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捕獲

 

 不気味なまでに黙ったままのレイヴン。

 頭の上にはフローラの使い魔であるフクロウが優雅に寛いでいるというのに、振り払う事もせずに平然としているのだ。


 明らかに様子がおかしい。


 異変を察したクレア、ルナ、ミーシャの三人は、レイヴンから付かず離れずの絶妙な距離を保ったまま正しい道を進んで行った。



 暫く進むとそれ程高くは無い木で作られた壁と門が見えて来た。

 魔の気配がする者を寄せ付けない仕掛けがあるからなのか、警備をしている様子も無い。


「何だかのんびりとした雰囲気ですね」


「でも、人の気配がしないよ?」


「ねえ、フクロウさん。本当にここが東の国なの?」


「フクロウさん?ああ、私か。フローラで良いわよ。ここが入り口の一つ。この門を潜った先が、魔鋼の国って呼ばれてる場所」


「え?それだけ?名前とか無いの?」


「そんなの無いわよ。この場所は街であり国。国であり街なのだけれど、本当はただの家なのよ」


「「「???」」」


 街であり国。国であり街。けれど、ただの家。

 フローラが何を言っているのか不明だが、国は国で、街は街だ。


「ほらほら、早く行くわよ。今はお祭りみたいなものやってるから見学してみる事をオススメするわ。多分、この国の事がよく分かると思うから」


「お祭りで人柄が分かるという事でしょうか?」


「んー、そんなとこ。今年はちょっと過激だけど、大丈夫!」


「はあ……」



 門を潜った先は森、山、川など、今までと変わらない景色が広がっていた。そしてずっと遠く、一風変わった色の山とも森とも違う場所が見える。周辺には集落がいくつかあるので、あの辺り一帯がこの国の中心部だと思われる。


 東の国に入る事には成功した様だが、門からあの灰色の山までたどり着くには距離があり過ぎる。


(その前に……)


 レイヴンは頭の上のフクロウを鷲掴みにすると、いつの間に抜いたのか魔剣をフクロウに突き付けた。


「ぐえええ!く、苦しい……!ちょっと!感覚も繋がってるんだからもっと丁寧に扱いなさいよ!」


「おい。この姿はどういう事だ?どうしてわざわざ指輪に細工をした⁉︎ 」


「何よ何よ!何も言わないから気に入ってるのかと思ってたのに!美人なんだし良いじゃないの!」


 何も言わなかったのは無事に入る事が出来るかどうか確認する為であって、文句を言いたいのを我慢していただけだ。

 クレアは好きだと言ってくれたが、それとこれとは別だ。


「そんな訳あるか!今直ぐ元に戻せ。あれから随分経っている。勿論、方法は見つけてあるんだろうな?」


「へ?あー……うん。覚えてた!覚えてたよ⁉︎ 何でそんな顔するのよ!本当だって!でも今は駄目!無理!む〜り〜!私の用事が終わったら戻してあげるから、それまで指輪を外さないように!外すと大変な事になるから注意してね。じゃっ!私はこれで!!!」


「何度も同じ方法が通用するか!!!」


 レイヴンは細い鎖を輪にした魔具を素早くフクロウの首に巻き付け、フローラの操るフクロウが霧になって逃げるのを阻止した。


「ズルい!何でそんな物持ってるのよ!」


「煩い。俺はずっと旅をしながら冒険者の依頼をこなしてきたんだ。獲物を捕獲する為の罠くらい持っている。言っておくが、逃げようとは思わない事だ。お前が俺を元に戻すまで逃がさないから覚悟しろ。感覚が繋がったままなら丁度良い…… 。この魔具は特別製でな、無理に暴れると首が落ちるぞ?」


 ーーーードクン。


「……ひえええ!何て事考えるのよ!」


「なに、大人しくしていれば問題無いさ」


 レイヴンが使用した鎖状の縄の形をした魔具は、魔物を捕獲する際に罠として用いられる事があり、先端に付いている特殊な石に魔力を流すと、細く頼りない見た目からは想像もつかないような強度を発揮する優れ物だ。因みにAランク程度の魔物までであれば噛み切られる心配も無い。

