の中にあるとある一室。
そこで、大量の書類の山がある机に持たれている者が居た。
「はぁ~…………。リウイ、どうしているでしょうか?」
書類の山の中で、一人愚痴るのはイザドラであった。
最愛の弟のリウイが領地に赴いて、もう半年。
その間、一度も会っていない所為かイザドラの生気が無くなっていた。
最初の頃はまだ平静であったのだが日が経つごとに元気がなくなった。
この頃は仕事の手も止まりだしていた。
お蔭で、書類の山が出来ていた。
「はぁ、イザドラ様は何時になったら元に戻るのだ」
「仕事が滞って、陛下にも仕事をしてもらっているのに全然減らないぞ」
側近の者が一向に減らない書類を見て話しだす。
ここの所、あまりの量に側近達の手も回らず魔王であるオルクスだけではなく、ロゼティータとソアヴィゴにも手を借りていた。
そんな状態で、ようやく政治は回っている状態であった。
「これで二度目か」
「ああ、前も確かリウイ様がかかわっていたな」
「その時は、リウイ様に無視されて、仕事に手が付かなかったのだったな」
「あったな。お蔭で暫く政治が回らなくなったからな」
「全くだ。あの地獄を思い出したくない」
「俺もだ」
「いい加減、元の状態に戻って欲しいのだが」
「余程、弟君が自分の傍から離れたのがショックだったようだな」
側近の者達も、イザドラが早く仕事をしてもらいたいのだが、肝心のイザドラが。
「はあ~~~~~~~」
山の様に重い溜め息を吐くイザドラ。
その手は一向に動いていない。
側近達も、そんなイザドラを見てイザドラと同じような溜め息を吐いた。
「失礼します」
イザドラ達が居る部屋に、人が入って来た。
「何事だ?」
「今は、執務中であるぞ」
側近達は仕事をしていないイザドラを表向きは執務中という事にしている。
宰相であるイザドラが仕事をしていないとというのは体面として問題があるので、仕事をしている様にしている。
「はっ。先程、オウエの領主であるリウイ様の家臣の者が先触れと参りました」
ピク。
イザドラの耳が微かに動いた。
「何だと⁉」
「それで、先触れは何と?」
「はっ。間もなくこの魔都に到着する予定との事です」
「何と、もうオウエの統治に目途がたったのか?」
「それとも、支援を求めて来たのでは?」
「分からんが、ともかく出迎えに行かねば」
側近の者達は話をしていると、突然、書類の山が動き出した。
何事だと思い振り返ると、イザドラが凄まじい勢いで仕事をしていた。
「貴方達、何をしているのです。早く仕事に掛かりなさい」
そう言いながらも、手は止まらず動いていた。
「「「は、はいっ⁉」」」
側近達はイザドラの動きに合わせて、仕事を再開しだす。
三十分後。
天井にまで届こうかとしていた書類の山が、今は一枚もなかった。
「お、終わった」
「あんなにあった書類が一枚も無いとは」
「まるで、夢を見ているような気分だ」
側近達は驚いている中、イザドラは優雅に茶を飲んでいた。
その優雅さは今まで仕事をしていた様には見えなかった。
「……さてと、重要な書類以外は貴方達で処理しなさい。重要書類は机の上に置いておきなさい」
「はっ」
「イザドラ様。何処かにお出かけで?」
側近の一人がそう問いかけると、イザドラは外を見た。
「少し散歩をしようと思います」
「はぁ? どこに」
側近がそう訊こうとしたら、傍に居る同僚が脇腹を肘で突いた。
「がふっ」
「どうぞ。お早いお戻りを」
側近の人がそう言うと、イザドラはスキップしそうなくらいの軽い足取りで部屋を出て行った。
イザドラが部屋を出て行くのを確認した側近は同僚に言う。
「馬鹿か。お前は。リウイ様に会うために行ったに決まっているだろう」
「あっ。そうか」
「イザドラ様にお仕えしてそれなりに長いが、あの方があのような性格だと知らなかったぞ」
「全くだ」
側近の者達はようやく仕事が終わったので、安堵しながら帰り支度をした。
部屋を出たイザドラは直ぐに外に出ていた。
弟に半年ぶりに出会う事が出来ると分かり、イザドラは愛騎に乗るのも煩わしいのか、龍の姿となって空を飛んでいた。
その際、ロゼティータが出てきて「こんな人が多い所で、何をしとるんじゃああ、この戯けがああああああっ」と叫んだが、イザドラの耳には届かなかった。
イザドラは龍の姿でオウエの方へと飛んでいた。
(リウイ♥ 今、姉さんが会いに行きますからね~~~)
そう思いながら空を駆けるイザドラ。
駆ける事、数十分。
かなりの人数の一団がイザドラの眼下に入る。
鎧を着た巨人の兵団。バラバラの武装をした獣人。ダークエルフ、天人族、昆虫人族などの兵士が整然と並びながら進んでいる。
五色の全身メタリックな鎧を着た一団に囲まれる中にイザドラの弟の姿があった。
「ああ、リウイ。ようやく会えまし」
言ってる最中で、イザドラの目に衝撃的なものが目に入った。
何と、リウイは人馬族の女性の背に乗っていた。
人馬族の者は自分の背に乗せる者は恋人か夫以外は乗せないという掟がある。
その時点で、人馬族の女性はリウイの恋人という事だと予想するイザドラ。
更に驚きなのは、その人馬族の背には女性がもう一人乗っていた。
しかも、リウイの口元に、何かの食べ物を近づけている姿が見えたのだ。
それが衝撃だったのか、イザドラは咆哮した。
「ナンダ?」
「何処から咆哮が聞こえる⁉」
「アソコダ」
「敵、龍ト推定。迎撃準備ッ」
リウイの一団が迎撃の準備をしだした。
そして、イザドラとリウイの一団との戦闘が起こった。
一時間後。
ロゼティータがその現場に現れて、イザドラを説教した事で、戦闘が終わった。
だが、あまりの戦闘の激しさに地形が変わってしまった。
リウイが魔都に向かっている時。
普段は、馬車に乗るのだが、今日は外の風を当たりたいと思い、魔獣に乗ろうとしたが。
「それならば、わたしの背に乗ったら如何ですか?」
と、ディオメデスの族長の娘であるアルトリアが言い出した。
リウイはその背に乗ったのだが、何故かビクインも一緒に乗り出した。
流石にビクインまで、自分の背に乗るとは思わなかったアルトリアは顔を顰めた。
そんなアルトリアを気にせず、ビクインはリウイに抱き付きながら、あれこれと世話をしていた。
「はぁい。リウイ君。あ~ん」
「あ、あ~ん」
ビクインさんが御菓子をリウイの口に入れる。
断ると、ビクインが拗ねるので、リウイは仕方がなく口を開けて食べていた。
そうしていると。
「GYAAAAAAAAAAA‼」
何処からか、龍の咆哮が聞こえていた。
「ナンダ?」
「何処から咆哮が聞こえる⁉」
「アソコダ」
「敵、龍ト推定。迎撃準備ッ」
「マインヘル。迎撃ノ許可ヲ」
「ああ、総員、迎撃準備」
リウイの声に応えて、リウイ配下の軍団が迎撃準備にとり掛かった。
そうしている間に、龍の姿が見えた。
「迎撃ッ」
リウイの軍団と、龍との戦闘が始まった。
一時間後。
ロゼティータが来た事で、この龍がイザドラと知ったリウイであった。




