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97.ラプティオン

 えーっと、フィリベルトです。

 馬車を連れた旅、暇な時間が続きます。

 しばらく行くと平原の向こうに大きな砂煙が上がっていた。

「いかん! ラプティオンだ!

 群れがデカいぞ!

 百は越えている」

 兵士たちが声をあげ始めた。

 ラプティオンとは身長が人間程度の肉食で二足歩行の爬虫類だ。

「カミロ・グリエゴ公爵を守れ!」

 兵士が公爵の馬車の周りを固める。


「ラプティオンって……。

 ああ、確か、尻尾が美味いらしい奴ね」

 ケイン様はあまり警戒をしていない。

 ちなみに俺も、気にはしていなかった。

 負ける気がしないからだ。

「ラプティオンは群れで活動します。

 一頭一頭ならば特には問題ないのですが、数で押されると怪我人だけでは済まなくなります。

 ラプティオンの群れはその群れの大半がオスで、更に卵を産む雌が数頭居て、そのすべてを統べるクイーン。

 そのクイーンを狩れば、何とかなるのですが、あの数では見つからないかもしれません」

 エレンが俺たちに言った。

 濛々と上がる砂煙で見えないと言いたいらしい。

「クイーンってあれだろ?」

 砂煙の中の一点をケイン様は見ていた。

「あれですね」

 俺も頷く。

 ケイン様も俺も群れの中で一番魔力が強いラプティオンを見つけていたのだ。

「で、どうするんだ?」

「円陣を取り、ラプティオンの攻撃を耐えるしか……」

 エレンは言うが、

「えっ? クイーンを潰せばいいんでしょ?」

 と俺が言うと、

「それが難しいのです!」

 死を前にした状況にひょうひょうと話すケイン様に少し怒ったのかもしれない……エレンの声が大きくなった。


「フィリベルト、暇ならやって来いよ」

 面倒くさいのか俺に振ってくる。

「えー、無茶振りですか?」

 正直俺も面倒くさい。

 一応お客様だろうに……。

「石投げたら終わりだろ?」

 の言葉に、

「まあ、そうですけど……」

 俺は頷く。

「仕方ねぇなぁ……」

と呟くと、俺は馬から降り、石を掴んだ。

 そして、クイーンに向かって投げつける。

 すると、クイーンの気配が消えたせいで統率が取れなくなり、散り散りになるラプティオン。

 この場に到着することもなく消えた。

「さすが、父さんの一番弟子」

 ニッと笑うケイン様。

「おだててもダメですよ」

 俺は馬に乗ると、ラプティオンのクイーンを回収して戻ってきた。

 二メートルほどの体だが、頭が無いのでもう少し大きそうだ。

 馬は、俺とラプティオンのクイーンを乗せても余裕で走った。


 ん……いい馬らしい。

 あとで貰おっか。


 ケイン様の元に戻ると、

「おお、美味そうだな。

 あとで食うか……」

 ケイン様がラプティオンの尻尾を掴むと一気に消える。

 収納魔法……久々に見たが凄いな。

「もう、危機は去ったんでしょ?

 先に進まないのですか?」

 ケイン様が言う。


 多分、俺が出なくても、ケイン様の魔法でラプティオンの群れは消し飛んでいるだろう。

 この辺が、俺の壁になれってところらしい。


 その後の俺とケイン様への対応は腫れ物に触るような感じに変わった。

 まあ、俺とケイン様が居れば、この護衛全てを瞬殺できるからなぁ……。

「怖かったら、適当でいいからね」

「まあ、私もケイン様もいつもは普通なんで、気にしないで。

 要は怒らさなければいいだけ」

 エレンへのフォローもしておく。


「フィリベルトさん?」

 エレンが俺に声をかけてきた。

「フィリベルトでいいっスよ?

 俺、従者なんで」

 女性と話をしたことはあるのだが、それはほとんどケイン様関係だけで、こういう会話には慣れていない。

「あなたよりケイン様は強いんですね?」

「強いっス。

 鬼神ベルトと魔女ミランダの息子ですからね。

 天才肌? って訳じゃなくて、ちゃんと努力してるんですよねぇ。

 基礎も応用もできる人って感じでしょうか?」

「では、あなたは強くないの?」

「強いんっすかね?

 周りに俺より強い人が居すぎて……わからないッス。

 あっ、一応、ミンク様のダンジョンの最下層までは言ったことがあるッス」

 俺こんな言い方じゃないんだけどなぁ……。

 今更変えられんか……。

「凄い……。

 バレンシア王国ではそんなフィリベルトが従者になるですか?」

「んー、俺の場合はベルト様が拾ってくれた訳で、他の従者が俺みたいかどうかはわからないッス」

「いつかは騎士になるのですか?」

「どうなんっスかね。

 獣人が騎士になるのは難しいと聞いてるっス。

 でも、ケイン・ハイデマン伯爵の所はあまり獣人だからという事はないっス。

 だから、そのうち……って思っているッス」

「そうか……」

 エレンは何かを考え始めた。



 それからは何かの度にエレンが来るようになった。

「エレン様に従者は?」

「私は弱いですから、従者についてくれるものが居ないのです」

「そうなんですか……。

 気が付いていい女性に見えますけどねぇ。

 俺もケイン様も気楽に旅ができているっス」

「それは嬉しいですね」

 頬を染めるエレン。


 ん?


 チラリとケイン様を見ると、ニヤニヤしていた。

「何ですか?」

「いいや?」

 ケイン様は口笛を吹く。


 後の道のりで、エレンが躓いたところを助けたり、配膳の際に落としそうになった皿をこぼさず拾ったり。

 やっているうちになんだか気になるようになる。


「フィリベルトも、俺と同じかもな」

 ケイン様が言う。


 失礼な!


「違います。

 そんなに増えたりしません!」

 俺が反論すると、

「俺もそう言っていたんだが……」

 遠い目をするケイン様が居た。


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