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わたくし悪役でしてよ  作者: しぶぬきかき
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出会いましてよ

 

 その日のお昼のことでしてよ。校内放送で風紀室に呼ばれたのは。


『1-C、桜子・フォン・マツリバヤシ。1-S、サリエ・マヒロは直ちに風紀室に来るように。繰り返します――』


 まあ、なんという僥倖! あちらからノコノコとわたくしとサリエさんを呼び出すなんて。嫌がらせした甲斐がありましてよ。

 今、行きますわよ。急いで、でも廊下は走らずに。ウォーキングの成果を発揮するところでしてよ。1-Cの教室からはちょっと遠いですけれど、お昼休みの間に往復してみますとも。

 そうだわ、今日は部活の後にトレーニングルームへ行って見ましょう。結局、あの日以来一度も行ってないですもの。歩行速度を計ってみますことよ。

 

「失礼いたします。1-C、祭囃子桜子参上いたしましてよ! サリエさんはどこですの?」


「……ずいぶん早く来たネ、桜子ちゃん」


 意気揚々と風紀室へ入ると紺色の髪の生徒さんが、サンドイッチを頬張っていましてよ。口の周りを舌で舐めると、例のピアスがチラリと見えましてよ……。い、痛くないのかしら?


「お昼食べたー?」


「そうでしてよ。お昼どころではありませんことよ! サリエさんは? 風紀委員長は?」


 そうです、肝心のお二人がいませんのよ。


「いいんちょー今来るから待っててネ。あれ? お昼持って来なかったの? ……食べる?」 


 珊瑚島さん、と言ったかしら? 彼は食べ掛けの歯形の付いたサンドイッチを、朗らかに笑いながら差し出してきました。見た目と違って優しい方ですのね。


「……結構でしてよ。お気遣いありがとうごさいます。珊瑚島先輩」


 わたくしも、買ってくれば良かったのかしら? 購買では牛乳以外買ったことがないから、そのような気が回らなくてよ。

 などと、反省していると委員長が入ってきましてよ。そして、その後ろにはサリエさん!


「待たせたな」


「失礼します、1-Sのサリエ・マヒロです」


 まあ、やっとお二人出会いましたのね! どこで、どのように出会ったのかしら? 見たかったわ、残念だわ!


「始めましてー、珊瑚島ケイでーす! 二人で一緒に来たんですかー?」


「ああ、ちょうど購買の前で会ったからな、こちらから声を掛けて一緒に来てもらった」


「はい。場所があやふやだったので助かりました!」


 まあ、そうでしたのね。だから先輩も、購買で買ったと思しきお昼を持っていますのね。


 あらまぁ、さすがバウワー公爵家の公子! スマートにサリエさんを二人掛けソファにエスコートして、さりげなくお隣にお座りあそばしてよ! ……珊瑚島さんとわたくしが、一人掛けを占領しているから、というのを差し引いてもでしてよ。


「まずは、食べてからにするか」


 そう言いながら風紀委員長は、一つの袋をサリエさんの前に置きましてよ。


「あ、袋持たせてしまってすみません、怜人先輩。でも……軽いから自分で持てたのになぁ」


「重さの問題ではない。女性に物を持たせたらおかしいだろう?」


「そ、そうなんですか? じゃあ、ありがとうございました。ふふ……」


「ん? 何がおかしい?」


「いえ、重くても軽くても自分で持って当たり前なので……なんかビックリっていうか」


「……そういうものなのか?」


 まぁ、とても良い雰囲気でしてよ、お二人とも!

 あら? でも、サリエさんと風紀委員長さんは出会いを果たしましたし、そうすると、わたくしここにいる必要はないのではなくて? そうですことよ! わたくしの役目も(一旦は)ここまでですわね。


「では、ごきげんよう、みなさん! ほほほほ」

 

「誰が帰って良いと言った?」


 ええ。だって、お二人に出会っていただくのがわたくしの役目でしてよ?


「サリエさんもいらしたことですし、わたくし邪魔ではありませんこと?」


「いや、まずは……そうだな、マツリバヤシ。その場所は俺の場所だから、君はここに座るんだ」


 委員長はそう仰って立ち上がりましてよ。ここが、委員長さんの席だなんて知らなかったので。


「あら、失礼いたしました」


 委員長さんとわたくしの場所交換ですわ。二人掛けのサリエさんのお隣にわたくし。みなさんのお食事が済むまで待っていればよろしいのね? やはり、買ってくるべきでしたわ……。あら、サリエさんのお弁当は、委員長との恋愛パラメーターを上げるための「から揚げ弁当」ではなくて? たしか、「あーん」するとパラメーターが上がる、すぐ売り切れになってしまうお弁当!


