91.魔物の集落
山際にへばりつくように集落が見えてきた。
昔、村だったようだ。
戦争で放棄されたのかもしれない。
そんな時、空から何かが俺を襲う。
カマイタチ? エアブレードか。
俺はシールドを展開する。
体は大丈夫なんだが、服が破れるのはな……。
「やめろ! ハーピーども!」
ミノタウロスが言うと、
「なぜ人を連れてきた!」
「そうだそうだ!」
「人間は敵だ!」
ハーピーたちが騒ぐ。
「この者は私より強い。
そして、幼体だったラミアを成体にしてもなお枯れぬほどの魔力を持っている。
そのような者に勝てると思うのなら、この者を襲うがよい!」
そういうミノタウロスに合わせ、
「主様は悪い人間ではありんせん!
魔物であるあちきが魔力を吸っても怒りんせんでしんした。
信用に足りる方でありんす」
ラミアもハーピーたちに叫んだ。
多分、あんだけ血と魔力を吸われたら、普通の人間なら死んでるんだけどなぁ……。
すると、三体のハーピーが俺を襲う。
三位一体? ジェットストリーム……いやいや。
俺は風の魔法を使った。
エアストーム……ただの竜巻なんだがね。
たっぷり魔力を使って、中心の気圧を思いっきり下げてある。
風に耐え切れず、中心に吸い込まれていった。
ボロボロになってハーピーたちが地上に落ちてきた。
あっ……やりすぎた?
治療魔法でハーピーたちを傷なく治療する俺。
そんな俺を集まった魔物がじっと見ているのだった。
「俺はこの人間に付き従う。
魔物は強い者に従う。強い者が人間だっただけだ。
お前たちも、俺が強かったから従っただけだろう?」
そう言うとミノタウロスは俺の前で片膝をつき従属を表す。
すると、ラミアも俺の前にひれ伏した。
続いて、気が付いたハーピーたちが俺の前で片膝をつき、従順を示す。
少しずつ俺の前に現れる魔物たち。
そして従順を示す。
結局集落に居た全ての魔物が俺の前に来るのだった。
「これで、お前は俺たちの主。
俺たちはお前の言う事を聞く」
顏を上げるミノタウロス。
「そうだなぁ……。
じゃあ、早速、名前を付けよう」
俺が言うと、
「名前だと?」
ミノタウロスが驚いていた。
「名前ないと不便だろ?
種族名だけじゃ、都合が悪い。
お前たちの主としての最初の仕事」
集落の長だったミノタウロスには、「タウロス」と名付けた。
理由は何となくカッコいいから。
俺の血で成体になったラミアには、「ミア」
他の種族のメスには種族名の最初二文字に五十音を足して、ラミアであれば、ラミイ、ラミウ、ラミエ、ラミオのように表し、オスには種族名の最初二文字に数字を足し、ミノイチ、ミノジ、ミノサンと表すことにした。
トレントは……オスメスが無いらしく、オス側に寄せる。
適当なのは、要は面倒だから……。
「さて、名付けが終わったから、引っ越しをしようか」
「引越しですか?」
タウロスが俺を見る。
口調が変わっているのは……完全に俺に従ったからかな?
