100.帰宅と報告
ラフティーの街に戻り、メルカド家の屋敷に顔を出す。
「ケイン殿!」
アネルマが出迎えた。
俺を抱きしめる。
「首尾は?」
「カミロ・グリエゴ公爵はアネルマたちにいろいろ行っていたことがバレて、罪に問われそうだ。
フィリベルトはアルベルティ・アルバネーゼ伯爵を一撃で倒した」
「えっ、あのアルベルティ・アルバネーゼ伯爵を?
お父様亡き今、ファルケ王国で一番ではないのか?」
アネルマは驚いた顔で言った。
「強いらしいね」
「そうか……、さすがベルト様の従者。
うちの騎士たちも、ベルト様に教わっている。
ミンク殿の力で、訓練用のダンジョンを作ってもらって、鍛えられるようにしてもらった。
ミンク殿も凄いな。死なないギリギリの魔物を出してくるのだ。
お陰で、サンチョの下こちらの騎士団も強くなっているぞ」
アネルマが言うと、
「ケイン様、ラムル村の兵たちも、訓練用のダンジョンを使っています」
フィリベルトも言う。
ダンジョンを使ったパワーレベリング。
集団戦の訓練にもなると父さんは言っていた。
俺とカミラ、アーネが強くなったからと、自身とフィリベルト、母さんでダンジョンに潜ったとミンクに聞いたが、それで味をしめたかな?
「そんなことがあったのか……。
ここは国境の町になる。
最前線だ。
強い兵が居るのは助かるな」
「私も頑張っているのだぞ」
ぴょんぴょんと飛び上がりアピールしている。
「うん、偉い偉い」
ワシワシと頭を撫でると、
「うん、気持ちいい」
アネルマは目を細めていた。
「今夜は泊まらないのですか?
アネルマの準備はできていますが?」
マリーダ様がいきなり言ってくる。
えーっと、いきなりですか?
どんな準備ですか?
「んー、今日は一人ではないのでさっさと帰ります」
するとマリーダ様はエレンに気付き、
「そちらの女性は?」
と聞いてくる。
声に警戒があるのは、「またですか?」という事なのだろうか?
「ああ、フィリベルトの婚約者……になる人?」
フィリベルトを見る。
「ケイン様が勝手に決めたんじゃないですか!」
フィリベルトが言うとエレンの顔が少し悲し気になるが、
「でも、まあ、好きですけど……」
その後のフォローでエレンに笑顔が戻る。
「まあ、まあ、初々しい。
羨ましいですね。
私もあの頃は……」
遠くを見るマリーダ様。
しばらく過去を思い出していたらしい。
そして、心が戻ってくる。
「それでは、このまま屋敷に?」
「はい、このまま王都に戻って、次の日には王への報告ですね」
「そうですか、たまにはこちらの兵士たちにも声掛けに来てもらえれば。
食事を準備してお待ちしておりますので」
マリーダ様が頭を下げた、
ここに泊まったら、まあ……色々と……ね。
メルカド家の屋敷を出て、王都の屋敷に戻る。
「「おかえりなさい旦那様」」
「おかえりなさいなのだ」
カミラにアーネ、ミンクが俺の前に立つと頭を下げた。
「旦那様あの人は?」
チラリとエレンを見てカミラが言った。
「ああ、あの女性はフィリベルトの婚約者だ。
フィリベルトは従者なのに騎士の婚約者を得た訳だ」
フィリベルトが何か言いたげで、エレンが赤い顔をする。
「まあ、旦那様のようなことを……」
クスリと笑うカミラ。
「まあ、俺の護衛を果たしたという事で、フィリベルトも騎士にしないとな……。
正直、従者から騎士にするにはどうすればいいんだ?」
「私もあまり詳しくはないですね」
現在、よく知っていそうなミラグロスがおらず、カミラも詳しくはないらしい。
学校を卒業して騎士になる以外に方法があると聞いてはいたが、その辺は聞いていなかった。
「あのー」
エレンが手を上げ、
「どうしました?」
カミラが聞くと、
「ケイン様が叙任の儀式をすれば騎士になれますよ。
フィリベルトはケイン様に繋がる従者です。
それで、問題ないかと」
とエレンが言う。
「ありがとう、新米なのでまだまだ知識が無くてね」
俺は礼を言った。
「私としては、フィリベルトに同格の騎士になってもらいたいのです。
妻になる者は、夫に尽くさなければいけません」
エレンが言うと、
「そうですね。
何かあれば、私どもに頼ってください。
私たちも、頼らせていただきます」
エレンとカミラたちに強い絆ができたような気がした。
「ケイン様……。
なんだか、俺、何かに囲まれる気がします」
俺を見るフィリベルト。
「諦めろ、カミラたちとエレンは繋がったようだ」
俺が肩を叩くと、がっくりとするフィリベルトが居た。
それからしばらくして、フィリベルトは俺の叙任の儀式を受けて騎士になる。
そして、エレンとフィリベルトには家を与え、ラムル村で暮らすようになるのだった。




