112匹目 非常事態
ちょびっと長め。
R15注意。
「エルー。来たぞー。何があったんだー?」
カラーンコローンっとドアベルを鳴らしてアトリエに入る。
現在始まりの街の防衛戦の真っ最中なんだが、エルから突然「やばいデス!ピンチデス!やばいがピンチデス!!早くアトリエに来るデス!!」という謎のメッセージが届いたため戦闘を中断してやって来たのだ。
ちなみに珍しく俺は今1人だな。ボーパル達は少しでも回復をするために一旦送還して休んでもらっている。召喚しているときよりも送還した方が自動回復量が増える事に気付いたのはイナリを召喚できるようになって控えのモンスターが出来たからだな。とはいえ召喚モンスターが誰も居ないとか不安で仕方が無いから常に誰かは召喚しておきたいところだがアトリエに居る間ぐらいは大丈夫だろう。
「エルー?居ないのか?」
人を呼び出しておいて留守とは何事か。それとも奥に居るのかね?
「ユ~ウ♪」ドンッ!
「うおっ!?」
なんだ!?突然背中に衝撃が!?敵襲か!?
「えへへ~。ビックリした?」
「お、おう。すごいビックリした……な、なぁ。どうして俺の背中に抱きついているんだ?……フィアちゃん」
そう。突如背後からとびついてきただけで無く、コアラの様に俺の体に抱きついたまま俺の肩越しに頭を出して、えへへ~。とちょっと照れたように幸せそうに笑っている表情豊かな少女は、このアトリエの主人の1人でクール。時々デレでおなじみのフィアちゃんその人だ。たぶん。おそらく。双子とかじゃなければ。
「ん~?フィアが、ユウに抱きついているのはね~。フィアがユウを大好きだから!!」
「ぐふっ!?」
唇が頬や首筋へ触れんばかりに顔を近づけての100点満点の笑顔&直球での愛情表現のあまりのかわいらしさに一瞬呼吸が止まったかと思った。
普段表情があまり変らないフィアちゃんだからこそ笑顔の破壊力がハンパない……これがギャップ萌えというものか……
「え……もしかして……ユウはフィアの事がキライになったの……?」
ついさっきまで太陽のような笑顔を浮かべていたフィアちゃんの表情が一気に曇り、今にも雨が降りそうになる……って、ヤバイ!
「い、いやいや!俺がフィアちゃんの事を嫌いになんてなるわけが無いよ!!俺もフィアちゃんが大好きだよ!!」
あれ?俺は一体何を言ってるんだ?
「うん!!フィアもユウの事だぁ~い好きだから。おんなじだね!!フィア知ってるよ?そう言うのそーしそーあいって言うんだよね!!」
「お、おう……せ、せやな……」
誰だこの子ーーーーーー!!?絶対フィアちゃんじゃないって!フィアって名乗ってるけど、フィアちゃんと偶然同じ容姿で同じ声で同じ名前の別人って言われた方がまだ納得できるレベルで性格が反転してるよ!?あれかな?今流行りの異世界転生かな?異世界の人の身体に入っちゃうやつ!!
うん。まぁ、プレイヤーならともかくNPCのフィアちゃんにはそんな事は無いとは思うけど……いやまて、プレイヤーでも無いか。
やばい。思ったより混乱してるっぽい!こんな事なら混乱耐性取っておくんだった!!
「う、うん。フィアちゃんも俺の事が大好きなのは分かったけど、後ろから突然とびついてくるのは止めような。ビックリするからな」
「うーん……いやだー!」
「そうか~。いやか~」
気のせいか知能レベルも下がってない?それともフィアちゃんは好きな人の前ではこんな感じの甘えん坊なのかな?
かわいいんだけどさ。かわいいんだけども。
「だってね~。ユウは~フィアがとびついたらすご~くビックリした顔になるんだけど~抱きついているのがフィアだって分かったらふわって柔らかい顔になるのー!フィアそのユウの顔が好きだからとびつくのは止めたくないの。ごめんね?」
「あ~、うん。ならしょうがないなー」
「しょうがないね~」
えーと、未だに状況がよく分かっていないんだが……とりあえずこのかあいい生物をお持ち帰りすればいいのかな?