 とてもフクロウのような使い魔に破れる代物では無いのだ。


「レイヴン、流石にフローラが可哀想だよ」


「そうだよ。ちょっとやり過ぎなんじゃないかな?」


 いつの間にかレイヴンの傍へ来ていた二人は、親身な言葉とは裏腹に目を輝かせていた。

 完全に新しい玩具を見る目になっているのだが、フローラにとっては救いに映ったのだろう。器用に翼をバタつかせて潔白を主張していた。


「あんた達……!ほら!聞いた?聞いたでしょう⁈ だから今直ぐーーーー」


「だからさ、僕達がその鎖持っててあげるよ」


「フクロウさん触ってみたい!」


「へ?」


 レイヴンは少し迷ったものの、今の二人から逃げるのは至難である事と、二人がそれで大人しくしているならとの理由からフローラの身柄を預ける事にした。


「……逃すなよ?」


「「はーい!」」


「ぎゃああぁぁぁーーー!」



 子供というのは時に加減を誤る物だ。

 クレアとルナに揉みくちゃにされたフローラは白目を剥いて口をパクパクとさせていた。


(お前達もやり過ぎだぞ……)


 いつも肝心な時に姿を消すのが悪い。

 そう結論付けたレイヴンは、フクロウを触る二人を触るという怪しげな行動をするミーシャに、ツバメちゃんに乗って国の全体を見て来るように伝えた。


 自分達で情報を集めておくのは大切な事だ。

 本当なら直接街へ行って地図を入手するなりの方法をとる事も手段として考えられるのだが、この国が周囲から閉鎖された環境であった事を考えると、余所者が嗅ぎ回るような真似をして目立つのは避けたい。


(さて、ミーシャが戻り次第街へ行ってみるか。帝国と魔眼に関する情報があれば良いが……)


 指輪を外すと大変な事になると言っていたのも気になる。その辺りはフローラが目を覚ますのを待って問いただせば良いだろう。




「くるっぽー!」


 思いのほか早く帰って来たミーシャはとても興奮した様子で、身振り手振りを交えて状況の説明を始めた。


「レイヴンさん、レイヴンさん!この国凄いですよ!見た事も無いくらい大きな建物がいくつもあります!それに中央の闘技場に沢山の人が集まってました!何だか一部の人は武装していて……」


「成る程。それが祭りというやつか。他に何か見たか?」


「近くに行ってみないと詳しくは分かりませんけど、街の人達は普通の人ばかりですね。魔族と呼ばれる人達がいる様には見えませんでしたよ?それから、見た目も今の私達と然程変わらないので、このまま街へ向かっても人混みに紛れちゃえば大丈夫かと」


「武器の携帯状況はどうだ?」


「あ、そう言えば闘技場以外の人は誰も武器を持っていませんでした。クレアちゃんの剣は私の鞄に閉まっておくとしても、レイヴンさんの魔剣は……」


(何処かに隠しておくか?いや……)


 レイヴンの魔剣は呪いが解けた今でも持ち主以外の人間の魔力を吸ってしまう。

 マクスヴェルトの空間魔法で容量が拡がっただけのミーシャの鞄では心許ない。


「それなら僕の空間魔法でレイヴンの魔剣を隔離しておくよ。覚えたばかりだけど原理は完璧に分かってるから大丈夫。それに、その魔剣とは長い付き合いだったから扱い方は心得てる」


「分かった。だが、異変を感じたら魔法を解いて避難しろ。お前に何かあっては困る。自分の安全を優先するんだ。良いな?」


「了解!」


 ルナが満面の笑みで魔法を発動させると、何も無い空間に裂け目が出来た。


(こんな短期間でマクスヴェルトの空間魔法まで使いこなすとはな……)


「取り出したい時は言ってね」


「ああ。では、頼んだ」


 翳した魔剣は裂け目に吸い込まれるようにして空間の狭間に封印された。




いつも読んで頂きありがとうございます!


すみません。

どうにも体調が思わしく無いので、次回投稿は12月5日になるかもしれません。


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