第95話 何か、同行者が増えた。
「あの? どうしてビクインさんが付いて来るんですか?」
「わたしが付いて行ったら駄目なのかしら?」
「はい。そうです」
貴女、部族長でしょう。それなのに、僕達に着いて行ったら、まらスピービーさんが五月蠅いと思うのだけど。
しかし、僕が即答したのが気に入らないのか、ビクインさんが悲しそうに顔を歪める。
「そんなぁ、お世話になった方に巨人族とアイゼンブルート族の住処に行くのに付いて行くぐらいはしても良いと思うのだけど」
僕はビクインさんの言葉を聞いて驚いた。
アイゼンブルート族の住処に行く事については、まぁ、カーアインスが居るから分かるだろうけど、どうして、巨人族の住処に行く事を知っているんだ?
カマかけかもしれないな。ここは乗らずに聞こえていないフリをしよう。
「ですが。ビクインさんはアベベーネ部族の部族長なんですから、部族長が勝手に出て行ったら駄目だと思うのですが?」
「いいのよ。偶には族長の仕事から離れて、息抜きをしないと疲れてしまうわ」
「はぁ、そうですか」
まだ、領主としての仕事をしていないので、その疲れというは味わっていないので分からない。
「という訳で、付いて行くけど良いでしょう」
「でも」
「さぁ、行きましょう」
ビクインさんは僕の腕を掴んで、そのまま巣の外に出て行く。
「「「………………はぁっ⁉ ま、待って⁉」」」
急な展開についていけず、アマルティア達三人は付いて行けず、一瞬呆気に取られていたが、直ぐに気を取り戻して、リウイ達を追いかけた。
アリアンは溜め息を吐きながら、三人の後を追いかけ、カーアインスはとりあえず、皆の後に付いて行く事にした。
ビクインさん共に、誰にも見送られる事なく、僕達は昆虫人族の巣を後にした。
「ところで、何処に向かうのかしら?」
「まずは、昨日お巨人族の所に向かおうと思います。そこで情報を入手してから、次はどうするか決めたいと思います」
「成程。じゃあ、わたしも付いて行っても問題ないわね」
「そうですね。……」
今頃スピービーさんはどうなっているか分からないが、大変だろうなと思う。
「じゃあ、行きましょうか」
そう言って、ビクインさんは僕の腕を自分の胸に挟む。
「あ、あの、どうして腕を組むのでしょうか?」
「そういう気分だからよ」
「ですが」
「嫌、なの?」
そんな悲しそうな顔をされた、反対できないじゃないか。
仕方がなく、そう仕方がなく僕は、そのまました。
けして、胸の感触を味わいたい訳ではない。
そう思っているのだが、後ろにいる二人の視線が痛い。
昆虫人族の巣を出た僕達は少し休憩を挟みながら、巨人族の住処に向かう。
道中は、魔獣の襲撃はあるのだが、僕が出る事無く、皆が撃退する。
意外だったのは、ビクインさんが強いことだった。
「はぁ!」
Cの形をした弓を使い魔獣を倒している。
しかも的確に急所を狙いつつ目で見えない連射で、魔獣を倒している。
「ふぅ、これで大丈夫ね」
ビクインさんは額に浮かんだ汗を手の甲で拭う。
「お疲れさまです」
「ええ、それにしてもこの魔獣は美味しくないから、倒しても面倒なのよね」
そうなんだ。
でも、この魔獣って、何処となくハクビシンに似ているな。
だとしたら、臭いがきついのだろうから、味付けを濃くしたらいけるのでは?
今度、試してみよう。
「リウイ君」
「はい⁉」
考え事をしている所に、いきなり耳に息を吹きかけられ、裏返った声をでちゃった。
「どうしたの? 変な声を出して」
それは、貴女が耳に息を吹きかけるからです。
「な、なんでもありません」
「そう。ところで、巨人族の住処に行くのでしょう」
「はい」
「昨日ね。ファーマーの人達から聞いたのだけど、わたし達が行った所の他にも住処はあるそうよ」
「何だって?」
「どうやら、階級ごとに住処が違うようね。でも、そんなに離れていないそうよ」
「そうか。正確な場所は分かるかな?」
「ごめんなさい。そこまでは聞いていなかったわ」
仕方が無いか。まぁ、結局の所はこの前の巨人族の住処に行く事は変わりないか。
「でも、階級ごとに住処が違うとは、それってどうなんだ?」
「そうかしら。別に不思議ではないと思うわよ」
「何故ですか?」
「戦士階級の所に鉄鉱石があっても鉄は作れないわ。職人階級の所に植物の種があっても植える事が出来るわけでもなし、農夫階級の所に鎧があっても邪魔なだけでしょう」
言われてみると、そうだな。
それぞれの階級に合わせた住処で、自分達の仕事をする。
だとしたら、階級ごとに長が居ると思った方が良いのかな。
「階級のトップは、戦士長、職人長、農夫長という役職があるそうよ」
「そして、その一番上に族長がいるって感じか」
巨人族の大まかな階級が分かったな。
「それにしても、巨人族の族長が捕まったのだから、今頃混乱しているでしょうね」
「だろうな」
仮にも、族長が捕まったのだから、混乱してもおかしくない。
だとしたら、話をするのも難しいかな。
「まぁ、行って見たら分かるか」
「そうね」
ビクインさんが僕に抱き付いた。
「あの、どうして僕に抱き付くのでしょうか?」
「うっふふ、どうしてかしらね~」
この人、何処かフェル姉さんと同じ匂いがする。
人を揶揄って、その反応を見るのが大好きで悪戯好きな所がある人だったな。
「「…………」」
ああ、何か、アマルティア達の視線が体に突き刺さる。
ビクインさんは二人の顔を見て微笑むし、ああ、面倒ごとにしかならないのが分かる。
早く。着かないかな。
そう思いながら歩いていた所為か、何とか着けた。
さて、皆さんどうしているかな?