たぶんそうだろう。そうに違いない!
というわけで、フィアちゃんをお持ち帰r……
「ユウ!待っていたデス!」
する寸前にはっと我に返った。
エル、ナイス!危うく持っていかれるところだった……理性とか、倫理感とか、貞操観念とかが。
「エル!俺も待ってたぞ!これは一体どういう状況なんだ!?」
俺は”これ”の所で相変わらず俺に抱きついたままニコニコしているフィアちゃんを指す。
エルもこの非常事態は重々承知している様で俺が全てを言い終わる前には次の言葉を言うために口を開いている。
「それがエルにもよく分からないのデス!突然フィアがこうなって、ユウに会いたいって騒ぎだしたのデス!!
エルはこれから心当たりを探してみるデスから、ユウはフィアがこの工房から出ない様に相手をしてやって欲しいデス!
何があっても絶対にフィアをこのアトリエの外に出したり、キッチンや倉庫ぐらいならともかく、エルが居る工房の奥にまで行かせたりしたらだめデスよ!!
それじゃあ、よろしくお願いするデス!!」
「え、あ、ちょ……」
言いたいことだけ言うと、エルは来た時と同じようにピュ~っと工房の奥へと戻ってしまった……って、ちょっと待って!!今のフィアちゃんと俺を2人きりにしないでえ~~~!!
「すんすん……ふわぁ~。ユウの匂いがする~。フィアこの匂い好き!」
「お、おう。そうか。それは良かったね……」
う~ん。でも確かにエルが取り乱すのも分かるレベルで今日のフィアちゃんはおかしいなぁ。
エルの言い方だと、フィアがこのアトリエを出る事になにか不都合があるみたいだし。フィアちゃんが元に戻るまでしばらく付き合ってあげようかな。
フィアちゃんにメチャクチャ嫌われてるとかなら心を守るために全力で逃げるけど、ここまであからさまに好意を寄せられて嫌な気はしないしな。むしろ嬉しいしな。
まぁ、俺から手を出さないように耐えていれば問題も無いだろう。
……え?さっき衝動に任せてフィアちゃんをお持ち帰りしかけなかったかって?ソ、ソンナコトハナイヨ……?
「うん!!ユウの匂いも声も体温もみ~~んな大好きだから。もっとぎゅ~ってしちゃえ!ぎゅぅ~~~!!」
「は、はは……あんまり強く抱きついたら痛いから程ほどにね……」
「えっ!?痛かった?ごめんなさい……フィア……ユウと一緒に居られるのが嬉しくて……許して……くれる?」
「……も、もちろん!!そんなに痛かったわけじゃないし大丈夫だよ!」
「あっ!じゃあフィアが痛いの痛いの飛んでけーってしてあげるね!
いたいのいたいの~とんでけ~!
いたいのいたいの~~~~とんでけ~!
……あれ?ユウ?どうしたの?急にお口を押さえてプルプル震えだして……
はっ!まさか、フィアが”飛んでけ~”した、痛いのがユウのお口に付いちゃったの!?」
「う……ううん。だ、大丈夫。心配してくれてありがとう。フィアちゃん……」
耐えられるかぁああああああああああああ!?
何!?修行!?これは俺の精神値を鍛えるための修行なのか!?
頭の中がくちゃくちゃでおかしくなりそうだから、フィアちゃんが今した3つのやり取りを上から順番に解説してやる!!(錯乱)
まず一番上。フィアちゃんがぎゅ~してきた所。
フィアちゃんは俺の背中に張り付き足と腕を俺の体の前に回した、所謂だいしゅきホールド状態で俺にくっ付いており、その状態から更にぎゅ~っと力を込めて俺を抱きしめ、更に更に、肩越しに覗かせていた顔を俺の首筋に押し付けスリスリと自分の物だと主張するように擦り付けて来たのだ。
と、なれば当然俺は体全体でフィアちゃんの女の子特有の柔らかさと、温かな体温を。首筋から頬にかけてでフィアちゃんの息遣いと、さわさわともどかしく触れる髪の感触を。そして、フィアちゃんが顔を擦りつけてくる度にフィアちゃんからふわりと漂ってくる甘い香りを堪能してしまう事になるのもまた必然だ。よく耐えた。俺偉い!
