第76話 任務完了。ついでに、僕が死んでから何があったか聞く
「……という訳なのさ」
僕は死んでからの経緯ををボルフォレに話した。
しかし、自分が死んだ経緯を誰かに話すなんて、新鮮だな。
それも僕の知り合いに話すのだから、生きていると何が起こるか分からないとか良く聞くけど、本当なんだなと思う。
「……………………」
僕の話を聞いていたボルフォレは言葉を失っていた。
まぁ、死んだ主人が転生して、こうして会えるとかどう考えても予想すら出来ないだろうな。
正直会えるとは思わなかったからな。
「……我が君っ」
ボルフォレはそう言って土下座しだした。
僕は土下座を教えた事はなかったので、この世界にも土下座はあるんだなと思いつつ、ボルフォレの土下座を見ていた。
「転生したとはいえ、忠誠を誓った御方に無礼な態度を取ったこの身の不忠に、どうか罰をっ」
「いやいや、普通に考えてボルフォレのやり方も間違っていた訳ではないから」
僕は別に気にしていなかったのに、何故か過剰に謝る。
そう言えば、十傑衆の中でも一~二を争う暑苦し、もとい忠誠心が厚い男だったな。
「一部族の族長になったのだから、頭を気軽に下げるのは良くないと思うのだけど」
「ですが。主君に頭を下げるのも、臣下の務めとも言います」
「そんな務めなんかいいから、それよりももっと建設的な話をしようよ」
「と、言いますと?」
「天人族との和解の件だけど」
「和解します」
即答かい。その答えはさっき聞きたかったけど、まぁいいや。
とりあえず、天人族とエルダー・ダーク・ハイエルフは魔国に従属させる事が出来たと考えた方が良いのだろうな。まぁ、一応聞いておくか。
「ボルフォレ。君の部族は」
「無論。直ぐに従属いたします」
こっちも即答かい。
というか、少し時間が欲しいとか言って欲しかった。
「あのさ、部族内の調整をしてから返答しても良いと思うのだけど」
「何をおっしゃいますか。再び主君にお仕えでき、族長である儂が忠誠を誓う以上は、部族をあげてお仕えするのが礼儀というものです」
「そ、そうかな……」
其処の所は良く分からないので、何とも言えない。
とりあえずは、二つの部族が魔国に従属するという事を喜ぶべきかな? 分からないけど。
「それにしても、昔とちっとも変わらないな。お前は」
「は、はぁ、そうでしょうか?」
本当に変わってないよ。君。
「そう言えば『雷電』と『槍聖』の二人は何処に居るんだい?」
「二人でしたら、向こうの大陸で傭兵をしながら戦場を歩き回っているそうです」
「そうなんだ。ところでさ」
「はい」
「僕が死んだ後って、どうなったんだい?」
「……人づてに聞いた事なので、詳しくは分からない所もありますが、それでよろしければ」
「構わない」
どうせ、千年前の事だ。
仮に天城君が生きていたとしても、正直殺された怒りはあるが、それを晴らそうという気持ちはない。
もう終わった事なのだ。転生して恨みを晴らすなんて、僕的には有り得ない。
生きている内に復讐するなら、まだ分かるけど、死んでからそんな思いに引きずられて生きるのは、御免だね。
「分かりました。まずは、何が訊きたいですか?」
「クラスメート達はどうなったんだい?」
そこが一番気になっていた。
皆、帰れたのか。それとも帰る事が出来なかったのか。
転生してからも気になっていた。
「二名を除いて、皆帰る事が出来たそうです」
「そうか。……うん? 二名?」
「一人はシイナという女性で、もう一人はアマギです」
「えっ⁈」
二つの意味で驚いた。
天城君が帰れなかった事と椎名さんが帰れなかった事が。
「どうして、二人は帰れなかったんだい?」
「アマギの方は処刑されて、シイナという女性は、確実とは言えないのですが、主君の遺体を回収しに行ったそうです」
「えええええっ⁉」
天城君が処刑⁉ 更に椎名さんが僕の遺体を回収に行った⁉
何で、そんな事が起こったんだ?
