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【7話完結】極上アルファを嵌めた俺の話  作者: 降魔 鬼灯


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2/7

カノン

 悠理の最後の望みを託して参加したコンクールの入賞者達を招いたパーティー。


 みんなの中心で輝く司と準優勝にも関わらず、誰にも見向きされずにそっと佇む悠理。


 あまりの違いに眼の前が暗くなる。この男さえいなければ……。憎しみに曇った眼で見ても、彼は充分に魅力的だった。


 光り輝く金のトロフィーを手に入れること。ずっと目標にしていた夢が潰えた。

 あとは、コンクールを見た人々の中にパトロンになっても良いという奇特な人がいれば、助かるのだが……。

 だが、衆目を集めるのは優勝者、東郷 司ただ一人。

 悠理は、その事実に打ちのめされまいと、必死で顔をあげた。


 しかし、そんな悠理の耳に入ってきたのは司を褒め称える人々の話。


「さすが、司様ね。」


「あの冷たい瞳が素敵。なのに演奏の時だけ見せる情熱的な表情ったら。あの方と付き合えたら素敵だわ。」


 さざめく波のように美しきドレスに身を包んだ女性達が口々に囁く。

 人々の関心はひとえに美しき優勝者にのみ向けられ、誰も地味な準優勝者には、誰も目もくれない。


 想像していたより残酷に人々の関心は東郷 司ただ一人に向けられていた。そんな時以外な発言が悠理の耳に届いた。


「あら、駄目よ。司様には心に決められた方がいらっしゃるのよ。」


 やはり、司には本命がいるのか。女にもオメガにも全く興味がなさそうだった司の本命が誰なのか悠理は気になって仕方なかった。

 姦しい女性陣たちもその情報が意外だったのかざわめいている。


「だったら、一夜でも良いから、抱かれてみたいわ。」

 一際美しい気の強そうな令嬢が、とんでもない発言を繰り出す。

 しかし、即座に側にいた令嬢が止める。


「そんなお誘いにも、一切応じられる事はないそうよ。実際に発情期のオメガですら、何人も撃沈しているってもっぱらの噂よ。」


 アルファは普通、発情期のオメガの誘惑には勝てないはずだ。それに、発情期のオメガに誘われたアルファはつまみ食いしたところで罪にはならない。

 だからこそ、それすらしない司の相手への深い想いに周りがざわめいた。


「そんなに司様に思われている方が羨ましいわ。やはりオメガなのかしら。」

 ため息とともに女性たちが同意している。


 そんな時、パーティー会場の視線を一身に集めるふわりと妖精のような少女が現れた。

 明るく柔らかな栗色の髪がくるくると美しいカーブを描く絵本の中に出てくるお姫様のような圧倒的存在感。


「司、おめでとう。」


 お姫様が司にふわりと抱きついた。お姫様と騎士のような対になる2人の存在感に周りが圧倒されたようにため息をつく。


「ありがとう、絢音。優勝できたのは、絢音の献身的なサポートのおかげだよ。」

 

 はにかむようなその笑顔に貴婦人達の興奮したようなさざめきが広がる。

 

 司はあの美少女の献身的なサポートを得て、優勝したのか。心にトゲが刺さったような苦い気分で悠理はふたりを見ていた。

 誰にも邪魔できない完璧な美しい世界。その世界を悠理はぶち壊したいという衝動にかられた。

 


 極上アルファ司に相応しい美しく品の良いオメガ。

 ただオメガというだけで発情期もなく地味でベータとしかみえない自分。しかも明日からは質の悪い発情剤を打たれて、オメガ専用娼館で狂って野垂れ死ぬのを待つだけの自分。


 同じオメガでも月とスッポンも良いところだな、悠理は自嘲した。



 輝くようなふたりが憎らしくて、悠理の心の奥底で悪魔が囁く。



 仲良く話すふたりの間を引き裂くように無神経を装い割り込んだ。


「司。素晴らしい演奏だったね。今日の演奏について少し話したいことがあるのだが、すこし良いかな?」


 準優勝者として同じ師匠に習った兄弟弟子として、優勝者の演奏を称えつつアドバイスを求める。


 普段はコンテスト終わりにはこうやって話しかけてくるのは司だ。

 もう、ピアノを弾くこともない悠理には必要のないことだが、教えてほしいというように迫る。

 今までのことや世間体を考えれば、ここで悠理を邪険にすることは出来ないはずだ。


 案の定、にこやかな笑顔で司が応じる。無遠慮にふたりの間に割り込んだ悠理の腰を引き寄せて大切な想い人から遠ざけたように見えた。

 安心しろ、お前の想い人には危害を加えたりしない。嵌めるのはお前だけだ、悠理は司に微笑みかけた。


「悠理、君のところへ行こうと思っていたんだ。君の演奏は本当に素晴らしかった。ここではなんだから、向こうに行こう。」


 司は絢音にまた後でと声をかけてパーティー会場をあとにした。


 ホールを抜けて人目がなくなったエレベーターホールで罵倒されるかと思いきや、司はにこやかに悠理を見つめた。


「ピアノがあったほうが良いよね。」


 想い人との逢瀬に無遠慮に割り込んだ敗北ピアニストを邪険にすることなく優しい気遣いを見せた司はエレベーターにカードキーを差した。


 パーティーも終盤とはいえ、主役である優勝者が会場から抜けて良いのだろうか?

 まあ、音楽業界から消える悠理には関係ないが……。


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