第87話 首都に向けて進軍
翌日。
朝日が出て来るとほぼ同時に、鐘の音が鳴った。
その大きさには流石の僕でも起きた。
「もう、出陣⁉」
僕は慌てて着替えてテントを出た。
「起きろ! 朝食が済んでいない者は直ちに済ませろ。食べ終わり次第装備の確認。陣営はこのままにして出撃が出来た部隊から順次出陣。敵の首都を包囲して命令があるまで待機せよ!」
レオン騎士団長の号令で、兵士達は慌ただしく駆ける。
僕はと言うと、特にする事がない。
何せ、準備ならもう出来ているし、僕は本陣付きなので出陣するのは最後の方だ。
なので、ゆっくりできる。
「さっきの鐘で目が覚めたし、出撃まで少しグリフォンの相手をしよう」
僕は乗馬? であるグリフォンが繫がれている所に向かう。
「グリリりリリッ!」
「おお、よしよし。今ちゃんと餌をあげるからな」
僕はグリフォン様に用意した一角ポークという魔物の腿肉を二つ持ってきた。
一つ一キロはあるであろう肉の塊を、朝から二つも食べるのは凄いと思う。
別に生肉でも良いのだろうが、折角のなので塩と胡椒で味を付けて焼いてから持ってきた。
「ガブガブガブッ‼」
「はっはは、すっごいがっつくなっ」
僕はその食べる姿を見ながら器に水を注いで傍に置く。
喉が渇いたら、水分を取らせる為だ。
そうして食べている姿を見ていると、影が僕を覆い隠した。
誰か後ろに居るようだと思い、振り返るとそこには椎名さんが居た。
(し、椎名さん。な、なにか用かな?)
言葉にしなかったが、そう思ってしまった。
何せ、こちらの世界に来てから愛が重くなった気がする。
なので、もし会う時は極力二人きりは避けていた。
もし、会う場合は誰か一人一緒に会うようにしていた。
まずい事に今は、誰も居ない。正確に言えば、グリフォンが一匹居るが、少々まずい。
「えっと、おはよう。椎名・・・・・・雪奈さん」
椎名さんと言おうとしたら、ブリザード級の眼差し僕を見るので、止めて下の名前で呼ぶ。
「うん。おはよう、猪田君」
「雪奈さんは準備とかしなくてもいいの?」
「うん。わたしは別に用意する物とかないから」
「そっか・・・・・・・・」
会話が途切れた。よし、餌を取って来るとか言ってこの場を離れよう。
戻ったらいるかも知れないから、誰か連れて戻ろう。
と言葉に出そうとしたら、椎名さんに先に言われた。
「ねぇ、猪田君」
「な、なに?」
ちょっと声が裏返った気がするけど気のせいだ。
「この戦いが終わったら」
(へ? また?)
昨日はマイちゃんとユエに言われて、今日は椎名さんか。
最近はこう言うのがブームなのか?
「話したい事があるんだけど、いいかな?」
「・・・・・・うん、いいよ」
「そう、良かった」
椎名さんは微笑むと、この場を離れて行った。椎名さんが見えなくなると、安堵の息を吐く。
「ふぅ~、今日は特に問題が起こらなかったな」
そう言って、気持ちを切り替える。
グリフォンの頭を撫でる。
「昨日から『この戦いが終わったら』が続いて正直ビックリだよ。僕なんかが、そんな事を言われるなんて、もう一生分の運を使い果たした気分だよ」
「クルルル」
何だろう? 何故かこのグリフォンに呆れられている気がする。
「そう言えば、今更だけど、お前に名前を付けてなかったな」
「クル?」
「良い機会だから。名前を付けるか。どんな名前にしようかな」
少し考える。このグリフォンの体毛は白いから白にちなんでつけようか。
