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無才王子は国を離れてスローライフを満喫したい  作者: m-kawa
第二章 始まりの街アンファン

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第58話 やんちゃ坊主と先生

 市場を通り抜けてさらに東へ進んで行くと、宿や飲食店が増えていく。ちらほらと住宅も広がっているようだ。飲食店の前で飲み物が売っていたので、果実とミルクを混ぜたジュースを手持ちのカップに入れてもらう。近くに休憩できる公園があると聞いたので向かうことにした。


「うーん。やっぱり街の中といえど、緑があると癒されるね」


 たどり着いた公園のベンチに座ってジュースを一口飲む。甘みと果物の香りが鼻を突き抜けてきて、とても美味しい。


「いろんな果物を混ぜてもよさそうだ」


 市場で食材を色々見たせいか、考えることは料理方面になっている気がする。材料もいろいろ買ったし、明日は自分で作ってみるのもいいかもしれない。

 こうしてベンチに座って足をぶらぶらさせていると、無難な生活ができてるなーとすごく実感する。


「それにしても……、おなかいっぱいになったからか眠くなってきたなぁ……」


 木漏れ日が気持ちいい公園である。そよそよとそよぐ風が心地いい眠気を誘ってくる。一緒にいるスノウも大きく欠伸をしている。

 だけど昨日は昼寝をしてやらかしているのでここは耐えるのだ。


「あぶない!」


「ふえっ?」


 だがしかし、うつらうつらしていたようで急にかかった声にちょっとだけ意識が覚醒する。

 目に入ったのはこっちに向かって飛んでくる丸いボールみたいなやつで、私の顔にぶつかる前にいしまるが防いでくれていた。


「うひゃっ!」


 でもびっくりしたことには間違いはない。手に持っていたジュースを地面に落としてしまった。


「だ、だいじょうぶか……?」


 二人組の男の子が伺うようにして私の顔を覗き込んでくる。

 私よりちょっとだけ背の高い、茶色い髪を短く刈り込んだ男子と、ダークブルーの髪をざんばらに散らした男子だ。


 二人ともスノウを気にしているようだけど、ボールがぶつかったと思っている私を心配しているようだ。


「あっ」


 茶色い髪の子が地面に落ちたカップとジュースに気が付いて声を上げる。


「ご、ごめんな」


「けがはなかった?」


「あ、うん。大丈夫だよ」


 一気に目が覚めたのでむしろありがとうございます。

 もちろんそんなことは口には出さないけど。


「……お前、うちに来いよ。飲みものこぼしたお詫びに、お茶出すから」


「「えっ?」」


 急にそんなことを言い出した茶色い髪の子の言葉に、私ともう一人の男子の言葉がかぶる。


「そ、そんなことしたら……」


「ちゃんとせいいってやつを見せないとダメだろ? それに悪いことして黙ってたら悪い大人になるって先生が言ってただろ」


 慌ててやめさせようとするけれど、茶色い髪の子が正論でばっさりと切り捨てる。正論は正論なんだけど、家に招いてお茶を出すって、どうなんだろうか?


「ほら」


 微妙な提案に考え込んでいると、有無を言わせぬように腕を掴んで引っ張ってきた。そのままストンとベンチから地面に着地すると、私を引っ張って公園の奥へと進んで行く。


「あ、ちょっと、まって」


「えんりょなんかしなくていいから。うちはそんなにお金ないけど、お茶くらいは出せるから大丈夫」


『やけに強引な子どもだな。アイリスでももうちょっとモノを考えて発言するぞ?』


 元三十一歳と正真正銘の子どもを比べてどうするんだよ。と出かかった言葉を飲み込む。


 何が大丈夫なのかわからないけど、お金がないとか言われるとすごく不安になる。いやお茶を出して欲しいわけじゃないけど、なんというか強引な男子だな!

 助けを求めるように振り返ると、後からダークブルーの髪の子がボールを持ってついてきており、スノウも落としたカップを咥えてついてきている。ただし、男の子はなんとなく諦めの表情だ。

 いやそこは諦めずに説得して欲しいところなんだけど。


「ほら、ここだよ」


 公園の奥の出口を抜けてすぐに、その建物はあった。お金がないという言葉に反して庭は広く、建物もそれなりに大きい。躊躇なく門をくぐると私の腕を引っ張ったまま建物の玄関へと入っていった。


「先生ただいま!」


 声はかけるけどさらにそのまま奥へと進んで行く。もう一人の男の子も小さい声でただいまと言うだけは言っている。

 それにしても先生ってことは、ここは一般家庭じゃなくて学校とかなんだろうか?


「ちょ、ちょっと、どこまで行くの?」


 なんとなく振りほどくことができずに付いてきたけど、そろそろ止めたほうがいいのではないだろうか。スノウも建物の中まで入ってきちゃって……るしもういいか。


「ん? 食堂だけど」


「そ、そう」


 私をこんなところまで連れてきてよかったんだろうかと、なんで私が心配しないといけないのか。私をひっぱってきたこの子が悪いんだからして、もう成り行きに任せることにした。振りほどけないことはないけど、腕を掴んで離さないのはこの茶色い髪をした男子なんだから。


「ケイル、早かったわね」


「あ、先生! お茶ちょうだい! 三人分!」


『やっぱりバカなんじゃないか?』


 キースさんや……、もうちょっと言葉は選べないのかい。


 廊下をずんずんと進んで行った先の左側の部屋へと入ると、先生と呼ばれた女性が椅子に腰かけて何かの書類をじっと読んでいた。


「あら……、その子――ひゃああぁぁぁ!」


 私に気が付いた先生が訝し気にしたかと思うと、後ろから現れたスノウを見て腰を抜かして椅子から転げ落ちる。


「あ! 先生!」


 私もびっくりしたけど、大きな虎の魔物を見た一般人の反応と言うのはだいたいこんなものなのかもしれない。

 さすがに私の腕を掴んでいた手を放して先生に駆け寄る男子たち。


「びっくりさせてごめんなさい。この子は悪い子じゃないので」


 安心させるように私はスノウの首を撫でて、少し遠くから声を掛けるのだった。

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