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第93話 凱旋祭1日目・おまつり

 ついに凱旋祭の当日となった。

 祝砲が晴れた青空に響き渡り、西地区はこれまでにない人だかりでにぎわっていた。


 人ごみが苦手な僕としては辟易へきえきとするばかりだったけど、隣にはラスがいる以上、文句も言っていられない。

 それに今日は懐かしい顔ぶれもいるのだからなおさら。


「うわぁ! すごい人! ね、お姉ちゃん、カミュ、お祭りってはじめて!」


 従妹いとこのカミュが小さな瞳を輝かせている。


「ふーん、父さんに連れて行ってもらったゴサの祭りには劣るかな」


 その隣で小生意気なことを言うトウヨも、なんだかなんだ言って楽しそうに頬をほころばせている。


 そう、今日はザウス国にいた従兄妹の2人を交えてのお祭り見学となっていた。


「あの、すみません。今日はわざわざ」


 トウヨたちの侍女、セイラさんが深くお辞儀をしてきた。

 彼女もあのザウス国からの逃亡劇で苦楽を共にした人だ。


「いえ、僕としても2人のことが気になってたので」


 頭を下げるセイラさんに、そう言って安心させる。


 それは嘘じゃなかった。

 彼らは僕――もといイリスからしたら従兄妹だし、彼らの父親から託されたこともある。

 それに、彼らが軍部に拘束されたと聞かされたし、なにより――


『僕に、戦い方を教えてください』


 そう言った時のトウヨの瞳に禍々しい光があったのが気になっていた。


 とりあえず見る限りは、2人とも元気そうで何よりだったわけで。


「ラスお姉ちゃん! あっち! すごい人だかり! いこ!」


「はい! 大道芸人さんですね!」


 どうやらラスの人当たりの良さも相まって、特にカミュは早々になついたらしい。

 ラスもなんだかんだで面倒見がいいよな。


「あれから、大丈夫でしたか? 侍従長とか?」


「ええ、侍従長は今、新居のことでマーナと大忙しです」


「そうですか、それは大変ですね」


「そうなんですが……」


「何か問題が?」


「あ、いえ。私的なことで。私もお手伝いをしたかったのですが……」


『そういうのは良いので、若たちの面倒をみていてください』


「と言われまして」


「はぁ……」


 なんていうか、厄介払い感がすごいな。

 もうちょっといい感じに言ってくれればいいのに、侍従長。

 いや、その言い方だからこそ侍従長か。


「けど、2人とも元気ですし。セイラさんには心を許してくれてるんだと思いますよ」


「……はい! ありがとうございます!」


 とりあえずフォローをしておいたけど、満面の笑みを向けられていいことをした気分になった。


「あの、イリス姉さん」


「ん?」


 突然、トウヨが僕らの会話に割り込んできた。


 少し険のある表情で、口を開こうとしたが、何かに思い当たったのかうつむき、


「……いや、何でもないよ」


「そう」


 多分、言いたかったことは分かる。

 一瞬、彼の瞳に燃え上がった狂気の光。それが何を意味するのか。


 とりあえず思い直してくれて何よりだけど。心配だな。


 けど、その時はそれ以上はトウヨに聞けなかった。


「2人とも! 何やってるんですか、早く行きましょう!」


「はい! みんなでサーカスを見るんです!」


 ラスとカミュに促され、僕たちは気持ちを新たに祭りに繰り出した。

 楽しい思いをすれば、トウヨの気持ちも和らぐ。そう思ったから。


 というわけでその日は、1日。楽しい時を過ごした。

 人づきあいが苦手な僕としても、なんやかんや充実した時だった。


 様々な屋台に、大道芸のジャグリング。早食いや腕相撲の大会、サッカーらしき球技にダンスの披露。そして、あの菓子職人の人のところに行って飴細工を食べさせてもらった。

 もちろん1日目の目玉であり、僕が一時出ようかと考えた競馬とクイズ大会も開催されたし、そもそものこの祭りの主役、“大将軍”たちの凱旋パレードもあった。


「うわっはっは! 我こそはこのイースを救いし、大将軍! 大将軍なりィィィィ!」


 何もしてない大将軍がそんなことを言いながら先頭を馬に乗って進んでいたのはイラっと来たけど、まぁ一応は軍の総責任者なのだから仕方ないといえば仕方ない。

 その後ろに将軍が黙々と、クラーレが観客を怪しげな視線で見下ろしながらパレードは進む。


 もちろんそこにタヒラ姉さんの姿はなく、その裏にある事情を知っている僕には、このパレードが虚構のうえに成り立つ茶番劇でしかないわけだけど、観客はそうではない。

 自分たちが救われたことに対し、熱烈な歓迎を示し、熱狂し、歓声を送る。


 それがなんとも寂しかった。


 その後、お昼を屋台で食べて、先日招待されたサーカスへと向かうことにした。


「やぁ、よく来たね。黄金色の暗黒獅子王丸も喜んでいるだろう。とくと見たまえ。業炎と渇望かつぼうが渦巻く亡者たちの饗宴きょうえん! 我が“さあかす”の秘儀をご覧あれ!」


 というわけで、僕らはサーカスを楽しんだ。

 子供のころに一度だけ見ただけで、そのすさまじさは筆舌しがたいほどの感激を受けた。


 ナイフが舞い、人が飛び、ライオンが吼える。

 琴さんも日本刀を使っての剣技を披露して大喝采を浴びた。宙に放り投げられた無数の丸太を次々と斬り落としていく様は、まさに達人の技。それにしては中沢琴なんて名前、知らないよなぁ。新徴組、だっけ?


 とまぁそんなこんなでサーカスを見て大満足した僕らは、名残惜しくもその日は解散した。

 彼らと共に過ごしたこの日のこと、僕は一生忘れないだろう。


 なぜならその翌日。

 凱旋祭2日目。


 イース国を揺るがす大事件に、巨大な陰謀に僕らは直面する。



 切野蓮の残り寿命198日。

 ※軍神と軍師スキルの発動により、12日のマイナス。

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