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36.学校祭トーナメント2

 剣術の決勝は前年度の準優勝者と当たる。

 これまたフィリップ王子のお付きだった。

 大きな盾を持ち、防御を硬くする相手。

 回り込もうとはするが盾を中心に正対するため、回り込めない。


 結構面倒だねぇ。


 俺は相手に向かって加速すると、盾に飛び蹴りを放った。

 相手が盾を構えて耐える。

 そのまま盾を踏み台にして背後に回り込むと、俺の重みのせいで盾の動きが遅れた。

 背後へ振るう剣を俺は避けると、肩に一撃を入れる。

「それまで」の声。

 剣術のトーナメントでの勝利が決まった。



 魔術はラインとの戦いになる。

 ラインの魔法の発動に合わせ相反する魔法で無効化する。

 遊びのような時間。

 魔力がなくなって苦しくなってくるライン。

 ラインは、

「やっぱり勝てないわよね」

 と言って苦笑いする。

「でも、最初に比べたら魔力操作が何倍も上手くなってるぞ。

 それに、妻にしようと思う者に負ける気はない」

 俺はそう言って笑った。

 相殺する時の音で、会話は周りに聞こえないだろう。

「そう、良かった。

 だったら納得。

 早く追いついてよ」

 ニコリと笑うライン。

「ああ、しばらく待ってろ」

 魔力がなくなったラインはそのまま崩れるように倒れた。

「それまで」の声で俺は魔術戦の優勝者となる。

 俺はラインに近寄ると、抱き上げ、そのまま舞台を降りるのだった。



 医務室で、

「ライン、大丈夫か?」

「思いっきり魔法を使ったからスッキリした。

 ケインはやっぱ強いねぇ。

 優勝おめでとう」

「ありがとう。

 やっぱ、身内とはやり辛い」

「私もよ。

 まあ、もっと頑張って来年も挑戦しようかしら?」

 俺とラインが話をしていると、

「お邪魔するよ?」

 とイケメンのいい歳の男が入ってきた。

 と言っても、俺もそんな年代だった。

「クレールお父様」

 クレールと言うラインのお父様を見ていると、

「君がケイン君かな?」

「そうです」

「我が娘を妻にしたいとか」

「はい」

「身分が違うが?」

「この学校を出る時に騎士になれば、後は男爵、子爵、伯爵、侯爵と成り上ればなんとかなるかと……」

「ほう、そこまでどうやって?」

 チラリと俺を見るクレール様。

「お金と名声でしょうか?

