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27.模擬店出店

 カミラが居るということが決め手になり、王女様もラインも模擬店で配膳をしてくれることとなった。

 当然、陰から護衛が見ている形となるらしい。


 そして、学校祭本番となる。

 ルンデルさんに頼んでいた屋台も完成していた。

 料理する場所だけでなく、人が座るテーブルや椅子、食器類、そして食器の洗い場などがコンパクトにまとまり、曳いて歩けるように車輪をつけていた。


 屋台の前に四人掛けのテーブルが四つ並び、女性陣により屋台の屋根には花などで飾り付けがされていた。


 この花の影に俺はアベイユを十匹ほど潜ませておく。俺専用の部隊である。

 模擬店に参加した王女様、ライン、レオナさん、カミラには攻撃しないように指示してある。


「ほら、可愛いでしょう!」

 四人が現れた。


 おっと、メイド服にヘッドドレス、エナメル系の靴。

 まあ、メイド喫茶っぽいね。


「揃えたのか?」

「お父様に頼んで、急ぎで作ってもらっちゃった」

 レオナさんが言った。


 結構かかったんじゃない?


 恥ずかしそうな王女様とカミラ。

 見せびらかす、ラインとレオナさん。

 対照的。


 俺の屋台もあったしルンデルさんも無茶振りで大変だっただろう。


「王女様がここで配膳係をしているのは、みんな知ってるの?」

 結局、申請書以外に王女様の名は出していない。

 誰かが気付いて止められるのを防いだらしい。

「護衛の者とお父様とお母様だけですね。

 あとは、ケインさんとラインとレオナさんとカミラさんぐらいです」


 知名度無しで始めるわけね。

 まあそれも良し。


 学校の開放時間になると、人が通り始める。

 一等地とは言わないが正門から教室に向ホルス通り沿いだった。

 簡単な看板を出すと、

「いらっしゃいませー!」

「いらっしゃいませー!」

 ラインとレオナさんの声が響く。

「ほら、エリザベス様も……」

 ラインに突っつかれ、

「いっ、いらっしゃいませー!」

 と声をあげる恥ずかしげな王女様。

「いらっしゃいませー!」

 カミラも慣れないようだが頑張っている。

 可愛い女の子が声をかけるのだ。

 当然、男性陣が寄ってくる。


「何を売っているんだい?」

 若い男性が声をかける。

「新製品のホットケーキです」

 レオナさんが説明をする。

「ケーキは高くて買えないぞ?」

「いいえ、このケーキは基本の物で銅貨三枚、豪華版でも大銅貨一枚なんです」

「そりゃまた安いねぇ。話の種に買ってみるか」

 一人目のお客様が俺たちの屋台にに入った。

「どちらのホットケーキになさいますか?」

 カミラが注文を取る。

「基本ので頼む」

「紅茶もありますが」

「紅茶は要らない」

 お客さんがそう言った。

 カミラから

「基本一つ!」

 と、声が上がる。


 俺は原液をホットプレートに広げ、好評だったクレープタイプに焼く。そして、筒状の中にバターとアベイユの蜜を入れ、皿に置いた。

「はい、基本一つ出来たよ」

 屋台の前のテーブルに出来上がったものを置くと、王女様が持って行った。

「お待たせしました」

 と言って、皿を置くとナイフとフォークをお客様に渡す。


 さて、最初のお客様の反応は?


「おぉ、この油の塊が溶けアベイユの蜜が一緒になったソースが美味い。

 出来上がりが早いのもいいな。

 これなら簡単に食べられる。

 こんなものを若い娘が配膳するなんてな。

 若い男なら来たくなる。ちなみに豪華なものも注文していいか?」

 サクラのような最初のお客様。

 ルンデルさん辺りの仕込みかね?

