92.訓練
えーっと、とある騎士です。
ケイン・ハイデマン伯爵に雇われました。
鬼神でしたっけ?
試験の際にはベルト様にボコボコにされましたが、見どころがあると雇われた次第です。
自分に見どころがあると言われるのは嬉しいもんです。
雇われた後、訓練が始まります。
するとある日、ベルト様が女の子を連れてきました。
浮気ですか? 浮気なんですか? 職場でイチャイチャ?
想像しながらニヤニヤしていると、女の子が光り、ラムル村の訓練場に洞窟が一つボコンとできました。
えっ?
「ミンクちゃんありがとう」
ベルト様がそう言うと、
「いつでも言えばいいぞ」
と言って、女の子はラムル村の伯爵の屋敷に走って行きました。
「さて、入るぞ」
とベルト様と一緒に洞窟の中に入れば、魔物がウヨウヨ。
見たところオークです。
上位種のハイオークも居るようです。
「じゃあ、訓練する。
ここに居るオークどもを倒せ!
一人で一匹倒すのはお前らじゃギリギリ難しい。
だから、お前ら三にオーク一程度になるように考えてやるんだ。
決して、一人で相手しないように」
ベルト様は背後からオークに襲われていたが、振り向きもせずに剣を突き出し、オークを倒しました。
すげー、ベルト様すげー。
「ケインが居れば治療できるが、今は居ないので、助けられない。
怪我しないように」
そう言うと、ベルト様はオークの中に突っ込んでいきます。
一刀の下に、オークが斬り捨てられていました。
我々の三人組は、あらかじめ決められており、そのメンバーで戦います。
でも、最初の一頭が大変でしたが、倒すたびにオークが弱くなっていくのがわかりました。
あれ? オークってこんなに弱かったっけ?
倒したから強くなった?
魔物を倒せば、魔力の一部を体内に取り込むと聞いたことがあります。
しかし、実際にそんな訓練をされるとは思いませんでした。
倒すたびに強くなることが嬉しくて、途中からは、皆ヒャッハーと叫びながらオークを狩ってしまいます。
そのうち、オークでは物足りなくなり、必死になって上位種を探すようになりました。
そして、全てのオークを討伐しました。
「はい、今日はこれまで。
誰も死ななかったな!
良かった、良かった」
ウンウンとベルト様は満足げに頷きます。
「次はリザードマンだから、もっと強くなるぞ。
最終的には野良のドラゴンぐらいは一人で狩れるようになろう」
ベルト様は恐ろしいことを言いました。
リザードマンは龍の因子を持っていると言われ、剣だけでなくブレスも使うと言われています。
私は戦ったこともない相手でです。
「どうやって勝てば?」
騎士の一人が聞くと、
「首を飛ばしたら絶命する
それに、リザードマンは尻尾でバランスを取っているからな、尻尾を斬れば動きが悪くなる。
敵の弱点をつくのは当たり前のことだ。
理解しておけ!
それと、一対一でなければ、何とかなる。
今日はそれぐらいの力はついている」
熱く語るベルト様。
そんなこと当たり前のように言われましても……。
「ちなみに、ベルト様はダンジョンをどこまで?」
別の騎士が聞くと、
「ああ、カイザードラゴンと戦った。
さすがに一撃で負けたがね」
と苦笑いしていました。
え?
最下層まで行っている?
だからあの速さで動ける?
そう言えばオークのこん棒を片手で受け止めていました……。
洞窟から出ると、日が傾きかけていました。
空も赤くなってきています。
朝からずっとでしたか……。
外には多くの荷馬車と屈強な冒険者が並んでいました。
その中に小太りな商人。
「ルンデルさん。よろしくお願いします。
数としては百ぐらいでしょうか」
「はい、ベルト様お任せを」
そんな話が終わると、
「冒険者の方々、中のオークを荷車に。
早々に解体しなければいけません」
ルンデルと言われた商人が冒険者に指示を出すと、冒険者が荷車を引いて洞窟の中に入り、オークの死体を持ち出します。
しばらく見ている間に全てを運び出したようでした。
「ケイン様に、いつも通りにしておきますと連絡をお願いします」
「畏まった。
次はリザードマンだ。
剣や鎧を着た者も出るだろう。
もう少し人手が要るかもしれないな」
「了解しました」
「また連絡させてもらいます」
話が終わると、ルンデルという商人は去っていきました。
「今日の晩飯はオーク肉だぞ。
帰って汗を流せ!」
ベルト様は颯爽と先頭を歩き、宿舎に向います。
俺たちが倒した魔物の収益は我々に還元されています。
当然伯爵の懐にも入るらしいが、確かに、うちの騎士団の宿舎は綺麗で布団もフカフカ、食い物もうまいのです。
何なら給料も高いぐらい。
俺はこの騎士団に入ってよかったと思います。
強くなっているのもわかります。
次はリザードマンかぁ……頑張らないとなぁ……。
そんなことを考えていますと、冒険者の一人がベルト様の連れてきた女の子に絡んでいました。
助けねばと私は近寄りますが、その前に女の子の拳が冒険者の鳩尾に刺さります。
豪快に嘔吐する冒険者。
「運が良かったな。
昔の私なら、お前たちなど肉片になっていただろう。
今はケインに勝手に殺すなと言われているから、手を抜いている。
私はミンク。カイザードラゴンだ。覚えておけ!」
女の子は冒険者を一瞥すると去っていきました。
あの女の子はベルト様より強いらしいです……。
カイザードラゴンが闊歩するこの村。
大丈夫でしょうか?




