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公爵長男の保身~魔王になんてなりたくない!~

作者: rourou

かろうじて生きています

 ゼントラーディ・グラウ・ハシュムペリア

 

 俺の名だ。

 

 「魔を討つ聖女と勇者たち」というゲームで、魔王として君臨し、聖女と勇者に討たれる。

 そんな役柄。

 

 それに気づいたのは俺が3歳の時。気づいた瞬間卒倒した。

 当然だろう。「お前は死ぬ」と神に言われたようなものなのだ。

 

 目が覚めてから、第一に考えたことは『保身』。

 魔王なんてものにならず、非行に走らず、真面目に。そう、真面目に生きるのだ。

 

 幸いにして身分は公爵長男。

 金もコネもある(親が)。

 

 目覚めたその日から、俺は一心不乱に努力した。前世(?)でした努力など努力ではないというほどに。

 

 勉学に励み、武術を嗜み、魔術を磨いた。

 

 魔物も倒しまくった。

 この世界にはレベルがある。

 万が一。そう、万が一に備えてレベルも上げまくった。死に物狂いで。

 

「ハシュムペリア家の未来は明るい」

 

 そう両親に言われるくらい努力しまくった。

 

 

 

 慈善活動も行った。

 当然である。魔王なんぞとは正反対の存在にならねばならないのだ。

 孤児院を作り、食うに困った民草のための支援事業も立ち上げた。

 

 『ハシュムペリア家の慈愛』と呼ばれるようにもなった。

 

 そんな中でふと思い出したことがある。

 将来俺を殺す予定(仮)の聖女は平民であることを。しかも、孤児であることを。

 

 コネを使った。

 

 幼い聖女を、我がハシュムペリア公爵家の筆頭執事・バリア・シュイーズの義娘とし、侍女(見習い)として雇うことに成功した。

 そこで、如何に俺が善人であるか、領民のために身を粉にして働いているかをアピールした。

 アピールしまくった。

 結果、聖女・ハウナ・シュイーズは心底から尊敬の念を以って俺を慕うようになった。

 

 これで俺の未来は明るい…とはならない。

 

 

 

 俺の体質のせいだ。

 

 『インキュバス体質』

 

 これが俺を魔王に変えた。

 成長と共に徐々に体質が発現していき、セントニクス魔法学園に入学するころには異性全ての視線と心を奪い去るようになる。

 

 聖女・ハウナ以外の異性を。

 

 そして調子になってハーレムを作り続け、王国に君臨することで魔王となるのだ。

 

 この体質を変えることはできない。

 だからと言って異性に粉をかけることはしない。絶対にしない。鋼の意思をもってしない。

 

 既に侍女たちが俺に向ける目がハートマークになっている。

 なんなら母親のエリナ・グラウ・ハシュムペリアすら目がハートマークになっている。

 俺の世話係は奪い合い。洗濯係など殺し合いに発展しそうな勢いだ。

 

 唯一の例外がハウナ。彼女にだけはこの体質の効果が効かない。

 

 彼女だけは理由なく俺に惚れることはなく、自己鍛錬や慈善活動に勤しむ俺を尊敬の目で見てくれる。

 

 

 

 ある日、ハウナに聖なる魔力が発現した。

 ハウナの義父にして、筆頭執事・バリアは大喜び。

 俺も表面上は大喜び。


「お前は聖女になるんだ、ハウナ」


 周りの狂騒に困惑するハウナに、何度もそう言い聞かせた。頼むから俺を殺さないでくれと願いながら。

 

 ハウナに侍女としてではなく、聖女としての教育を行い始めた。

 

 

 

 そしてやってきた。

 

 『セントニクス魔法学園』の入学届。

 俺とハウナの二人分。

 

 ぜひとも俺のお付きの侍女に、と懇願する侍女たちを説得(無理矢理置いてきた)し。

 

 俺たちは入学した。

 

 入学初日。

 

 熱っぽい視線を、長年に渡り鍛え上げた気づかぬふりでやり過ごし。

 

 鑑定石に手を触れた。

 

「…………ゼントラーディ・グラウ・ハシュムペリア、レベル、…………………100?…………ぞ、属性は……や、闇…………」

 

 国を興した初代国王でレベル57だったはず。

 

 …………鍛えすぎた。






~~~~~ ハウナ・シュイーズ視点 ~~~~~

 

 私はハウナ。ハウナ・シュイーズ。

 

 ハシュムペリア公爵家に仕える侍女の一人。

 

 幼いころのことは―――――思い出したくない。

 

 でも一つだけ思い出したくなることがある。

 

 それはゼントラーディ様に拾われた日。

 

 小汚い親無しだった私に手を差し伸べる、本当の貴族様と出会った日。

 

 義父(おとうさん)をつくって下さり、帰る場所を作って下さった日。

 

 ゼントラーディ様は誰にでも優しかった。でも御自分にはとても、とても厳しかった。

 

 毎日毎日、学業に励み、武術に励み、魔術に励んでいた。

 西に魔物が出ると聞けば西に行かれ、南にダンジョンが発生したと聞けば南に行かれ、東が不作だと聞けば税を免除され、北がきな臭いと聞けば交渉に出向かれた。

 

 この御方を支えるために私の人生はあるのだと思った。

 

 この心に秘めた感情に蓋をし、侍女の模範として仕え続けるのだ。私は他の侍女たちとは違う。この身が朽ちるまで支え続けるのだ。

 

 

 

 そんなある日のことだ。

 

 私に光の魔力が発現した。

 

 信じられなかった。

 

 光の魔力を操るのは、お伽話の中の聖女様だけ。

 

 そんな力が私に…?

 

 義父(おとうさん)は喜んでくれた。公爵閣下にも褒めて頂けた。ゼントラーディ様には「聖女になるんだ」と何度も言い聞かされた。同僚の侍女たちはゼントラーディ様に夢中で何も頭に入ってなかったっぽいけど。

 

 セントニクス魔法学園に通うため、侍女としてではなく、聖女としての教育を受け始めた。

 

 つまり、ゼントラーディ様と一緒に魔法学園に通えるということ。聖女としての実感はないけど、学習には身が入る。同僚の侍女たちは嫉妬していたけど。

 

 

 

 お伽話の中の聖女様は初代国王様とご結婚なされた。

 

 もし、私が本当に聖女だというのならば。

 

 もしかすると、もしかして、私はハシュムペリア公爵家の一員になれるのではないだろうか。

 

 ゼントラーディ様の、妻として。

 

 異性にモテてモテて仕方がない、あのゼントラーディ様の妻に。

 

 

 

 そしてやってきた。

 

 『セントニクス魔法学園』の入学届。

 

 私の分も。

 

 

 

 入学初日。

 

 相変わらずゼントラーディ様には無数の好意の目が向く。あのお方の本当のお姿を知らない癖に。

 

 ゼントラーディ様が鑑定石に手を触れる。

 

 その結果に、誰しもが目を剥いた。

 

 男性たちは信じられないと顔に描き。女性たちは一層熱のこもった目をゼントラーディ様に向ける。

 

 混乱の渦巻く中、私も鑑定石に手を触れる。

 

「ハウナ・シュイーズ、レベル3。属性は、…………ひ、光…………」

 

 ああ、神様。

 

 私は聖女になります。貴方様の使徒になります。

 

 ですから。

 

 ゼントラーディ様の妻となることをお許しください。

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