「どういう経緯でそうなったか知っているか?」
「詳しくは知りませんが、何でも主君のクラスメート達が魔人族との戦いの褒美をもらっている時に、主君の使い魔が、主君の死んだ経緯を話したとかで、アマギは処刑されたそうです」
モリガンさんっ、貴方、何をしてくれちゃっているんですか⁉
遺言を伝えてくれるだけで、十分だったんですが。
何、美味しい物を沢山食べさせたから、その恩返しに一矢報いたとかしたいと思ったのですか?
「死体は石打の刑にとなりまして、儂と『死影』を除いた十傑衆達は、主君のその話を聞いて王都に向かい、その死体を見たそうです。何人かは、その死体に鞭打ったそうです」
い、石打の刑って、惨い。更にその死体に鞭打つとか、ちょっと可哀そうだ。
そんなに王様に気に入られていたかな?
僕が領地持ちになってからは、そんなに会ってないぞ。精々手紙のやり取りはしていたけど。
そう言えば、王家御用達のレモンカードを作った事に感謝されたっけ。
「まぁ、いいや。それで、椎名さんの行方は?」
「残念ながら、主君の死体があると言われている場所に向かってからは、消息不明です」
「そ、そっか……」
あの『龍の巣』に行くとか、普通は有り得ないけど、椎名さんならするかもな。
まぁ、流石にもう亡くなっているだろうな。せめてお墓には花を手向けたいが分からないから無理か。
「他の人達は?」
「皆、魔王城の図書館にあった魔導書に記されていた帰還の魔法陣で帰ったそうです」
「……そっか、皆帰れたのか」
何か、それだけ聞いただけでも、素直に嬉しいと思った。
マイちゃん、ユエ、村松さん、西園寺君。
皆はそっちに帰る事が出来たんだね。良かった。
良かったという気持ちが心に浮かんだ。
喉に刺さっていた小骨がようやく抜けた気分だな。
「……それから、どうなったのかな?」
気持を切り替えて、国やら僕の領地はどうなったか聞く。
殆どの人は死んだとはいえ、どうなったかは知りたいからね。
「はっ、儂らはこの領地はどうなるか知ってから、どうするか考えようと領地で沙汰を待っていました。そして、その沙汰を持ってきたのが、第二王女様でした」
第二王女? あれ? 誰だったかな?
顔は何となく覚えているけど、名前が出てこない。
確か、せ、せ、セロリ? いや、違うな。セロハン? 何か遠のいたな。
「どんな名前だったけ?」
「セリーヌ様ですよ。それにしても」
ボルフォレは僕を驚いた顔で見ていた。
「なに?」
「何時の間に、第二王女様とそのような関係になったのですか?」
「? どういう意味」
あれ? そう言えば、セリーヌ王女と何かあったような。
う~ん、何か、こう、あれだな。後一歩で思いだせそうなのに、何故か本能が思いだす事を止めろと言っている。何故だ?
「何時から、第二王女と夫婦となったのですか?」
……。
…………。
………………。
あ、ああああああああああっ⁉
思い出したっ‼
そうだよ。あの王女様と一夜を共にしたんだよ。
まぁ、それで、経験してから死んだから悔いはないと言えばそうなんだけど。
あまりに急で政略が絡みまくりで、あの後、何とも言えない気分だったんだよな。
「いやぁ、驚きましたよ。第二王女が領地の沙汰を告げる使者として来たのも驚きましたが、それ以上に驚いたのは、我々に姿を見せた時は、これでしたから」
ボルフォレは手で腹が膨らんでいるというジェスチャーをした。
えっ、女性で腹が膨らんでいるとジェスチャーという事は、……もしかして。
「ふ、ふくよかだったのかい?」
無難な返しをする。
これで、もし想像している通りだったら、僕はあの名台詞に似た言葉を言ってしまいそうだ。
そう某刑事ドラマに出ているジーパンを穿いている刑事の名台詞を。
「いえいえ、妊娠していましたよ。主君の子を」
「……なんじゃあ、そりゃああああっ⁉」
あっ、思わずでちゃった。
ここは冷静に、冷静にならないと。
深呼吸だ。深呼吸しよう。ひーひーふー、ひーひーふー。
って、これは妊婦が子供を産む時にする呼吸法じゃんっ、駄目だ。全然、冷静になれない。
「し、主君、落ち着いて下さい」
「あ、ああ、そうだね」
ボルフォレに宥められ、僕は気を落ち着かせる。