「……マツリバヤシさん。お昼買ってこなかったの?」


「え、ええ……」


「お腹空かない? あ、卵焼きどうぞ! から揚げもあるよ」


 そう言ってサリエさんは、卵焼きをお箸で取ってこちらに差し出しましてよ。


「はい、あーん」


「え、あの……」


 お行儀が良くなくてよ。ああ……でも、内緒なのですけれど、万裕子ちゃんとコッソリやったことがありますの。懐かしいですこと。サリエさんの笑顔は無邪気で、あのときの万裕子ちゃんの笑顔を彷彿とさせましてよ。懐かしさに駆られて思わず口を開けてしまいましてよ。


「ふふふ、美味しいですわね」


「うん! じゃあ、から揚げも!」


「ありがとう、サリエさん」


 ふふふ、ほほほほ! やりますわね、サリエさん……なかなか美味しいから揚げでしてよ。さすが、パラメーターを上げるだけはありましてよ。でも、わたくしの万裕子ちゃんの地位(大親友)は、上げられませんことよ!


「仲良いっすネ!」


 え? ちょっとお待ちになって。わたくしが「あーん」してどうしますの? 本当でしたら委員長さんにやっていただくべきですのに! なぜ!? 委員長さんも珊瑚島さんもなぜ、そんな微笑ましいお顔をしてらっしゃいますの!? お二人の変なパラメーターが上がったのではなくて?


「マツリバヤシさん! はい、あーん」


 サリエさん、もうお止めになってくださいませ! そのから揚げは委員長に「あーん」をして差し上げて! 




「まず、これだ」


 わたくしたち各々、何かのパラメーターが上がった昼食を終えると、委員長がテーブルに袋を置きました。わたくしが今朝用意した牛乳とタオルの入った袋です。


「なんですか、これ? 牛乳とタオル? これがどうかしたんですか?」


 サリエさんは袋の中を見て、やはり首を傾げていましてよ。可愛らしい仕草ですこと。


「それは、マツリバヤシが君の下駄箱に入れていた物だ」


 ずばり仰る委員長に、わたくしは体が竦んでしまいましてよ。自分で仕出かした悪事とは言え、サリエさんに嫌われたり軽蔑されるのはやはり心苦しいものです。いいえ、わたくしは言い訳も逃げも隠れもしませんことよ。


「え? マツリバヤシさんが?」


 サリエさんの瞳が驚きで見開かれましてよ。わたくしが犯人だと知って、さぞや驚いているのでしょうね。


「いつからやっていたんだ?」


「……先週の月曜日からでしてよ」


「え? 全然気知らなかったなぁ……下駄箱に牛乳とタオル詰められてたなんて」


 ほほほほほ、でしたら、そのことを知った今の驚きは計り知れないでしょう。しかも「あーん」までしたわたくしに、嫌がらせをされていたなど!


「サリエさんの下駄箱はいつでも空っぽで綺麗に保たれていたので、詰め甲斐が……え? 知らなかった?」


「……ん? どういうことだ? こんな大きな袋が入っていたら普通は気付くだろう」


 わたくしと委員長の疑問は尤もでしてよ。


「あ、あの。寮からだと、食堂通ると校舎が近いので。下駄箱には行かないんです」 

 

 あら……なんとまぁ。食堂を通るときに上靴に履き替えるので、外靴と上靴は持ち歩いている、と。

 そう言えば、中島先輩もそのようなこと仰っていましてよ……。ほとんどの女子生徒さんは、寮を通って校舎に行く、と。

 たくしの嫌がらせは無駄でしたのね……。いいえ、そんなことなくてよ。だって、二人は今ここで、こうして出会いを果たしましたもの


「わ、私、マツリバヤシさんに嫌われてたんだ……確かに初対面で泣いちゃったし、仕方ないのかなぁ」


「ち、違……」


 い、いけないわ、桜子。ここで折れては。ここで頑張れば、委員長とサリエさんの仲が深まることうけあいでしてよ。でも、上手く説明しないとサリエさんに嫌われてしまいましてよ。


「あの、サリエさんのことは嫌いではなくてよ。むしろ好感を持っていますわ! でも、わたくし意地悪なので、たまに意地悪したくなるの。分かりまして? でも、その意地悪は本心ではないことよ!」


 必死で説明すると、サリエさんは大きな瞳をぱちり、とさせて微笑みました。


「そ、そっか……嫌われてはいないんだね! 良かった」


 わたくしも良かったですわ。上手く言い逃れできましてよ。


「うんにゃ? さっぱり分かんなーい」


 珊瑚島先輩、あなたに分かっていただかなくても、よろしくてよ!


「まあ、俺にも全く分からんが……。マツリバヤシ」


「なにかしら? 委員長さん」


「お前が捻くれて素直ではないことは知っている。だが、お前が誰かを好きになるのは良い事だと思う。俺は(同性同士の恋愛に)偏見はないつもりだし……」


 そうですことよ! 貴族だとか庶民だとか、そんな偏見いりませんことよ!


「これは直接、サリエ・マヒロに渡すと良い」


 そう言いながら委員長に今朝の嫌がらせの品を手渡されましてよ。

 直接渡したら嫌がらせになりませんことよ!




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