第75話 正体をバラします
「我はエルダー・ダーク・ハイエルフ族族長ボルフォレだ。よくぞ来た。使者殿」
そう言って、ボルフォレは僕に座る様に促した。
座りながら少し考える。
完璧にボルフォレだと分かったのは良いのだけど、どうしたものか考えるな。
ここでもし「やぁ、久しぶりだね」とか言おうものなら、変人扱いされるだろう。
さて、どう話しを持って行こうか。
「話は聞いておる。天人族の使者として来たそうだが。向こうは何と言っているのだ?」
おっと、今はそれよりも天人族の話しをしないとな。
「天人族は、これ以上争うのはお互いに不毛なので、過去を水に流して和解しようと言っています」
「和解。和解か」
ボルフォレはその言葉の意味を吟味するかのように頷く。
う~ん。反応が悪いな。
このままだと、和解は無理になりそうだな。
さて、どうしたものかな。
僕としては、この話は是が非でも成功させたい。
どうにか、うんと言わせたいが、何か難しそうだ。
「……遺恨を流すというが、こちらとしても流せる者なら、流したいと思う」
「では」
「しかし、それは向こうの部族の者が使者で来た場合であればだ」
「それはつまり」
「我らは魔国に従属するつもりはない。その魔国の使者を、自分達の部族に言葉を伝える部族とも和解するつもりはない」
「であれば、天人族の使者が来たら和解するんですか?」
「ふん。少しは考えるだろうな」
「何故、そこまで魔国を嫌うのですか?」
思わず訊いてしまった。
何となくだけど、従属しないのは何か理由がある気がした。
「それは……」
ボルフォレは後ろを振り返る。そこには一本の剣が飾られていた。
あっ、あれは、確か僕がボルフォルにあげた剣だ。
確か、神金剛と神鋼と魔法銀を混合したら、何が出来るのか実験したら凄い硬い合金が出来た。
名前は思いつかなかったから、適当に超合金(仮)とか名付けたな。
で、その合金でボルフォレには剣を与えた。
他の人には、鎧やら槍やら色々与えた。
その剣を見るという事は、前世の僕に何かしらの思いがあるという事か。
だったら。
「すいませんが。族長と二人だけで話がしたいので、皆さんは出て行ってもらえませんか」
僕はそう言う。
「何を言うかっ」
「族長と二人きりにしたら、貴様が何をするか分からないでは無いかっ」
流石に側近の人達は反対した。
「どうしても、族長にだけ話したい事があります。そこを、そこを曲げて何卒お願いします」
僕は頭を下げて頼み込む。
それを見て、側近の人達はなおも言おうとしたが。
「静まれ」
ボルフォレが一喝で、場は静かになった。
「使者殿がそう言うのであれば、してやろう」
「族長っ」
「儂を殺す事など出来んよ、もし、出来たとしてもここから逃げ出すなど不可能だ」
「それは、そうですが」
「という訳で、皆、外に出よ。話が終ったら呼ぶ故」
ボルフォレにそう言われて、皆渋々だがテントの外に出て行く。
最後の一人が出て行くと、ボルフォレは立ち上がり、後ろに飾っていた剣を持った。
そして、ボルフォレは座り、その剣を自分の前に置いた。
「ここからは発言一つで、この宝剣の錆になると思え」
「話を聞いてくれて、ありがとうございます」
僕は頭を下げると、ボルフォレは手を横に振る。
「ふん。儂と話がしたいと言うのだ。殺すにしても、話を聞いてから殺しても問題なかろう」
殺すの前提に聞こえるのは、気のせいだろうか?
「それに、……その目が我が主によく似ている」
「主?」
「この剣を儂に下賜した御方だ。もう、会う事も出来ぬがな」
残念そうに悲しそうな声で、剣を見ながら呟く。
「そんなに凄い方だったんですか?」
ボルフォレからみたら、僕の事をどう思っていたのか気になり訊ねた。
「そうよな。大将に必要な才である。知、勇、忠、仁、義、武の六つの内の武以外、全て持っていた」
え、ええ。そうだったかな。
思いっきり、色々と足りないと思っていたのだけど。
「あの方は、魔法は使えたが直接戦闘はからっきしでな。時たま、付近の集落を襲う魔獣の討伐に行こうとしたのだが、我らはよく止めたものだ」
ああ、弱い魔獣が集落の周りをうろついていると聞いたから、討伐部隊を編成して、僕も一緒に行こうとしたら、周りの人が止めたのは、そういう理由だったのかっ。
転生して初めて真実を知った。ちょっとショックだ。
「あの頃は、本当に楽しかった」
心の底から楽しそうに笑っているボルフォレ。
「十傑衆は人間以外にも居たけど、今はどうなっているか知っている?」
「今でも連絡を取っているのは『雷電』と『槍聖』の二人だけだが、……って、何を聞いているんだ。貴様は⁉」
ボルフォレが言った『雷電』と『槍聖』は二つ名のようなものだ。
確か、二人は竜人族と鬼人族だったな。
そうか。二人は元気なのか。
「十傑衆の内に『剛剣』と『双斧』と『烈戟』と『魔氷』と『破拳』の五人は人間だったから、もう死んでいるだろうけど、他の三人は? 『神弓』は仲が悪かったから分かるけど、『踊る牙』は? そんなに仲は悪くなかったと思ったけど」
『神弓』はエルフの所為か、ボルフォレとは相性が悪かった。もう一人の『踊る牙』は十傑衆で唯一の女性だ。種族は珍しい混血で確か、天人族と魔人族との間に出来た混血とか言っていたな。
でも、僕としては何も問題なかったので雇ったけどね。
ちなみに、ボルフォレの二つ名は『爆炎』だ。エルダー・ダーク。ハイエルフとは言え、エルフなのに何故か炎系の魔法が得意だったので付いた。
もう一人の『死影』については、まぁ、よく僕に仕えてくれたなとしか言えなかった。
それだけ特殊だからな。彼は。
「『死影』は多分、大丈夫だろう。そう簡単にやられるような奴じゃないから」
「ちょっと待て」
ボルフォレが僕を言葉を止めた。
「貴様、どうして我ら『十傑衆』の二つ名を知っている。この地で知っているのは、儂とチョルヌイしか居ない筈だぞ」
「へぇ、チョルヌイも居るのか。今でも大事に使っているかな。僕が渡したミスリルの槍」
「な、何故、槍の事をっ、それに『渡した』だと?」
「あっ、ごめん。話していてすっかり言うのを忘れていたね」
僕は頭を掻いてから、ボルフォレを見る。
「僕だよ、イノータだよ」
「はぁっ⁉」
そう言われて今日一番、意味不明な顔をするボルフォレ。
正直、笑えた。