目をつぶり、気を落ち着かせよう。
少しして。
「落ち着きましたか?」
「ああ、かなり」
時間が掛かったけど、どうにか落ち着いた。
「それで、セリーヌ王女は妊娠した状態で、ターバクソンまで来て、どんな沙汰を下したんだい?」
「ターバクソン領は王女様の領地になりました。それを持って、王女様は主君に降嫁した事になり、ターバクソン男爵家は、一気に公爵家にまで陛爵しました」
まぁ、王女様が降嫁したのだから、そうなるよな。
「ところで、その子を産まれる時には立ち会ったのかい?」
「はい。黒髪でどことなく主君に似た面立ちの子でした」
「そっか」
まだギリギリ成人していない歳で子供が出来たと、家族が聞いたら驚いただろうな。
まぁ、家族もその子供も、もう死んでいるから会う事はないのだけど。
「我ら十人は、主君の御子息をそれこそ赤子の頃からから墓場に行く時までお仕えしましたよ」
「そっか。うん? 十人?」
「王女様の沙汰を聞いて『死影』は安堵したのか、我らに『我が主と決めたのは、あの方ただ御一人のみ』とだけ行って、行く先も告げずに何処かに行ってしまいました」
「そっか。元気にしているかな?」
「さぁ、まぁ、あの者ですから死ぬ事はないでしょう。何せ、もう死んでいるのですから」
確かにな。
十傑衆の中で特に変わっているのが『死影』だったからな。
だって、最初に会った時はもう既に死んでいたのだから。
正確言えば、死人なんだから、生きていはいない。
しかも、只の死人ではなくて生命無き王という死人でも最上位存在だ。
最初、吸血鬼がこの生命無き王に当たると思っていたけど、吸血鬼は鬼人族に入るそうで、別に死人ではないそうだ。
で、前世でこの死人に入っているのは、ゾンビ、レヴナント、ワイト、スケルトン、リッチという感じになっているそうだ。
それらの最上位に生命無き王が居るそうだ。
本人から聞いたから、多分会っているだろう。多分。
でも、そうなるとデュラハンは入ってないから、死人じゃないから違うのか?
う~ん。どうなんだろうか。
思い出すな。初めて会った時は、あの転移する前に読んでいた小説に出て来る骸骨の魔法使いの姿まんまだったからな。
で、友好的に話して来たから、余計に驚いた。
行く当ても無いと言っていたので、僕の所に来ないかと誘ったら、少し考えてから来る事になった。
それ以来、幻術で自分の姿を偽って仕えてくれた。
何か、僕の事を「偉大なる君主」と呼んで称えていたな。何でか知らないけど。
実際使える者だった。参謀としても武将としても代官としても。
魔法を使わない白兵戦で僕より強かったのは、正直ショックだった。
でも、流石に死人だと公にするのは問題あったので、表向きには職業が死霊魔術師という事にした。
それで、スケルトンとか操っても問題ないからな。
死人を操ったりしている事と、影の様に僕に仕えるので『死影』という二つ名を持つようになったんだよな。
「そんな訳で、我ら十人は主君のお子様である名前をイエヤス様にお仕えしました」
イエヤスか。何か戦国時代の偉人の名前だな。
多分、僕の信康の音に似たのを選んだんだろうな。
「それで、そのイエヤス? が死んでからは?」
「イエヤス様をお送りしてからは、皆バラバラになりました」
「バラバラ?」
「はい。具体的に言うと、我ら四人は傭兵となったり故郷に帰ったりしました。『剛剣』と『双斧』と『烈戟』と『魔氷』と『破拳』は領地に残りました」
ボルフォレはその時に帰って、族長になったと。
まぁ、欲しい情報が手に入ったから良いのだけど。
一度で良いから、子供の顔を見たかったな。
「って、ちょっと待ってよ。『剛剣』『双斧』『烈戟』『魔氷』『破拳』『雷電』『槍聖』『神弓』『爆炎』『踊る牙』『死影』」
「どうかしましたか?」
「いや、こうして数えると十傑衆って言う割に一人多いなと思って」
「そう言えばそうですな」
誰も指摘しなかったから、今まで気付かなかった。
「まぁ、主君。今日はそんな事よりも再びお会いした事を祝い、宴でも開くとしましょう」
「ああ、そうだね」
僕は頭を振って、何ともいえない感傷を振り払う。
そして、ボルフォレと一緒にテントを出た。




