第十一話 カラオケ大会
「カラオケ大会をしよう!」
バスケ部のバカ、相沢が言った。
ダンス部が尻馬に乗る。
「じゃあ俺たちは踊るぜ!」
バカなのかな?
完全に「ええじゃないか」状態である。
「俺のたちのイメージは最悪だ……だが幸いここにはチャンネル登録者数250万人のインフルエンサーがいる!」
「そうだそうだ。真田ちゃんやろうぜ!」
「え、え、え、え、えええええええええええ!?」
真田も戸惑ってる。
当たり前だ。
真田のチャンネルは登録者こそ多いが収益化してない。
収益化した瞬間、警察に捕まるからだ。
というか警察にそう宣言された。
アマチュアだから許されているのだ。
「それでカラオケ大会中継してなんの意味があるの?」
「俺たちだって普通の人間なんだって認めさせる!」
相沢は内々に決まってた大学の推薦が取り消された。
そうとう精神がまいってるようだ。
あちこちからキツく言われたのだろう。
もうバスケを続けられないのかもしれない。
「そうだそうだ。俺たちだって人権あるんだぞ!」
大学推薦取り消し組が騒ぐ。
「神宮司くん……断れない空気だよね」
「だね」
断ったら殺されかねない。
もう、ぼくらに勝ちの目はない。
一部は大学に合格するだろう。たぶん。
でもぼくらのほとんどの将来は潰えたのだ。
歌って踊るしかないのだ。
■
大カラオケ大会開催のニュースは校内を駆け抜けた。
野球部の生き残り含む推薦取り消し組はそれにすがった。
「カラオケ大会さえ開かれれば自分たちの未来は開かれる」
そう思い込んだようだ。
典型的な誤認である。
実際はネットミームにされて終わる運命だろう。
ぼくらはまだ進学の勝ち目がある。
一般入試で勝利すればだけどね。
でも体育会のほとんどは難しいだろう。
地元企業に就職希望組も取り消しが相次いだ。
野球部の麻薬製造のニュースが流れたからだ。
そこにの長瀬の遺体が見つかった。
自殺だ。
自分の心臓を包丁で一突きしてマンションから飛び降りたそうだ。
いくらなんでも頑丈すぎない?
それでも自殺らしい。
さらに世論が燃え上がる。
もうぼくらは人殺しするために生まれた殺人コマンドー扱いである。
一部の陰謀論者が長瀬は世界を牛似る秘密組織に殺された説をぶち上げたが相手にされなかった。
どうせお前らの誰かが殺したんだろ?
世論はそう言ってた。
否定できないのが恐ろしい。
とりあえず野球部は解散。
生き残りもSNSで顔と住所に家族の職業までさらされてる。
自業自得とまでは思わないけど、まあ体育会系が大好きな連帯責任だろう。喜べ。
ぼくらの人生も終わりだが、お前らは一人残さず死ね。
ぼくらは一人では死なぬ。
せめて一矢報いねば、死ぬに死にきれない。
ぼくらは勉強そっちのけでカラオケ大会の話をしていた。
学校における教師の権威は失墜した。
誰も話など聞かないし、教師たちも自身の再就職に走り回っている。
我が身かわいさは理解できる。
ぼくたちなんか守る価値はない。
そもそも我々も休校中の学校の校門を強行突破。
窓ガラスを破壊し勝手に押し入った。
警察も止めようとしない。
ただ……ぼくらが殺されないように見守っていた。
そうなのだ。
ショッピングセンターの女子トイレで見つかったバラバラ死体。
それは野球部員の死体だった。
数日前から行方不明になっていたらしい。
だけど親は警察に知らせなかった。
野郎の両親はそれぞれの職場で「強豪高校の野球部でね~」なんていう話をしてたらしい。
なのに野球部に在籍することが末代までの恥レベル。
顔に泥を塗りたくった状態にされたのだ。
両親は本音では死んでほしいと思ってたのだろう。
だから警察に報告もせず放置した。
その結果がバラバラ殺人の被害者である。
かくも人間というものは感情に振り回されるのだろうか?
警察もぼくらを守るのは嫌だろう。
死ねばいいのにと思ってるに違いない。
女子がしくしく泣き出す。
「もうやだよぉ……どうして私たちがこんな目に……」
窓を木製バットで殴り壊した女子が涙を流す。
「そうだよ。パパもママも浪人するお金ないって言うし」
壊れた窓から侵入、内側からドアを解錠した女子も追随する。
「陸上の推薦取り消されちゃった……。親がFラン行くなら金出さないってさ!」
止めてきた警備員にゴネまくったあげくスマートフォンで撮影して退散させた女子も嘆く。
お前ら犯罪者だ。
はっきり言って大半は金の問題だろう。
我ら中途半端な進学校。
大学で勉学に励もうものなどいない。
遊びながらエロいことをして適当な県内企業に就職、できれば公務員になりたいだけだ。
それすら夢のまた夢になったわけだが。
この先絶望しかない。
ダンス部がダンスの練習をしてる。
男子も女子もだ。
それを真田が撮影してる。
誤解を解くための配信とのことだ。
モザイクなし。
顔出しである。
すでにぼくらは顔どころか家と親の職業まで晒されてる。
恐れるものなどなにもない。
軽音も練習してる。
かつてぼくも楽器に憧れたときがあった。
だがソプラノリコーダーで心が折れた。
楽器は鬼門だ。
なので後ろで踊……。
「神宮司くん」
真田が来た。
「なんだいハニー」
奥歯キラン。
「撮影しよ」
「うん!」
さてこんな人がほとんど死なないやりとりが……。
わけのわからない方に転ぶなんて……まだぼくすら予想してなかった。