んで、次。フィアちゃんが俺にごめんなさいしてきた所。
俺が痛いと言ったとたんフィアちゃんは俺を抱きしめていた力を緩め、俺がちょっと勿体無かったかと思っている間に俺の正面へと回りこんだフィアちゃんが目にほんの少し、きらめく涙を浮かべ、ちょこっと不安そうな上目使いで「許して……くれる?」なんて聞かれたらなんでも許すに決まってる!!
そして、俺が許すと言った瞬間につぼみが花を開くようにぱぁあああ!っと輝く笑顔なんて向けられたら次も絶対許しちゃう!!
あざとい!フィアちゃんあざとい!!あざとかわいい!!大好き!!
そして最後。いたいのいたいのとんでけ~の所。
もうね。かわいい!説明不要!
……とは問屋が卸さないので詳しい説明をする。まぁこの場合の問屋は何を商っているのかさっぱり分からないが。もしフィアちゃんのかわいいエピソードを販売しているのならば店ごと買い取る事もやぶさかでは無いのに……
閑話休題さっきのフィアちゃんの話だな。
蕩けそうな悦びに満ちた表情で俺の首筋に顔を埋めていた後、泣きそうな表情で俺の顔を窺い、花が咲いたような可憐な笑顔になったフィアちゃんは、今度は真剣そのものといった表情でさっきまで自分の手足が絡まっていた俺のお腹や、胸の辺りをちっちゃなお手でなでなでしながら「いたいのいたいの~」と言い、次の「とんでけ~!」で縮めた体を大きく広げて”いたいの”をどこかへと飛ばす動作をする。
これがもう。かわいくてかわいくてしょうがない!!フィアちゃんは真剣にやっているのが、表情からも伝わってくるからついつい口元がにやけてしまいそうになるのを隠すために口を手で覆ったが、フィアちゃんはなにやら勘違いをしたみたいで、すごく心配そうに俺の顔を覗き込んできているし……
っよし。気持ちの整理もついたし。気分も心臓もある程度は落ち着いた。フィアちゃんをあんまり心配させたままにしておく訳にもいかないし、早く声をかけないと……
「……ん、ん~。あー、フィアちゃん。ありがとうね。フィアちゃんのおかげでだいぶn」
ちゅっ
「ん……んん!?」
え?なに?フィアちゃん顔ちか……というか唇が、触れ……なに?え?キ……!?
「え、えへへ~。いたいのいたいの奪っちゃった♪」
「……」
そっと自分の唇に左手を添えながらチラチラとこちらの顔を……というか唇を窺いながら話すフィアちゃんの顔はリンゴの様に真っ赤になっていて……でもそれはきっと俺も同じなんだろうな~と頭の片隅にある冷静な部分で考える。
片隅以外?しっちゃかめっちゃかの大騒ぎですが何か?
「……ん、ん~。なんだか今日は暑いね。フィア、ジュース取ってくるね!ユウはここで待ってて!」
「お、おう。ごゆっくり……」
この場合に言うセリフがこれで正しいのかさえも、もう分からない。でも一言だけどうしても叫びたい事がある。
……惚れてまうやろぉおおおおおおおおおおおおおおお!!
もふもふ!
誤字脱字ありましたら感想のほうへお願いします。
ラブコメの波動を感じる・・・!!
前書きのはR15(ギャルゲー)注意という事で。
いや~ついにフィアちゃんがデレましたね~クールデレもいいけど、主人公大好きなデレデレヒロインもいいですよねぇ~。ちょっとあざといぐらいがまたいい!
はたして、ユウは一体いつの間にフィアルートのフラグを立てていたのか。まぁMPの回復薬を作る為にアトリエに通っていた所をばっさりカットしているのでその時に何かがあったのか・・・
ウソです。
今回はエイプリルフールのネタ回です。
フィアちゃんは今はまだユウに対してはツンツンだし、ユウも防衛線を放り出して彼女の元に行ったりはしていません。
次回こそが、本当の113匹目でシルフ視点での東門防衛戦の予定です。お楽しみに。
・・・デレデレなフィアちゃんの需要が高ければまた出るかも。間違えてお酒をのんだり、媚薬を飲んだりしたときとかに。




