第69話 二体目の従魔
「やっぱり付いてくるよなぁ」
お昼ご飯を食べ終わって帰り支度をしながら、クレイブがため息をついている。
その原因になっているのはもちろんルナールだ。なぜかさっきから私にまとわりついてきて離れようとしないのだ。レアな魔物と言っていたのは何だったのか。
『触れられるのがよっぽど嬉しいらしいな』
キースが気になることを伝えてくるけど反応するわけにもいかない。触られるのが嫌じゃなくてむしろ嬉しかったのか……。でもここで理由を聞くわけにもいかない。
それにしてもなんであの時驚いてたんだろうな?
「それにしてもすごいふわふわ」
ルナールの茶色い毛がすごく気持ちいい。スノウは大きいから背中に手が届かないんだけど、ルナールは一回り小さくてぎりぎり背中を撫でられる。ちょうど目の前に体がくるので抱き心地も抜群だ。
「アタシも触っていいかな……」
ルナールの横っ腹に顔を埋めていると、マリンがうずうずした様子で恐る恐る近づいてきた。ルナールを伺えば近づいてきたマリンを警戒しているけど、逃げる様子は見せない。
「あー、うーん、やめておいたほうがいいかも?」
なんとなくだけど、らいらからバチバチするイメージが伝わってくる。と思ったら私の髪が逆立った。
「うわっ」
「な、なんだ?」
全員に注目されているけど私は何もやっていない。ルナールに触るとなんでか髪が逆立つから、らいらに抑えてもらっているだけだ。よく見ればらいらもルナールにまとわりついているし、同じ雷を操るってことで相性がいいのかもしれない。
「どうなってるのよソレ……」
マリンが私の髪に触れるも特に何も起こらない。
「きゃっ」
そのままルナールを触ろうと手を伸ばしたところでバチッと音が響く。
「いた……くはないけど、今の何!?」
手を引っ込めてさすりながら、マリンが私とルナールを交互に見やる。
「なんだなんだ?」
クレイブも興味深そうにやってきてルナールに触れると、同じようにバチッとなって手を引っ込めている。
「こりゃー、冬によく起こるあれか……?」
あれってなんだろう。冬にバチッてなる現象なんて聞いたことないんだけど……。
フォレストテイルの他のメンバーも面白半分にルナールに触れるが、もれなくバチッとなっている。
「つーかなんでお前はならないんだよ」
クレイブが眉を寄せてジト目を向けてくるけどそんなの知らない。いや嘘です、たぶんらいらのおかげです。
「なんでだろ? でももふもふできるならそれでいいし」
スノウとは違ったもふもふ具合が気持ちいい。
「それよりもだ」
最後の荷物を鞄に詰め終えたクレイブがルナールを一瞥する。
「恐らくこいつが、終焉の森から出てきた魔物だと思うんだが……」
あ、やっぱり。
「そうね。茶色い体に二本の角。間違いないと思うわ」
クレイブとマリンの言葉に、トールとティリィも同意するように頷いている。
「まさかアイリスがテイムしちまうとはなぁ」
「えっ?」
思わずルナールを見るけど何のことかよくわかってなさそうだ。私だってテイムしようと思っていたわけでもない。
歩き出したクレイブについて街へと戻る道を進んでいくと、当然のようにルナールがついてくる。
「じゃあアタシは先に行ってるわね」
「ああ、頼んだ」
スノウと一緒に初めて街に来た時を思い出す。あの時もこうやってマリンが街に知らせてくれたんだっけか。
しばらく歩けばすぐに街に到着する。門の前にはすでに門番が待機していて、私たちが視界に入ると身構えた。
「またお前か」
クレイブが「よう」と手を挙げると、門番が苦笑してそう告げる。
「俺じゃねぇよ。全部この坊主だよ」
指をさされたけどなんのことだろうか。街に魔物を連れてきたことなら私のせいかもしれない。でもここにはテイマーギルドもあるんだし、街の外から魔物を連れてくることなんて、滅多にないかもしれないけどゼロでもないのでは。
「坊主って……」
門番から視線をもらうけど、私を見て眉間に皺が寄っている。
「どう見ても女のガキにしか見えんが……、ってアイリスちゃんか」
よく見れば初めて街に来た時に対応してくれた門番だった。屈みこんで私と視線を合わせると、笑顔で私の頭に手を乗せて優しく撫でる。
「またすごい魔物をテイムしたもんだな。きっとテイマーの才能があるんだろう。ただ、テイムした魔物が制御できなくならないようにだけは気を付けるんだぞ」
「あ、はい」
言われてみれば当たり前の話だ。スノウは信用しているけど、ルナールは私の言うことを聞いてくれるんだろうか。
ちらりとルナールを振り返ればしっぽがゆらゆらと揺れている。目が合うとしっぽの揺れがちょっとだけ大きくなった。
「おいで」
声をかけると近づいて顔を寄せてきたのでもふもふしてあげる。そういえば名前もつけてあげないとダメだな。ルナールって種族名だろうし。
「はは、その様子だと大丈夫そうだな」
「はい」
「よし、じゃあテイマーギルドに行くぞ」
門番との話が終わったところでクレイブが宣言する。確かに、ギルドに登録しにいかないとね。
こうして街の門をくぐった私たちはテイマーギルドへと足を向けた。