「ウン? 昨日ノリヴイ達デハナイガ」
「ドウガシダノカ?」
あれ? 巨人族の人達は普通に仕事をしているぞ。
もっと混乱していると思ったのに、これはどうした事だ?
「あの、つかぬ事を聞いても良いですか?」
「ナンダ?」
「昨日、そちらの族長が捕まったと聞いたのですが、本当ですか?」
「アア、ゾウダ」
「マサガ、族長ガ捕マルトハ思ワナカッダナ」
何か、巨人族の方々は談笑しながら話し出した。
自分の所の族長が捕まったのだから、少しは慌てるとかしないのだろうか?
「随分と平静だけど、何かあるのかしら?」
ビクインさんがそう尋ねると、巨人族の人が答えた。
「ンダ。族長ハ捕マッタダケダカラナ。ソノ内返シテクレルカモシレンシナ」
「ソレニ、次ノ族長ヲ誰ニスルカ、モウ話シ合ッテイルカモナ」
話し合い? 脳筋部族って言われているから、てっきり次の族長を決める際は、バトルロイヤルでもして決めるんだろうなと思っていたけど。
「じゃあ、順当的に言えば、族長の息子が次の族長なんですか?」
「インヤ、今ノ所候補バ三人ダガ、ソノ中ニ今ノ族長ノ息子ハイネエ」
「トイウヨリモ、族長ハ子供サイナイガラ、族長ノ兄弟ガナルンダ」
「成程」
その内返還してくれるだろうという考えがあるから、こんなに平然としているのか。
更に、次の族長候補もいるのだったら、仮に処刑されても問題はないのか。
「ちなみに、その族長候補はどんな人達なんですか?」
「ソダナ。一番ノ有力候補ハ、デュポーンダナ」
「ソッダナ。オケアノス族長ノ弟デ、異形ダガ、ソノ武勇ハ巨人族ノ中デモ随一ダシナ」
「ンダンダ」
「成程。じゃあ、次は?」
「次ハアルゴスッテ言ウ奴ダ」
「コノ方ハオケアノス族長ノ従弟デ、鍛冶ノ腕ハ部族ノ中デ一番ダ。
「ほうほう」
「最後ニ、クロノスッテ言ウンダ」
「コノカタハ、オケアノス族長ノ弟ダッタナ」
「ンダ。武勇モ凄イガ、頭モ良イ人ダ」
次の族長候補は、テュポーン、アルゴス、クロノスか、覚えておこう。
「ありがとうございます。じゃあ、僕達はこれで」
「ゾウガ。ンジャ、マダナ」
「今度来ル時ハ、何カ用意ジテオグカラナ」
「お、おかまいなく」
巨人族が用意するんだから、小山ぐらいありそうな物を用意されそうだ。
流石に、それを食べるのはキツイな。
話のついでとばかりに、他の階級の人達の住処を教えてもらった。
そして僕達は見送られて、その場を後にした。
道なりを進みながら、頭の中で考えた。
次は何処に行こうか考える。
教えてもらった戦士、又は職人階級の住処に行くか、それともアイゼンブルート族の住処に行くか。
さて、何処に行こうかな。
「リウイ君」
「はい、何でしょうか? ビクインさん」
「次はアイゼンブルート族の住処に行きましょう」
「? 何でですか?」
「巨人族の族長が捕まっているのだから、早く解放した方が良いと思うのよ」
「どうしてですか?」
「もしも、族長が返還されないからという理由で、次の巨人族の族長を決められるかも知れないわ」
「それがどうかしたのですか?」
「決まった族長が、他部族の所に戦争を仕掛けるかもしれないわ」
ああ、その可能性もあったか。
自分の権威を示すために、そういった手段で力を示す方法もあるからな。
「だったら、早くアイゼンブルート族の住処に行かないと駄目だな」
「そうね」
まだ、情報収集をしたかったけど、そういう可能性もある以上、直ぐに行動しないと駄目だな。
僕達はアイゼンブルート族の住処に向かう事にした。