「後カッコ良さそうな名前だな。確かグリフォンって、七つの大罪の象徴であったな。なんだけっけ?」
憤怒は確かドラゴンだったから、暴食は蠅だし、嫉妬は蛇だ。怠惰は熊で、強欲はキツネで色欲は山羊だ。残るは。
「そうだ。傲慢だ。傲慢はラテン語でスペルビアで英語だとプライドだ」
白にそれらをつけてしっくりるのは。
「・・・・・・うん。決めた。お前の名前はヴァイドだ」
「クルルルル?」
「まぁ、ヴァイスにプライドを着けただけなんだけどね。とりあえず、今日からお前はヴァイドだよこれからもよろしくね」
「クル、クルルルル‼」
ヴァイドは嬉しそうに吠える。
そうして、ヴァイドと戯れていると、本陣の出撃準備が整い、ヴァイドに騎乗する。
「進軍開始‼」
その号令の下、本陣は駆けだした。
僕達が首都に着くと、他の各種族の軍が首都オレバーツビムアを完全に包囲していた。
到着して直ぐに陣ぶれが行われた。
先陣、戦士団。
右翼、騎士団。
左翼、魔獣騎兵団、遊撃軍団、竜騎兵団の混成軍団。
中央、近衛兵団。
後陣、魔法師団。
という陣ぶれだ。
先陣の戦士団と右翼の騎士団と後陣の魔法師団は中央の近衛師団はそれぞれの団長が率いるが、左翼の魔獣騎兵団、遊撃軍団、竜騎兵団の三つの軍の混成軍団を率いるのは、遊撃軍団の団長アドラー・フォン・マイヤーズ軍団長だそうだ。
アラフィフの男性で、ロマンスグレーという表現がぴったりの紳士だ。
キザな口髭をした男性でやることなす事全てキザだが、王国軍の軍団長の中で一番の人格者だと思う。
また、二男三女という子福者で、会う度にと娘を嫁に貰わないかと言ってくる。勿論断っている。
そして陣ぶれの最中、本陣に向かう途中で袖を引っ張られた。
誰が引っ張るのだろうと思い、振り返るとそこには村松さんが居た。
「どうしたの? 村松さん」
「むぅ~、あたしの事はセナって呼んでいったのに~」
「ごめんごめん。あまり、呼び慣れないから。それで何か用? むらじゃなかった、セナさん?」
また、村松さんと言いそうになったので慌てて言い直した。
「あたしさ、先陣に行くから、その前にイノッチと話したい事があるんだ」
「話?」
「うん。あたしさ、・・・・・・・・イノッチの事が好き」
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
はい? スキ?
鋤の事か? いや違うな。数寄の方か?
それとも、隙の方か?
もうすぐ戦争が始まるから、隙が有り過ぎると言いたいのだろうか?
「ねぇ、ねぇってば」
はぁっ⁉ うっかりしていた。
あまりにも言われた事がなかった言葉を聞いて、僕の頭がショートしてしまったようだ。
「イノッチ、返事は?」
「・・・・・・・・・・それ、冗談じゃなくて?」
「怒るよ」
無表情で言うので、本気だと分かった。
「すいませんでした!」
僕は平謝りした。
「それはいいから、返事は?」
謝る事よりも返事が大事ですか?
う~ん、何と言えば良いのか。
「その、実は」
僕は言葉を続けようとしたら。村松さんが人差し指で喋るのを封じた。
「分かってる。実は第二王女様と魔法師団団長と一夜を共にしたのは知ってるから」
「えっ⁉ 何で知っているの?」
「ふっふ~ん。女子の情報網を侮らない方が良いよ。イノッチ」
得意げな顔で笑う村松さん。
クラスメート達はまだ誰も知らないのに、どうして?