「はい、かしこまりました。豪華一追加です」

「了解」

 俺は豪華なクリームバージョンも作る。

「はい、お待たせしました」

 今度はラインがお客様に出した。

「これはクリームか、見たことが無いな。

 その上にワイルドベリー。甘酸っぱい味でフォークが止まらない。

 んー、これもいい。

 こっちは女性向けかな。

 紅茶も貰えるかな」

「銅貨一枚になります」

 ラインが紅茶を注ぎ再び持って行く。

「最後に紅茶で締められるのか。

 いいな。この店は王都内にあるのかな?」

「いいえ、ココが初めてですので、現在、店はありません」

「現在は?」

「感触が良ければルンデル商会が店を作るかもしれません。

 そこの御嬢さんはルンデル商会の娘ですので」

「これは楽しみにしておかなければならないな。

 ごちそう様。

 お釣りは要らない」

 そう言うとお客様は銀貨一枚を置いて店を離れるのだった。

「好感触だったね」

 レオナが喜んでいる。


 開店直後はあまりお客様は来なかったが、しばらくすると男のお客様が彼女や婦人、子供を連れてやってくる。

「おいしい」

「これいいね」

 の声が頻発した。

 俺は女性陣に見えないところでガッツポーズをする。


 昼頃になると焼きが間に合わなくなり、カミラがフォローに入る。

 原液も紅茶も収納魔法で別次元に置いてあるので、在庫がなくなることは無いが、休憩が無いというのはきつい。

 昼を大分過ぎたところで、やっとお客様の波が途切れた。

「あー、疲れた」

 ラインさんが机に突っ伏す。

 結局、休む間などほとんどなかったのだ。

「そうですね、こんなに人が来るとは思いませんでした」

 王女様も疲れ気味。

「お父様に報告すれば、お店になりそうですね。

 男女の方が多かったのでデートコースに良さそうです」

 レオナさんの女の子らしい発想。

 商人らしい分析のほうがいいかな?

 そんな話を聞きながら俺とカミラは手を出せなかった食器を洗っていた。


「ラインさんはケイン様が好きだと言ったそうですね。

 でもケイン様にはカミラ様が居ます。

 どうするのですか?」

 レオナさんがラインさんに声をかけた。


 おっと、本人が聞こえる所で話してほしくないな


「私は二番でもいいわよ?

 だって、ケイン君ならどちらも大切にしそうだもの。

 貴族なんて数人の妻を持つのが当たり前でしょ?

 卒業するまで、この関係で居られたら……かなぁ。

 わたしは、Gクラスでケイン君と話をしている時は楽しいわよ」

「私もです……。だからラインさんやレオナさんが羨ましい」

 元気のない王女様、

「わっ私?」

「好きなんでしょう?」

「そっそれは……」


 レオナさん、それは肯定だ


「王女など政治の道具にしかならない。

 政略結婚でどの国に行くのかもわからない」

 寂しげな王女様。


 横でニヤニヤしているカミラ。

「どうしたカミラ?」

「いいなあって思って。

 私にはあんな話をする相手も居なかった」

「入ってくるか?」

「どうやって?」

「配膳すればいいんだよ」

 俺はちゃっちゃと四人分の豪華版ホットケーキを作り、紅茶を入れる。

「ほら」


「ケインがこれをって……お疲れさんだって」

 カミラが三人の横に行きホットケーキと紅茶を置く。

 すると三人は俺を見た。

 俺は軽く笑って手を振る。

「私も入っていい?」

 カミラが空いた席に座った。


 会話が丸聞こえだと教えたのか、声が急に小さくなった。

 何を言ったのかわからなくなったが、まあいい。

 しばらく話をしていると、カミラが犬歯を見せた。


 ああ、神祖だって教えたのか。


 三人がびっくりして俺を見た。

 ニッて笑って返す。

 それで離れても仕方ないし、近づいて来れば考えればいい。


 しばらくすると彼女たちの笑い声が響いた。


 カミラの友達ができたらいいんだけどね。

 ちょっと歳は離れすぎかもしれないが……。


 お客様が居なくなり、片づけを始めたころ、

「お前、カミラじゃないか?」

 と、カミラの手首を掴む男。

 恰幅がいいというよりデブ。

 煌びやかな服を着てはいるが頭は剥げていた。

「はい、私はカミラと申しますが?」

「主人の名を忘れたか?

