ちょっとイメチェン
スカートをちゃんとお尻の下に敷いてから階段に座ってスマホを眺めていたら、
龍弥が隣に座ってきた。
「何してるんだ?」
「ん、別に」
すると、無言で缶コーヒーを差し出してきたので、それを受け取る。
「ありがとう」
「ああ」
それだけ言って、龍弥も自分の缶コーヒーを飲み始める。
そんな龍弥の顔を見て、真央はドキドキしていた。
好きになると、相手のどんな仕草でもかっこよく見えてしまう。
ちょっとだけ身体を動かして寄り添ってみた。
「どうしたんだよ?」
「龍弥に…近づきたかったから」
言っている自分が恥ずかしくなり、思わず顔を伏せてしまったが、
好きな気持ちは止まらない。
やっぱり龍弥と付き合いたい…
我慢できなくて、真央は自ら言ってしまった。
「龍弥…付き合おう…」
ちらっと龍弥の顔を見ると、最初は驚いた顔をしていたが、
すぐに怪訝な表情に変わっていた。
「何言ってるんだ?男同士で…気持ちわりー」
「え?」
スカートを履いていたはずなのに、ズボンに変わっていた。
慌てて身体を触ると、手はごつく、胸もない、股間にはあるべきものがあった。
「お、男に戻ってる!?」
そう叫んで頭が真っ白になったところで、急に視界が明るくなった。
ボーっとしながら、自分の手を眺める。
いつもと同じ小さな手、身体も触ってみたが女の身体だ。
夢…?
思わず「ほっ」とため息をついていた。
なんでこんな夢を見たんだろう…
そんなことを考えながら制服に着替えて家を出た。
「真央、遅い」
「ごめん、変な夢見ちゃって、ボーっとしてたらギリギリになっちゃった」
「どんな夢?」
香蓮が顔を覗き込みながら聞いてくる。
「えっと…男に戻った夢…」
「えー、なんでそんな夢見たの?」
「知らないよ!夢なんて意識して見るもんじゃないし」
香蓮は「それもそうか」と一人で納得していて、そのまま真顔で聞いてきた。
「真央はさ、男に戻りたいと思う?」
この話をしたら、絶対に聞かれると思っていた。
正直、今の真央にとって男に戻るというのは想像つかなかった。
だが、仮に戻れるとしたら?
「わかんない…」
そう答えるのが精いっぱいで、
それを聞いた香蓮は「そっか」と、一言だけ答えて無言になり、
なんとなく微妙な空気になってしまった。
いつもの香蓮だったら、「戻ったらダメ」とか言ってくると思っていただけに
少し調子が狂う。
なんとか話題を変えないと!
真央は前から思っていたことを香蓮に振ってみた。
「髪切ろうか迷ってるんだよね。どう思う?」
真央はずっと髪を伸ばしていたのでミディアムくらいまでの長さになっているが、
髪を乾かすのに時間がかかるので切ろうか迷っていた。
「え、そこまで伸ばしたのにもったいないよ!長いほうがアレンジだってできるし、そうだ、たまには結ぼうよ」
なんとなく…という理由でしかないが、真央は体育のとき以外は絶対に髪を結ばなかった。
なので、香蓮が楽しそうに髪を結んでくる。
あまりしたくなかったが、香蓮がいつもの感じに戻ったので今日はそれに従おうと思った。
「うん、たまにはこういう真央もいいね」
鏡で確認したら、ハーフアップになっていた。
いつもと違う雰囲気になったが、香蓮が言う通りたまにはこういうのもありかなと思った。
「木谷、喜ぶかもね」
「またそういうこと言う…」
けど、真央自身も龍弥がどんな反応するか少し楽しみだったので、強く否定はしなかったが、
懸念材料もある。
「それより、まだデート誘ってこないの?」
「全然。なんかクリスマスとかも1人でいいかなって思えてきたよ」
健吾が龍弥に話をしてから2週間が過ぎていたが、いまだに進展はなかった。
まもなく12月になるので、真央は半ば諦めムードになり、
若干どうでもいい、とすら思うようになっていたが、
それでも、まだクリスマスまで約1か月あるので、ほんの少しだけ期待をしていた。
「けどさ、今日の真央を見たら惚れ直して誘うかもよ?」
「だといいけど…」
そんな会話をしながら学校へ向かって歩いていたら、巴菜が駆け寄ってきた。
「真央どうしたの?ハーフアップなんて珍しい!」
「香蓮がね、たまにはって」
それを聞いて香蓮は「どう?」と言わんばかりにニヤリとしていた。
「へー…でもいいね!今度編み込みやってあげるよ」
「ありがとう」
編み込みは真央も家でやってみたことがあったけど、
うまくできなかったのでちょっと楽しみだった。
教室に入ると、ほかの女子たちも「珍しいね」と声をかけてくる。
いつもと髪型が違うだけでこれだけ言われるのは、女子ならではだ。
そこに龍弥がちょうど教室に入ってくる。
「龍弥」
真央を見た龍弥が、一瞬照れた顔になっていた。
「お、おう…」
それだけ言ってそそくさと席に向かう姿がどことなくかわいかった。
「顔が赤くなってたね」
巴菜が楽しそうに言ってくるが、そういわれてなぜか真央も顔が赤くなっていた。
「べ、別に龍弥のためにしたんじゃないからね!」
「はいはい」
巴菜が余計なこと言うから意識しちゃたし…
席に座ると、龍弥がまたチラッと見てきて、
目が合った瞬間に慌てて逸らすのでいつも以上に恥ずかしかった。