「て言うのは嘘で、本当は偶々朝の散歩をしていたら、イノッチの部屋から王女様が出ていくのを見たんだ。王女様が歩くのも大変そうにしていたから、ピンと来たんだ」
う~ん。まさか、そんな所から見られていたとは。
「だから、あたしはそうね、お妾さんでいいから」
「はい?」
「正室は多分あの王女様でしょう。側室はあの魔法師団長とユエッちとかだろうから、あたしは愛妾でいいから」
「・・・・・・普通、其処は正室が良いとか言わないかな?」
「愛妾って、あたしにピッタリじゃん」
「いや、そんな事ないから」
僕はツッコミを入れる。
「兎に角、イノッチが元の世界に戻っても、この世界に居ついてもあたしは愛妾で死ぬまで傍に居てあげるね」
太陽のような笑顔でそう言う村松さんは正直、可愛いと思った。
「じゃあ、返事はこの戦争が終わってからでいいから、まったね~」
そう言って、先陣向かう村松さん。
僕は少し呆然としていたら、本陣付きの参謀が僕を見つけて声を掛けてくれた。
そこで正気を取り戻した僕は、慌てて本陣に向かう。
本陣に着くと、アウラ王女がここら辺を大まかに記した地図を見る。
アウラ王女は腕を組んで一言も発しない。
そろそろ陣ぶれは終わる筈だ。
終わり次第、何処かの軍で首都を人当たりさせる筈だ。
そう思っていると、伝令が本陣に入って来た。
「伝令! 先陣の数キロ先に魔人族と思われし者がおり、総大将閣下と話がしたいとの事」
「その者は名を名乗ったか?」
「はっ、自分はツシカーヨロウリと名乗っています」
えっ⁉ それって魔人族の王様の名前じゃんないか⁉
何で、ボスが出て来るの⁉
伝令の報告を受けて、僕達は先陣に向かう。
まだ防御陣地などを建造途中で、そこいらに柵に使う木とか逆茂木などが置かれていた。
カシュー戦士長を探すと直ぐに見つかった。
「姫様っ」
「カシュー、魔人族の者は何処に居る?」
「あそこにおります」
カシューが指差した所、陣の直ぐ傍で角が生えた白髪頭の壮年の男性が居た。
白哲の顔。米神の所から牛のような赤い角。目が黒かった。
瞳の部分は金色であった。
「あの人が?」
「うむ。魔法でここまで来たのか、突然現れ自分の事をツシカーヨロウリだと名乗り『此度の連合軍の総大将と話がしたい取り次げ』と言ってきた」
「成程。どうしますか? 王女様」
王女様の側近のハマーンが訊ねた。
「どうもこうもない。話に来たのだから話しぐらいは聞いてやろう」
アウラ王女がツシカーヨロウリと名乗った者の傍まで行く。
「わたしが此度の連合軍の総大将アウラ・エクセラ・ロンディバルアだ。そなたの名は?」
アウラ王女がそう問いかけると、男は王女様を真っ直ぐ見て口を開いた。
「わたしが第二十代魔王ツシカーヨロウリなり、そちが総大将で相違ないな?」
「如何にも。魔王陛下」
アウラ王女は恭しく一礼した。
「それで、魔王御自らここに来た理由を聞いてもよいか?」
「なに、戦を始める前に総大将の顔ぐらいは拝んでおこうと思ってな」
「ならば、会った感想をお聞きしたい」
「なかなかの強者と見た」
「・・・・・・褒められたと解釈しておこう。それで他に要件は?」
「ならば、一言」
ツシカーヨロウリがそう言ってから、少し間を開ける。
「よくぞ、ここまで来た。ここからは我が魔法を持って歓待してやろう‼」
そう言ってツシカーヨロウリは手を翳した。
「いでよ。我が軍勢‼ 『魔王の軍勢』」
ツシカーヨロウリがそう叫ぶと首都上空を覆っていた黒い霧が突然蠢きだし、散り散りとなって地面へと落ちた。
その黒いモノが地面に当たると、その場で広がりだした。
底なし沼のような、コールタールのようなモノが広がった所から、何かが這い出て来た。
全身黒い甲冑で身を包み、盾と剣やら槍やら弓を持った兵士達だった。
黒い鎧の兵士達は出てきて直ぐに動かなかった。ただ、赤い瞳でぼんやりと前を見ている。
「これぞ、我が魔法『魔王の軍勢』よ。我が魔力が続く限り無尽蔵に生み出される不滅の兵達だ‼」
「あの兵士、全部魔法なのか?」
「この無限に生み出される兵士達の海を越え、首都を守る四魔将を倒す事が出来れば、王宮の玉座への道が開かれる。見事、我が元まで来るが良い! はっはははは⁉」
ツシカーヨロウリはそう言って、転移の魔法を使ってその場を離れた。
「ふっ、面白い。それにどうやら敵は籠城ではなく、総力戦を仕掛けてきたようだ」
「どうなさいますか?」
「無論、敵が総力戦を仕掛けるのではあれば、それに応じるまで」
アウラ王女は腰の剣を抜き天に翳す。
「全軍に通達。これより総攻撃を行う。死力を尽くして城門を突破せよ!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおっ」」」」
その命令は伝令によりすぐさま伝わり、各軍は攻撃の準備を始めた。
いよいよ、最後の戦争か。生き残って返事をしないとな。




