第一章 第一幕 家族の幸せとは
申し訳ございませんでした。表現の一部に誤りがあるのを確認させて頂きました。訂正させていただきます。
蛍光灯の白い光が、オフィスの机の上に冷たく落ちていた。窓の外は人の笑い声で溢れているのに、今日も彼は一人静かにパソコンの前で事務作業をしている。時刻は既に21時。勤務規定時間の19時をとっくに過ぎていた。時間外業務......いわゆる残業というものを彼は行っていた。画面に映るのは、自分の仕事ではない書類。頼まれたわけでもない。誰かがやり残した業務を、彼は「ついでに」片付けていた。机の端には冷めたコーヒーが置かれ、紙の山が影を作っている。
彼の名前は【佐藤】といった。三人家族で小学生の一人娘と妻に愛されながら、毎日の生活を過ごしていた。佐藤の性格は竹を割ったように真っすぐで誠実であった。また、よく人助けをしていた。今――この時も本当は彼の仕事ではない事務作業を代わりにやっていた。彼はよく残業をしていた。手当はもちろん出ない。彼が独断で仕事をしているからだ。そんなに親切で仕事に熱心な佐藤だが、彼はまだ知らない。みな仕事を彼に任せて、ほとんどの人が外食やデート、ゲームやドラマなど個人の娯楽の時間を過ごしているということを。都合のいい駒にされていることを。それでも彼は怒らなかった。そもそもその事実を知らなかったのかもしれない。 ただ、心の奥底では問いが渦巻いていた。 「本当にこれでいいのか。誠実さは、ただ搾取されるためのものなのか」
家に帰れば、妻が待っている。毎週金曜日には必ず彼の好きな料理を作ってくれる。小学生の娘・唯は今日の勉強の話や友達の話を楽しそうに話し、週末には家族で出かける計画を立てる。 妻は料理を作り、優しく彼の前に出す。まるで彼女からの愛を体現しているようだ。その時間だけが、佐藤にとっての救いだった。佐藤は誠実で、家族を愛していた。だが同時に、弱さを抱えていた。 「断れない」という弱さ。 「怒れない」という弱さ。本当は断りたいが、人を思い、YESと言ってしまう。 その弱さが、彼を机に縛り付け、やがて取り返しのつかない運命へと導いていくのだった。彼はそんなことも知らず、ただ一人、冷めたコーヒーの苦さを舌で味わっていた。




