番外編 特別な夜、特別な口付け
ささやかではありますが、作者からのクリスマスプレゼントです!!
クリスマス・イヴの夜……VR・MMO・RPGの中ではクラン【十人十色】の面々が集まり、いつもの仲間達で盛大なパーティーが開かれた。
飲み食いして、歌い踊り、互いに交流を深めた夜。しかし宴の時間には限りがあり、お開きの時間が来れば各々ログアウトして眠りにつく。
しかしながら、今年は少し名残惜しそうにしている少女が、最愛の夫……現実では婚約者である少年に、珍しく甘えていた。
「もう少しだけ、ログインしていたい?」
「はい。折角今日はヒイロさんがお泊りにいらしたのに、一緒に眠る事は出来ないでしょう?」
そう言ったのは、青髪ロングストレートの美少女。ギルド【七色の橋】のサブマスターを務める、レンであった。
そんな彼女の言葉に、ギルドマスターであるヒイロは「成程ね」と苦笑した。ヒイロこと星波英雄は、今日は彼女……初音恋の家に泊まりに来ているのだ。
クリスマス・イヴの夜、将来を誓い合った男女。何も起こらないはずが無く……と言いたい所だが、何も起こらないし起こしてはいけない。
なにせ恋も英雄も、まだ学生なのだ。思うままに突き進み、その結果取り返しのつかない事態になったら……それを考えれば、同衾できないのも当然の事である。
英雄も恋も、自分達が子供だという自覚がある。大人達が別々の部屋で眠る様にさせたのも、当然であり納得しているのだ。
しかし、それでも……最愛の人と過ごす、この特別な夜が終わってしまう。それが名残惜しくて、仕方が無いのだろう。
「……あまり遅くなったら、怒られてしまうんじゃない?」
「解っています……だから、本当に……もう、少しだけ」
そう言って、俯くレン。いつもの彼女ならば、小悪魔の笑みを浮かべてからかいの一つでもするだろう。しかし今日はやけにしおらしく、寂し気である。これはつまり、レンの紛う事なき本心なのだろう。
二人だけの、クリスマス・イヴの思い出を共有できれば……ヒイロはそう考えて、レンに一歩近付く。
「レン」
名前を呼ばれてレンが顔を上げれば、目と鼻の先にはヒイロの顔があった。背の高い彼の顔が、自分の顔と同じくらいの位置にある……それはヒイロが、わざわざ彼女に合わせて身を屈めているからだろう。
レンが何かを口にする前に、ヒイロがその唇を自分の唇で塞ぐ。
「ん……っ!?」
唐突な口付けは、普段のそれとは違った。更にヒイロはレンの背中に手を回し、彼女が苦しくない程度に力を籠める。
最初は強張っていたレンだったが、その身体から力が抜け……そして、自分もヒイロの身体に腕を回して抱き締める。
口付けを交わす二人には、どれくらい時間が経過したのか解らなくなっていた。それだけ、そのキスに没頭していた。
やがてどちらともなく距離を取ると、レンは熱を帯びた瞳でヒイロを見上げる。
「……珍しい、ですね」
「まぁ……ほら、特別な夜だから」
普段とは違うキスに、レンの頬は紅潮したままだ。そんな彼女の愛らしさに心を鷲掴みにされつつ、ヒイロはフッと笑みを零す。
「これで、お互いにいい夢が見られそうかな?」
それはレンが寂寥感を感じており、それを緩和するべくしたキスだった。それを理解したレンは、ヒイロの胸元に自分の左手を置き……彼の顔を見上げながら、微笑む。
「ヒイロさんの夢を、見ます。クリスマスプレゼント、忘れずに持って来て下さいね」
「レンの夢の俺が、うっかり者じゃない事を祈るかな」
何でもないような言葉を交わすが、二人の間には甘やかな……それでいて、しっとりとした空気が漂う。
その後、本当に少しだけ言葉を交わして、二人はログアウトする。その時にはもう、寂しそうな少女の姿は無く……愛しい旦那様が夢の中で会いに来てくれるのを楽しみにする、可愛らしいお嫁さんが居るだけであった。
Merry Christmas!!
毎年ヒメノばっかりだったので、今年は趣向を変えてヒイロ×レンにしてみました!!
文章の方もイラストだけではなく、文章面にも力を込めてみた次第。
それでは皆様、よきクリスマスを!!