 何を立っている、跪け!」

 命令口調でカミラに言った。


 ここで奴隷契約書があればカミラは跪くわけか。

 ってことは、この男がリンメル公爵って訳だね。

 学校に知り合いでも居て、様子でも見に来たのかな……と。


「なぜ私があなたに跪かなければならないのでしょうか?」

 憮然とした表情でカミラが言う。

「儂の奴隷であろう?」

「私は奴隷ではありません。

 その証明は?」

「奴隷契約書があったはず」

「どこに?」

「クリフォードの契約書があったはずだ」

「だからどこに?」

 冷めた目で見下すカミラ。

「それは……」

 リンメル公爵は何も言えない。

「私はあそこに居るケイン様と婚約しております。

 言いがかりはやめてください!」

 カミラはリンメル公爵の手を払う。

「魔物と婚約するなど?

 そんな酔狂な男がおるものか!」

「えっ、俺、婚約してますよ?

 ほら左手の薬指に指輪があるでしょう?」

 俺はそう言うと屋台から出て手を拭きながらリンメル公爵の前に出た。

「そんなバカなことがあるか!

 こいつは神祖だ!

 私が金をかけ奴隷にした神祖に間違いない!」

「白昼夢でも見たのでしょうか?

 この者はカミラという女性で、怪我をしていたカミラを私が助け、その縁あって婚約したのです」

「私の性欲を満たすために性奴隷にした神祖の奴隷に違いない!」


 そのカミングアウトは要らなかったな。


 するとエリザベス王女がカツカツと進み出て、

「やめなさい!

 証拠もなく、根拠もなく、ただ暴言を吐くだけ!

 言いがかりと言われても仕方が無いでしょう」

 王女様が声を上げた。

「何だ、この小娘め!

 私がリンメル公爵であることを知っての言葉か!

 切り捨ててやる!」

 剣を抜くリンメル公爵。

 逆上しているのか王女様だとわからないのだろう。


 あっ、リンメル公爵が終わった。


 すると、アベイユの部隊がリンメル公爵の周囲に舞い始め、一撃、また一撃と攻撃を始める。

 そして、その毒で痺れて動けなくなった。


「私の顔を忘れましたか?

 第一王女エリザベスです」

 王女様がリンメル公爵に顔を見せると思いだしたのか驚きで目が開く。

 そして、見ていた護衛の騎士もやってきて、リンメル公爵を縛り運んでいった。


「俺の出番がなかったな」

「いや、ケインのお陰。

 そしてエリザベス王女様のお陰」

 カミラが言った。

「いいえ、お陰で一つ問題が解決します。

 リンメル公爵は現王である父の甥。

 かなりの力を持っていて、悪さをしているのがわかっていてもなかなか手を出せませんでした。

 これでお父様も何か手を打てるでしょう。

 それにしてもアベイユに護衛をさせているとは……」

 王女様も俺を見る。

「アベイユの毒は痺れが出るだけの物です。

 生き死ににはかかわりませんから便利なんですよ」


 アナフィラキシーショックとか言われたら困るけどね。


「さて、時間も時間だ。模擬店を片付けるか……」

 食器を棚に仕舞い。椅子を片付け、テーブルを屋台のフックに止める。

 綺麗に片付き、屋台を曳いて移動すればいいだけになった。


 ラーメン食いてぇなぁ……。

 なんて思っていると、

「前の世界の事?」

 カミラが聞いてきた。

「そうだな。やっぱり美味い物は食べたいだろ」

「そればっかり」

「戦いが好きなのよりいいとは思うが?」

「そうね」

 カミラが俺の肩に寄り添う。


 ちょっと離れたところで、

「二人、いい感じよね。

 私なんて告白したのにこの扱い」

 ラインが愚痴っていた。

「わたしなんて告白さえできない」

 ボソリと王女様が言う。

「やっぱり」

 ニヤニヤしながらラインが王女様を見ている。

「私もケイン様が好きなのかなぁ。

 こういうの見てたらほっこりするのよねぇ」

 レオナさんが言った。

「何ですか、その爆弾発言は?」

 突っ込む王女様。

「お父様はカミラさんが居るのを知っていて『ケイン様なんてどうだ?』なんて言ってるのです。

 まあ、私もあんなの見てたら、いいなあって思う訳で……」

 レオナさんが言うと、

「いいよねぇ」

「うんいい」

 ラインと王女様が頷いていた。


 全部聞こえてるからね。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 模擬店ホットケーキでしたか どっちだろ?ワクワク を堪能しました笑 カミラさんの憂い晴れて良かったです。 下衆い公爵社会的にも退場 序列問題も王女様次第ですが解決 続き読みます。
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