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109.販売委託

 チョコレートも工夫をすることで、何とかあの滑らかさを確保できるようになる。

 製法も何とかまとまった。

 レオナから話があったのだろう。ルンデルさんが屋敷に来た。

「新しいお菓子ができたとか?」

 ルンデルさんの揉み手。

「ああ、チョコレートという。

 まだ、原料が少なくてね……」

 俺は皿の上に三つほどの四角いチョコレートを置いた。

「食べてみて」

 するとルンデルさんは手を伸ばし、口に入れた。

「おっ……甘い……。

 ただ甘いだけじゃなく、苦み……。

 私はあまり甘いものが得意ではありませんが、これは美味しい」

「大人の味だろ?」

「ええ。

 製法は?」

 俺はメモを差し出す。

「わからない事は俺に聞いてくれたらいい」

「しかし、どのようにして売れば?」

「単体で売ってもいいかな。

 ケーキだったら溶かしてホイップクリームに混ぜてもいいし、溶かしたものを直接表面に塗って、新しい味にしてもいいね。

 まあ、一番いいのは、リズの母上、王妃様に献上してみたら?

 あの人甘いものが好きだから。

 王妃が好む味ならば、さて貴族は?」

「それは……間違いないですね。

 売値は?」

「チョコレートの原料はデルモルナ。

 現在は、アルバネーゼ伯爵の所からしか入らない。

 とりあえずはなかなか手に入らないものとして、高め設定でいいんじゃないかな?

 貴族って、高いものがいい物って考えてる人が多いでしょ?」

「そうですね。

 製法から、売値を考えてみます」

「今はただの薬として手に入れてはいるが、向こうが知ったら向こうの売値も高くなるだろう。

 できればそれまでに、こちらで栽培したいな。

 欲を言えば、フェルマントも。

 そうすれば、原料のコストが下がって、利益が多くなる。

 だから、向こうの商人に栽培に適した気候を聞いて、苗を確保して栽培してみるのもいいかもしれないですね」

 ルンデルさんは少し考えると、

「向こうに近い、イロマンツの村や旧メルカド伯爵領で栽培に適した場所を探してみます」

 というのだった。


 俺の中では、コーヒーやカカオ豆の栽培条件は厳しかった気がするが、ルンデルさんはイロマンツの村の周辺で条件に合う土地を探し出し、栽培を始める。

 管理はトレントがやるらしい。

 一緒に植わるそうだ。


 チョコレートも王妃のお気に入りになったようで、そこから貴族たちに広まりつつある。

 今のところ生産数が少ない上に、王城への納品が主になっているため数が出回らないせいで、来客へチョコレートを出すのがステータスのようになっているらしい。

「これは王から下賜されたチョコレート。

 私は王の覚えめでたいから、お前たちにと渡されたのだろう」

「あなた、凄いですわ!」

「父さん、僕、チョコレートはじめて!

 ありがとう」

 という、家族の団らんとか、

「キー、あの貴族はチョコレートを貰っているのに、うちにはチョコレートは無いの!

 あなた、もう少し頑張りなさいよ!

 せめて、手に入れてきてくださいな」

「しかし、高いのだぞ!」

 ハンカチを噛んで悔しさを表す嫁さんに、こんな感じで言われている貴族の当主が居るのかもしれない。

(注)俺の想像。


 余った分も結構な値段で売り出しているらしいのに、すぐに売り切れているという事だ。

 儲けているのか、ルンデルさんの顔がほくほくしている。


「チョコレートの売り上げの一部です」

 持ってきた箱の中に白金貨が十枚。

 すごっ……。

 ラインの支度金……。

「ちなみに、チョコレート一個いくら?」

 某アーモンドチョコ一個ぐらいの大きさである。

「中金貨一枚です」

 おっと十万円。

「異国の種とカルオミガの砂糖を使っているのです。

 当たり前の値段です」

 ルンデルさんが胸を張る。

 カルオミガの重さは金の重さだったっけ?

「それで、原価は?」

「……です」

「ん?」

「銀貨、一枚です……」

 言い辛そうなルンデルさん。


 うわっ……暴利。

 まあ、カルオミガの巣も大きくなって、砂糖の供給量も増えているから問題ないのだろうな。

 本来ならば砂糖の重さが金の重さとか言うレベルだから、高いって訳ではないらしい。

 カカオ豆自体に価値を見出していないファルケ王国からの購入も安いんだろうな。


「しばらくカカオ豆はクスリという事で……」

 俺が言うと、

「はい、向こうにはそういう形で。

 こちらでの量産体制ができれば、マメの値段も下がるだろうからもっと利益が上がるかと……」

 ニヤリと笑うルンデルさん。

「そちもワルよのう」

 俺も笑う。

「いいえ、侯爵様にはかないません」

「「わっはっはっは……」」

 ちょっとした時代劇のようになる俺たちだった。


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