大事なことに気づかされた
真央は部屋でふさぎ込むようにうずくまっていた。
これでいいんだよね?
どうせ女らしくしていても、女じゃないんだから…
ドンドン!
ドアを叩く音がしたので、瞬時に香蓮だとわかった、
会いたくない!なんでくるの?
そう思っていても、香蓮が階段を上がってくる音が聞こえてくる。
そしてガチャリとドアが開き、香蓮がズカズカと部屋に入ってきた。
「何しにきたんだよ、帰れ!」
「帰らない。真央と話をしにきたから」
「かれ…お前と話すことなんてねーよ。早く出てけ!」
「なにその口調、すごく似合わないしダサいから」
「うるせーな!出てけって言ってるだろ!」
真央は思わずクッションを投げつけ、それが香蓮の顔に命中してしまった。
そこまで痛くはないだろうが、「あっ」と声を上げ、一気に罪悪感に駆られてしまう。
「ごめん…当てるつもりなかったのに…」
香蓮は無言のまま目の前まできて座り込み、真央の頬をつねってきた。
「い、痛い…」
「ぶつけた罰。それと、わたしのこと「お前」って言った罰。それと、何も言わずに帰った罰。それと…」
「も、もういいって…放してよ!」
ようやく香蓮が放してくれたので、真央はつねられていた頬を抑えた。
「もう今日みたいなバカなことしない?」
「バカみたいって…なんだよ」
すると、今度は反対の頬をつねってきた。
「だから痛いって!」
「男のふりだよ。今日の真央、嫌いだから。男の頃の真央と全然違うんだよ。わたしが知ってる男の真央って、なんだかんだいっても優しくて、口調も今日みたいに下品じゃなかった。少なくともわたしに「お前」なんて言わなかった」
「わ、わかったから放して!」
やっと手が放れ、つねられた頬を自分でさする。
軽くではなく、本気でつねられたので普通に痛みが残っていた。
まったく…と思いながら香蓮の顔を見ると、真面目な表情で言ってきた。
「あんな女に言われたくらいで自分を見失わないで!真央がどんな子なのかみんなちゃんとわかってるんだから。わたしはちゃんとわかってるんだから!」
「香蓮…でも…」
「今日みたいな真央は嫌なの!いつもの真央じゃないと嫌なの!!」
いつの間にか香蓮の目には涙が溢れていて、
それを見た真央はいまさらながら気づいてしまった。
わたしはバカだ…一番大事な親友をこんなに悲しませて…
そうだよね、衣香がなんて言おうと、わたしにはわかってくれる仲間がいる、
友達がいる、親友がいる、香蓮がいる!
「香蓮…ごめん!」
真央は涙を流しながら謝った。
「もうあんなバカなことしないから…だから許して」
すると、香蓮は優しく抱きしめながら「うん」と言ってくれた。
香蓮の温もりが心地いい。
「真央、わたしはいつだって真央の味方だからね」
「ありがとう…香蓮」
このあと2人は涙を拭いて、いつものように笑い、
今日のことはまるでなかったかのような雰囲気だった。
「ねえ、木谷のことはどうするの?」
「わかんない…けど、衣香に負けるのは癪!」
「だよね!あんな女に負けちゃだめだよ」
やっと真央は自分自身の心に、素直に向き合うことができた。
あとは龍弥次第だった。
翌朝、真央が慌てて玄関にやってきた。
「急がないと香蓮に怒られる!いってきます」
元気よく家を飛び出す真央は、いつもの真央だった。
ギリギリになりながらも、ちゃんと髪をとかしてあって、身だしなみもしっかりしている。
昨夜、香蓮ちゃんがきてくれたおかげかな。
雅子は微笑みながら「いってらっしゃい」と声をかけた。
「真央、遅い!」
「ごめん、のんびり支度してたらギリギリになっちゃって」
「まったく、足遅いんだから早く行かないと電車間に合わないよ」
いつものようなやり取りをしながら学校へ向かい、いつものように途中で巴菜と合流する。
「巴菜、おはよ!」
真央が今までのように巴菜と呼んだので、ニコッとしながら「おはよう」と返し、
香蓮と目を合わせて頷いていた。
さすが香蓮、1日で戻しちゃったね。
学校に着き、下駄箱で上履きに履き替えていたら、偶然にも衣香に出くわしてしまった。
衣香は相変わらずニコニコしながら真央に話しかけてくる。
「おはよう、竹下くん」
ここで怒ったら衣香の思うつぼだ。
真央もわざとニコニコしながら「おはよう、越野さん」と挨拶をすると、
一瞬、衣香の右目じりがピクッとしていた。
ついでだからハッキリ言ってやる。
「わたしのことをなんて呼ぼうと勝手だけど、ちゃんと言っておくね。わたし、女だから。越野さんがなんて言おうと女だから。だからゲイでもないから」
さらに右目じりがピクピクと痙攣している。
スッキリした真央は香蓮と巴菜に「行こう!」と言って元気よく教室へ向かった。




