93.雪の日
ラインバッハ侯爵家にお呼ばれである。
しかし、朝から降り続いた雪は夕方にはやんだが、凄い雪がうず高く積もっている。
馬車も走れないような感じだ。
俺は歩いて侯爵家に向かうことにした。
まあ、帰りも歩けばなんてことは無い。
王都を歩くなどいつ以来だろう……。
そう言えば、ラインバッハ侯爵家にテスト勉強に言って以来か……。あの時は騎士爵のせいで、追い出されたんだっけ?
そんなことを言ったら、ミーナ様に怒られるかもな。
屋敷の門番が俺を見つけると、すぐに扉が開く。
「馬車をお呼びしましょうか?」
とは言われたが、
「歩いたほうが早いよ」
俺は屋敷の玄関に向かった。
「ケインー!」
玄関が開くとラインが飛びついてくる。
「はしたないと怒られるんじゃないのか?」
俺が言うと、
「そうです、お姉さま、はしたない」
ハンスが言う。
「そうだけど……」
ミーナ様もクレール様も苦笑いしていた。
「今日は中止するつもりだったの。
でも、来てくれると言っていたから……」
ミーナさまが言うが、
「せっかく準備しているんだから、来ない手はないでしょう?」
というと、
「来てくれてうれしいわ」
ミーナ様も抱き付いてくるのだった。
ゴホン。
クレール様の咳払い。
「ここで話を続けてもいかんだろう?
せっかくの料理が冷める」
すると、
「そうね、こっちへ」
ラインが俺の腕を取ると、引っ張っていく。
そして、料理が並ぶ食堂にたどり着くのだった。
「凄いね……」
トムとジェリーで見たような尻尾を蒔いたブタ系の魔物の丸焼きのような料理や鳥系の魔物の足に飾りがついているものなど、多くの料理が並んでいた。
ここは一発、ブタの尻尾でシャンパンの栓を抜いたりしてみたいところだが、それは無理っぽい。
「伯爵様を呼ぶんだから、これぐらいのことはしないとな」
クレール様が言う。
「まあ、一度追い返された身ですがね」
試験勉強の時はそうだった。
「それは言わない約束。
だって、仕方ないじゃない。
ただの騎士じゃ、ラインはやれないわ」
ミーナ様が拗ねたように言う。
「確かに……、あの時の俺ではダメだったでしょうね。
お陰で頑張らせていただきました」
俺が言うと、
「頑張り過ぎだ。
もう一歩で侯爵じゃないか……。
私と肩を並べるとは……」
とは言うが、
「急げと言ったのはクレール様では?」
と聞き返す。
「まさか、本当にここまで来るとは思っていなかったがね」
苦笑いするクレール様に。
「良いじゃない、娘が婚約相手に愛されているって証拠よ!」
ラインが言うと、
「羨ましいわぁ。最近愛されている感じがないんだけど……」
ブーメランでクレール様に帰ってくる。
「仕方ないだろう?
忙しいのだ」
と逃げようとしたが、
「ミランダさんには娘が出来ましたよ?」
マウントを取られてしまった。
「それは、追々な……」
とは言うが、クレール様は逃げ場無しかな。
義理の弟か妹ができるのか?
あっ……ニヤリと笑うミーナ様。
こりゃ、クレール様に逃げ場はないな……。
冷めた目で見るラインとハンス。
頑張れお義父さん……。
心の中で言っておくか。
「まっ、まあ、食事を始めようか」
雰囲気から逃げようとするクレール様の声で、皆が食べ始める。
しばし御歓談を……という感じで、学校祭の話やバルトロメ討伐の時の話、ダンジョンの攻略なんかの話をする。
ラインは野営訓練の時、俺が頼もしかったなんて恥ずかしいことを言っていた。
ハンスは俺の話を聞いて目を輝かせていた。




