今度こそちゃんと
神社に着くと、初詣客であふれていて、参拝する列ができていた。
「こんなにいるのか、並ぶしかないな」
「うん…」
「なんかおとなしいな、どうした?お腹でも減った?」
「誰のせいだと思ってるの?龍弥がキスなんてするから…」
「だってうるさいから」
「うるさかったらキスする?普通…」
「あとはしたかった…真央と」
「だったら…わたしはちゃんとしたかったよ…」
「ご、ごめん…」
「もういいよ、しちゃったから…」
2人とも顔を赤らめて無言になってしまった。
なんか気まずい…こんなことになるなら初めからキスなんてしなきゃいいのに…
後先考えずにこういうことするから…本当にバカ!しかたない、わたしから話すか。
「ねえ、冬休み中、もう一回くらいはデートできる?」
「あ、ああ…行きたいところある?」
「んー…」
ヤバい、特に考えてなかった…
「ぶ、ぶらぶらしたいかな…」
「なんだ、特に行きたいところはないのか」
「龍弥と一緒にいられればいいの!それくらいわかってよ…」
「す、すまん…」
なんだこれ?何を話しても気まずくなる…
どうすればいいんだ…
チラッと龍弥を見ると、まるで女性と話すのが苦手な頃のような表情をしていた。
なんなんだ一体、さっきは大胆にキスしてきたくせに、ホントよくわかんないんだけど。
こうなったら渇を入れてやる。
「龍弥、しっかりしろ!」
そういって、真央は背中をバシンと叩いた。
「いてっ…何すんだよ」
「オドオドしてたから。人前でキスする勇気あるならずっと堂々としててよ。まったく」
「あ、ああ…わかったよ」
今度は少しだけいつものような表情に戻ったので、これで大丈夫かな?とちょっと一安心。
「初詣終わったらさ、なにか食べるか?」
「そだね、屋台?それともお店?」
「どっちでもいいけど、せっかくだから屋台で何か買うか」
「だったらたこ焼き食べたいな」
やっと普通の会話に戻り、30分ほど並んで参拝するところまで進んだ。
「どうやるんだっけ?」
「最初はお辞儀じゃなかった?」
なんとなくお辞儀をしてから小銭を賽銭箱に投げる。
中に入ったのを確認してから手を二回、パンパンと叩いてから手を合わせて
目をつぶった。
願いごと…えーと…今年も1年、笑って過ごせますように!
参拝を終えて、2人で一緒に降りてから龍弥が聞いてきた。
「何お願いした?」
「内緒。だって言ったら叶わないっていうじゃん」
「そういえばそうだな。じゃあ俺も教えない」
「えー、聞きたい」
「嫌だよ、叶わなかったら嫌じゃん」
「ケチ」
「ケチじゃないだろ。それよりたこ焼き食べようぜ」
「うん、食べよう食べよう!」
たこ焼きを買い、2人で仲良く食べていたら「真央」と聞きなれた声が聞こえてきた。
「香蓮、やっぱり会ったね」
香蓮は佑太と手を繋いで立っていた。
「佑太くん、明けましておめでとう」
「おめでとう」
真央と佑太があいさつをしあったあと、佑太は龍弥に向かってペコリと軽く頭を下げ、
龍弥も同じように軽く頭を下げていた。
龍弥と佑太はほぼ面識がないので、お互いが若干緊張している。
「間に合ったの?」
「間に合わないよ!遅刻しちゃった…香蓮は?」
「わたしはギリ間に合ったよ」
ニンマリとしながらピースをしている。
香蓮のほうが待ち合わせ時間遅いんだから、そりゃ間に合うよね。
「じゃあ行くね」
「うん、また明日。佑太くんもまたね」
手を振って、香蓮たちと別れる。
一緒に行動してもよかったが、今日はそれぞれカップルでいたかった。
「明日も大谷と会うの?」
「うん、バーゲン行くの。龍弥も来る?」
「バーゲン…いいや、やめとく」
そういうのをわかっていて、真央も聞いている。
特に明日は気合が入っているので、もし龍弥が来るといっても断るつもりだった。
「それより次は何食べる?」
「え、まだ食べるの?」
「ちょっと食べたら腹減ってきてさ、唐揚げ食べようぜ」