 クレール様は将軍として兵を動かす立場だと聞いています。

 できれば、私がこの学校を卒業し騎士として独り立ちした際、苦戦している所へ送ってもらえないでしょうか?」

「ほう、わざわざ死地へとな?」

「ええ、負けるとわかっている場所だからこそ、勝てば目立ちますから」

「君は戦況を変えるほどの力を持っていると?」

「それはわかりませんね。

 私も鬼神の息子です、ただでは転びません。

 自分でその場所に行って死んだのならただの笑い者でしょうが、そこで生き残り勝利を得れば……」

「先ずは男爵の道が開くということか……」

「そういうことです。

 そのための残り二年半。

 まずはこの学校の一番を目指します。

 それも、王子の最後の年に、優勝を阻止した騎士として。

 悪名をとどろかせましょう。

 そうすれば、王にも王子にも覚えめでたくなれそうですから」


「妻が言っていた。

『先日は済まなかった。そして、美味しいお菓子をありがとう』と……」

「いいえ、騎士の息子でしかない私が行く場所ではありませんでした。

 しかし、今度は堂々とあの場所に行かせていただきます」

「しかし、ラインは娘だ。

 婚期は早い。

 時間はないぞ?」

「そうですね、だから目立たせていただきます」

 俺はニヤリと笑った。



 俺が舞台の傍で控えていると、金髪碧眼のイケメンが現れた。

「君がケイン君かい?」


 多分リズの兄貴。

 こんどはそっちかぁ……。


「はいケインと申します。

 あなたはフィリップ殿下ですか?」

「ああ、私がフィリップだ。

 エリザベスが世話になっているね。

 いつも君の話をしている」

「こちらのほうこそ殿下に良くしてもらっています」

「さっきのリズとの戦い見せてもらったよ。

 無様にもリズが何かに躓いて倒れた。

 運が良かったみたいだね。

 私たちも最上級生だ、あんな風に運で簡単に負けるつもりはない」

 ニヤリと笑うフィリップ王子。

「こちらも一人だからと言って負けるつもりはありません」

 俺はフィリップ王子を見返して言った。


 本気でフィリップ王子は躓いて倒れたと思ったのか、わざとそう言ったのかはわからない。

 まあ、俺がやれることをやるだけだな。


 そして混合戦の決勝。

「お集まりの皆さま、混合戦トーナメント決勝です。

 出場選手の一組は、我がバレンシア王国王子、フィリップ殿下とその護衛スコット君」

 名前が出ると、二人への歓声が上がる。

「そして、もう一組……いや、一人、鬼神と魔女の息子ケイン君。

 ケイン君は剣術、魔術二つのトーナメントでの優勝を果たしております」

 俺の場合は名前が出ると「ブーブー」とブーイングが飛び出した。


 やっぱり悪役なのかねぇ


 観客席には王と王妃の姿があった。

 貴族が集まり俺とフィリップ王子組を見る。

 そして、父さんと母さんの姿があった。

 二人の目は優しかった。

「好きなようにしろ」

 と言うことなのだろう。

 舞台袖には、カミラ、レオナ、リズ、ラインが居る。


 ここで負けたらカッコわりぃなあ……。


 なんて思いながら空を見ていた。


 戦い方なんてノープランだしねえ。


「始め」

 の声と共にフィリップ王子が薄く輝き加速する。

 連れの魔法使いがフィリップ王子に強化をかけたようだ。

 素早い攻撃が俺を襲う。

 それに合わせて連れの魔法使いは俺にファイアーボールを連射する。


 ファイアーボールって言ってるから、ファイアーボールなのだろうな。

 しかし、ラインより遅い。


 俺は水の弾を高速で発射し全てのファイアーボールを打ち落とすとともに、連れの魔法使いに当てた。

 水の勢いに吹き飛ばされて転がり、意識を失う。

 思ったより早く連れの魔法使いが戦線を離脱したのか、

「チッ」

 と王子の方から舌打ちが聞こえる。

 しかしフィリップ王子には強化がかかっており、何もしていない俺よりも攻撃が速い。

 しかし魔法が使えないフィリップ王子、強化が切れるまでに勝負を終わらせようと近づいてくる。


 こういう時は沼に限る。


 俺は無詠唱で周囲に魔法で沼を作りトラップを仕掛ける。

 と言っても表面の薄皮一枚分は残しておく。

 何も知らないフィリップ王子は俺に近づく。

 すると、足が地面に沈み込んだ。

 そのまま俺は沼を硬化させる。

「フィリップ王子、終わりです」

 俺はフィリップ王子の肩に木剣を置いた。

 審判も終了の声を出していいのか言いあぐねている。


 まあ、審判にもしがらみがあるのだろう。


 フィリップ王子は足を抜こうと必死だ。

 しかし、元の硬度に戻った床は結構な硬さに戻っている。

「私は負けていない。

 私は王子なのだ、負けを認める訳には行かない」

 私が負けたと言わない限り負けはない」

「そうかもしれませんが、負けは負けです。

 戦争の時、王子が負けたと判断するのが遅ければ、死者や負傷者が増えます。

 負けたなら負けたなりの対策を取る必要がある。

 殿に誰を置き敵の追撃を防ぐとか、どこの砦まで戻り防衛をするなど、軍の被害を防ぐため早急な判断が必要になる。

 そして、あなたが敵の手に渡れば、この国の大きな損失になる。

 それを知っていて、負けを認めないと?」

「これはただの模擬戦……、実戦になれば私が勝てる」

 それでも負けを認めないフィリップ王子。

 そんな時、

「フィリップよ、お前の負けだ」

 と観客の中から大きく低い声が響いた。

「父上!

 しかし、私は今年この学校を卒業します。

 その記念なのです」

「バカ者!

 記念だから負けを認めないということがあるか!

 戦場で私の誕生日だから『負け』と言えないというつもりか!

 お前の判断が遅れるごとに、戦場では兵士が死ぬ。

 そしてこの国が疲弊していくのだ」

 皆の前で叱るバレンシア王国国王バージル・バレンシア様が居た。

「わっ、私の負けだ」

 その小さな声が会場に聞こえると、審判が

「勝者、ケイン!」

 と声を高らかに宣誓する。

 そして、トーナメントが終わった。


 王が、

「ケイン君と言ったな。

 フィリップを負かせてくれてありがとう。

 上には上が居るということを身に染みただろう。

 さて、この学校初めての全トーナメント勝利。

 それも複合戦では単独での出場。

 それも君は二年生だ。

 これ以上の難易度は無いな。

 何か褒美をやらねばならぬ。

 何が欲しい?」

 と聞いてきた。

「そうですね、爵位が欲しいと思います」

「鬼神に?

 それとも君に?」

「私にです」

「ふむ……、そうだな、報告で聞いたが、昨年の学校祭においてエリザベスを悪漢から守ってくれた実績もある。

 君の成績でこの学校を出れば騎士爵は確実だ。

 ならばその上の男爵あたりでどうかな?

 その代わりに在学中に戦場へ出てもらう必要も出るが?

「問題ありません」


 その方が俺にとっては助かる。


「そう言えば、君はルンデル商会がラムル村と言う村と懇意にしておったな。

 そして、面白そうなことをしている」


 王がなぜか知っている。

 なんでだろう?


「それであれば、あのあたりの土地をお前の領地にしてやろう。

 丁度悪漢が治めていた土地の一部だ。

 それでいいかな?」


 悪漢と言うのはリンメル公爵のことなのだろう。

 王都の近くに領地を持っていた。

 結構邪魔だったのかもしれない。

 リンメル公爵は極秘裏に処刑されたという噂が立ち、現在は仮に国が統治していると聞いており『誰がその領地を得るのか』と言う話でもちきりだった。

 まあ、その一部を貰えるだけでも嬉しいと思う。


「はい!

 謹んでお受けします」


 こうして、俺は男爵になることになった。


読んでいただきありがとうございます。

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