「ああ、ここに居ては手伝ってもらうのが大変だからね。
だから、引っ越し。
お前たちが住んでいるのはそこにある建物?」
聞くと、
「ええ、そうです」
タウロスが頷いた。
俺は収納魔法で全ての家を取り込むと、驚く魔物たち。
「さて、じゃあ、最初に出会った場所に行くか」
ゾロゾロと五十体ほどの魔物が俺の後ろを歩く。
俺の周りをウロウロとして、纏わりつくミア。
「どうした?」
「主様の役に立てるのが嬉しいんでありんす」
「そうだな、湿地帯に強そうなミアが頑張ってくれると助かる」
「はい、頑張りんす」
ニコリと笑った。
広場に着くと、家を出す。
「はい、引っ越し終わり。
あとは、壁を作ってと……」
広場の周囲を壁で囲む。
「うし、これで、風から村を守れるな。
建物も、順次新しいものと交換するから、それまでは今まで通りで頼む。
実際に米を作り始めるのは、冬が終わって暖かくなってからってことで。
えーっと、とりあえず食料は……」
おれは別次元からダンジョンで倒した野良のドラゴンを一体出した。
「これで食料は持つかな?」
と聞くと、
「これを、私たちに?」
タウロスが驚く。
魔物たちの目が変わる。
「足りなかったら困るから、これも置いておくよ」
オークを数体。
「あと、武器はこの辺で」
正規兵用としては使えそうになかった剣や盾、弓を置く。
「とりあえず、様子を見には来るけど、それまでは、これで何とかなる?」
唖然とする魔物たち。
「魔物にこれほどの施しをするのか!」
「だって、俺の配下だし。
当たり前だろ?
あっ、湿地とか、お前らに必要な物があったら残すからちゃんと言ってくれ」
タウロスたちの畏敬のまなざし。
「畏まりました。
我々はあなた様に従います」
タウロスをはじめ、全ての魔物が俺の前で頭を下げた。
まあ、この辺に来るのは騎士か兵士かルンデルさんの部下ぐらいだろう。
ここで、魔物の力を使い農業をしてもらえばいい。
「ご主人様!」
そんな時、ミラグロスが十人程の騎士を連れて現れる。
「この魔物たちは何ですか!」
ミラグロスと騎士が剣に手をかける。
あー、確かに、囲まれているけど……。
「新しい村の住人だ。
この辺の開拓を手伝ってもらう予定だから、倒さないように」
「はい、畏まりました」
ミラグロスは頭を下げた。
これで、魔物の村を納得するミラグロスも凄いな。
「さっきの説明で納得できた?」
「はい」
ミラグロスは頷くと、
「確かに並ぶのは、力が強いミノタウロスに、湿地に強いラミア。器用なコボルドに、空を飛ぶハーピーたち。
トレントは植物の世話をするのにいいでしょう。
ご主人様ならあり得るかと」
さも当たり前というように頷く。
俺だから……が当たり前になっているか……。
というか、俺もそこまで考えていないけど……。
「それで、どうした?」
俺が聞くと、
「この辺で大きな爆発があったもので……。
何かあったのかと来てみたのです」
ミラグロスが言った。
「心配してくれたのか?」
「とっ当然です。
私だって、ご主人様の婚約者の一人なんですから」
赤い顔をしてモジモジを始めるミラグロス。
そして馬上から飛びついてきた。
「あーーーーー!」
指差すミア。
「何でその女はいいのに、あちきはダメなんでありんすか!」
「婚約者だからな!」
「カミラという女でありんすか?」
「違う、ミラグロスだ」
「カミラ様を相手にしようなどと、恐れ多いことを……」
ミラグロスが呟く。
「カミラって、俺の周りにいる女性のまとめ役だからなぁ……」
「そうそう……なんでも知っていて怖いのです」
クチュンとくしゃみが聞こえたような気がした。
多分、アーネが調べているんだと思う。
「あちきも、その中に入りとうござりんす!」
ミアが声をあげる。
「それならば、ご主人様とカミラ様に会えばいいでしょう。
我々、魔物枠が充実するのは喜ばしいこと」
あーあ、ついに自分を魔物枠って言っちゃったよ。
結局、ミアを屋敷に連れて帰ると、
「えっ、ああ、仕方ないですね」
カミラに感情の無い言葉で言われてしまった。
「旦那様。アネルマ様の件もあります。
出来るだけ一人で動かないようにお願いします」
ダメ押しで言われる俺。
はい……。
「あれがカミラ様でありんすか?
カミラ様は怖うござりんす」
「であろう?」
小声で話すミラグロスとミア。
「ゴホン」というカミラの咳払いに、
ビクリとする二人だった。
デビルイヤーである。