こういうところは男子っぽいなと思い、クスクスと笑ってしまった。
このあと、いろいろ食べ歩いてから、少し公園を散歩していたらもう夕方になっていた。
「やっぱり暗くなるの早いな」
「ね、それにさっきより冷えてきたし」
「そろそろ帰ろうか」
「うん…」
薄暗いので人気が少ない。
真央はさっきキスしたことをずっと頭の中に残していた。
あんなどさくさ紛れじゃなくて、ちゃんとしたい…
「龍弥…」
さっきよりも強く手を握りしめる。
さすがの龍弥も気づき、手を放してから正面に回り込み、ジッと見つめてきたので、
真央はそっと目をつぶって少しだけ顎を上に向けた。
数秒後、唇に触れている感触が伝わってくる。
今度こそちゃんとキスしてる…
そのまま腕をまわし、お互い抱き合いながらキスを続けた。
しばらくしてから、名残惜しそうに唇が離れ、真央はゆっくりと目を開けて
龍弥を見つめた。
なんか恥ずかしいな…
目を逸らすと、ポンと頭に手をのせて撫でてくれた。
「帰ろうか」
「うん」
再び手を繋ぎ、寄り添いながら歩いていく。
どこにでもいる普通のカップルの光景だった。
「ただいまー」
元気よく家に帰ると、博幸が椅子を持って玄関に立っていたので驚いた。
「おかえり」
「何してるの?」
「玄関の電球が切れたから交換してたんだ」
この役割は、本来真央の仕事だった。
家の中で一番背が高かったからだ。
しかし、今の真央は一番小さくなってしまったので、
家の中の電球交換は博幸がやっている。
「お正月からご苦労さま。なにか手伝うことある?」
昔やっていたことをやってもらっているので、申し訳なく思い何か手伝いたかった。
「そうか、じゃあ椅子を抑えててくれ」
「はーい」
靴を脱ぎ、膝をついて座って、両手で椅子の脚を掴んで踏ん張った。
その椅子の上に博幸が立ち、電球を外す。
「真央、新しい電球ちょうだい」
「ちょっと待って」
新しい電球を渡し、それをはめて椅子から降りて、電気のスイッチをカチッと入れたら
パッと灯りが付いた。
「よし、OK。サンキューな」
「どういたしまして」
このまま部屋に行かず、リビングに顔を出して雅子のところに行く。
「ただいま」
「おかえり、ご飯は?」
「食べるよ、お雑煮。あとおせちもね」
それを伝え、部屋で着替えてから、再びリビングに降りると、
ちょうどお雑煮をよそっているところだった。
「おいしそう、やっぱりお正月はこれを食べないとね!いただきまーす」
お雑煮を頬張っていたら、雅子が年賀状を持ってきてくれたので、それを受け取り、
食べながらチェックする。
「なんかいっぱいきてる」
去年は3枚くらいしかこなかった記憶があるが、今年は20枚だった。
しかも、ほとんどがクラスの女子たち。
真央が出していない相手もいたので、あとで書いて出さないと、
と考えながら年賀状を見ていた。
あ、龍弥からちゃんときてる!
見てみると、シンプルに今年もよろしく!と書いてあるだけだった。
龍弥らしいな。
少しクスッと笑うと、それを見ていた雅子がニヤニヤしていたので、
わざと咳払いをしてから再びお雑煮を食べる。
すると、雅子がさりげなく真央のところにやってきて、
「今日はどうだったの?」と聞いてきた。
「どうもなにも…初詣に行っただけだよ」
「遅刻して大丈夫だった?時間言ってくれれば起こしてあげたのに」
「今度からそうする…」
そんな会話をしていたら、香蓮からLINEがきたので見てみると、
(行く?くる?)とだけ書いてあった。
香蓮にキスをしたことを話したい…でも今日はダメだ!
(こない、行かない)と送るとすぐに(なんで?)と返ってくる。
(明日はバーゲンだから絶対に寝坊できないよ!だから今日はなし)
さすがの香蓮もバーゲンは気合が入っているので(OK)と送ってきて、
今日はなしになった。
そうだ、明日はバーゲンだ!福袋も買いたいし。
明日に備え、ご飯を食べ終えた真央は早めに眠りについた。




