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【7話完結】極上アルファを嵌めた俺の話  作者: 降魔 鬼灯


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7/7

SIDE 司

 生まれた時から、全てを持っていた。


 地位も名誉も金も、才能も。つまらない世界を支配するだけのつまらない人生。


 大人たちはいつか自分の運命の番を見つけたら人生が変わるよと、訳知り顔で諭してきたが、希望など見いだせなかった。


 飽き飽きする毎日に疲れ果てていた頃、悠理に出逢った。

 

 


 高名な音楽家であるアーネストが唯一取ったちいさな弟子。彼の演奏を聴いた時、心が震えるのを感じた。

 なんて美しく澄み切った音色なんだ。

 

 自分より2つ年下の彼をもっと知りたい。話したいと生まれて初めて、渇望した。



 アーネストに権力の全てを使って圧力をかけて、弟子にさせた。彼は初めは渋っていたが、司を教えるのは悠理で良いというと悠理の良いライバルになると二つ返事で引き受けた。


 悠理との時間は格別だった。


 司の周りに集まる人間は司の持つなんらかのモノ目当てで寄ってくる。

 しかし、悠理は違った。悠理の出す音のように曇りのない美しさで司に寄り添った。

 かわいい。地味で目立たない悠理の可愛さに気付いてしまったその瞬間、私だけが気付いているんだという優越感で一杯になった。

 更に悠理にはまった瞬間だった。


 まだ幼いその手が美しい曲を奏でるのに感動して「ピアノ上手だね。」と言いながら、その手を包み込んだ。

 ちいさくてかわいいその手が美しい曲を奏でる奇跡。すべらかなその手をずっと触っていたい。それになんだか良い匂いがする気がしていた。



 魂が惹かれるんだ。


 すると頰を桜色に染めた悠理が『おおきくなってコンクールで優勝したら結婚してください。』と言ってきたのだ。


 人生最良の日。浮かれすぎた私はだだコクリと頷く事しか出来なかった。

 私の持っているものを虎視眈々と狙う人間に囲まれて生きてきた私にとって、私の持っていない、だが努力次第で手に入れられる将来の姿を想像させてくれるその言葉に心を根こそぎ持っていかれた。


 誓うよ。悠理、君を倒し、優勝して君を手に入れる。


 その瞬間、私にとって世界が極彩色に変わったのだった。


 悠理は大人になるにつれ、私と距離を置くようになった。

 その頃にはアーネストも私に可能性を見出したようでレッスンするようになっていた。

 

 曰く、見かけによらず人間臭くて貪欲な君のピアノは悠理の良い刺激になると。

 


 悠理のピアノは繊細な硝子細工のように美しい。心が洗われるようだ。

 ただ、その美しすぎる旋律は清らかすぎて、面白味にかけると、アーネストはなんとか悠理に人生経験を積ませようとしていた。


 しかし、悠理は泥水のような環境にあるにも関わらず蓮の花のように穢れることなく凛としていた。

 借金もあり、将来が不透明なのに司に頼ることもない。孤高のオメガ。


 穢してみたい。ゾクゾクする。


 悠理の全てであるピアノを奪って、私の事を認識させたい。優勝しなければ借金が返せず、娼館に送られる切羽詰まった状況。

 起業して稼いた金で悠理の債権は買い取った。悠理が昔のように話してくれれば……。

 私は狡い。悠理を金で買うつもりだ。優勝さえ阻止すれば、金の力で悠理を手に入れる。


 

 聴いてよ悠理、私の全てを。



 悠理が食い入るようにこちらを見つめる中、君への思いの丈を全てピアノにぶつける。


 優勝なんてさせない。




☆☆☆☆☆


 パーティーで悠理から話しかけてくれて昨夜は夢のような一夜を過ごした。

 悠理の瞳を見れば私を心良く思っていないことはわかっていた。


 だけど、偽りでも悠理の同意を得て番にもなれた。悠理が出した条件が可愛すぎて悶え死にそうになったが……。


 微睡む悠理が可愛すぎる。君から全てを奪った私に君はどんな罰を与えるのか?


 目覚めてすぐ、私の噛み跡がくっきり刻まれたうなじを見せつけながら、ボールペンを手に悠理が宣言した。


「司、俺は絶対に別れないからな。一生幸せにするってお前は誓ったんだからな。ここに証拠もあるんだ。」


 流れてくる昨夜の可愛すぎる番になる条件。


 可愛すぎて、ご褒美以外ないだろう。発情の影響で少し甘えたような悠理の声が可愛すぎる。可愛すぎて萌え死にそうだ。


 後で永久保存用にそのメモリを拝借しよう。


「悠理出逢った頃からずっと愛してるよ。まだ発情期で辛いだろう。条件通り一生側にいよう。決して別れないと誓うよ。」


 悠理の瞳の奥がゆらぐ。涙がこぼれた。


「嘘だ。お前には絢音さんという恋人がいるんだろう。」


 え?絢音?絢音は母だが……。


 もしかして、嫉妬。嫉妬なのか。えぐえぐ泣く悠理が可愛すぎて、心臓がヤバい。これは新手の暗殺方法か?


「母親なんて見え透いた嘘をつくな。信じないからな。今日からお前は俺のものなんだからな。絶対に誰にも渡さないんだから覚悟しろ。」


 キッとこちらを睨む悠理が可愛すぎて身悶えた。私は悠理のものか。悪くない。心が満たされていくのを感じた。


 悠理、発情期はまだ長い。私の気持ちゆっくりわからせてあげるね。


 甘く誘うように薫る悠理の身体を抱き締め、唇を重ねた。

 

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