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彗星に願いをこめて  作者: 姫
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まわりの目

「なんかいろいろ疲れた…腕なんて筋肉痛だし」

真央は湯船に浸かりながら、腕のマッサージをしていた。

「わたしも筋肉痛になったよ。腕が痛い」

「誰のせいで筋肉痛になったと思ってる?」

真央がちょっと冷たく香蓮に聞く。

「だってレースしたかったんだもん。真央と組んで」

こう言われてしまうと、真央は何も言えなくなってしまう。

香蓮はそれをちゃんと理解しているので、真央よりも香蓮のほうがいつも一枚上手だ。

横から凛がやってきて、楽しそうに話してくる。

「でもさ、真央と木谷、めっちゃいい感じだったよね」

「はいはい」

「本当は付き合ってるんでしょ?」

今日だけで同じことを聞かれたのは何度目だろうか。

みんなこの質問をしてくる。

「付き合ってない」

「隠さなくていいのに。真央って昔からそうだよね、男の頃だって香蓮と付き合ってたんでしょ?それも否定して隠そうとするし」

その言葉に真央と香蓮が同時に「は?」と答えた。

すごく久しぶりに聞いた言葉だ。

まだこれを聞くとは思っていなかった。

「あのね、真央とは今も昔も親友なの!違うってさんざん言ったのに、まだそう思ってたの?」

「そうだよ、女になってから言われなくなったからやっと理解されたと思ってたのに」

まだそう思われていたことに、2人ともあきれ顔だ。

それでも凛はなかなか信じてくれない。

「今さら隠すことないじゃん。昔は恋人、今は親友、それで真央は今木谷と付き合ってる」

「凛…それ全部間違ってるから」

もうこの話やめたい…

真央は逃げ出すタイミングを計っていた。


龍弥は健吾と一緒にお風呂へ向かっていた。

「いい思い出ができてよかったな」

「うるせー、大谷のせいだ」

「けど、なんだかんだで楽しんだだろ?」

「まあ…」

それは事実なので否定しなかった。

そんな会話をしながら歩いていたら、ほかのクラスの男子たちとすれ違い、

その直後に会話が聞こえてきてしまった。

「あいつあれだろ、あの元男の竹下とかいうのと付き合ってる、木谷だっけ?」

「そうそう、なんか元々親友だったらしいけど、よく元男でしかも親友と付き合えるよな。俺なら絶対に無理、元男ってだけで気持ちわりーもん」

「だよな!まあ今の竹下普通にかわいいけどさ、俺もやっぱ無理だわ。木谷って竹下が男の頃から好きだったんじゃねーか」

「ありえる!ギャハハハ」

龍弥は立ち止まり、拳を握っていた。

その拳は怒りで震えている。

ふざけんなよ…この野郎!

その怒りに身を任せて振り返った瞬間、健吾が押さえつけるように止めてきた。

「放せ!ぶっ殺してやる」

「ダメだ、そんなことして何になる」

「真央を侮辱しやがったんだ、絶対に許さない」

思い切り健吾の腕を掴んで振りほどこうとするが、

健吾も全力だったのでなかなか解けない。

「やめろって…!それでケンカしたら一番傷つくのは竹下だろ!」

この言葉を聞いて、龍弥の力が緩んだ。

「ったく…せっかくの修学旅行でケンカしたら騒ぎになるだろ、原因はなんだ?竹下を侮辱したから、こんな話になれば本人のところにも情報が入って傷つくことくらいわかるだろ」

「確かにそうかもしれない…けどよ、じゃあ侮辱されても黙って耐えろっていうのか?そんなのあんまりじゃないか」

「仕方ないだろ、そればっかりは。俺ら3組のやつらは、日常的に竹下を見てるから、竹下がどんなやつかっていうのを知ってるし理解もしてる。だからみんな同じクラスの仲間として接してるけど、ほかのクラスのやつらはほとんど今の竹下を知らないだろ、元男で今は女子、その程度しか知らないやつはたくさんいるんだ。全員に理解されてると思うほうが間違ってるんだよ」

あまりに違和感なく、今の真央がクラスに溶け込んでいたので、

ほかのクラスの生徒たちも同じように今の真央を理解している思い込んでいた

龍弥はショックを受けていた。

「じゃあ…今みたいなことがあっても耐えるしかないのかよ…それじゃあ真央がかわいそうじゃないか…」

「そのために俺たちがいるんだろ」

龍弥が健吾の顔を見る。

すると健吾はため息をついた。

「お前さ、一人で竹下のこと守ってたつもりだったの?そりゃお前や大谷の場合、特別な感情があるかもしれないけど、俺や伊藤、三上、それに根津とかもそうか、クラス全員が竹下を大事な仲間だと思ってるんだぜ」

わかりきっていたことなのに、龍弥は今さら気づかされた。

そうだった、みんな真央のことで必死になってくれてたよな。

全生徒には理解されてないかもしれないけど、

少なくとも俺たちのクラス全員は理解してるし、真央が笑顔でいられる場所だ。

今はその場所をちゃんと守ることが一番大事なのかもしれない。

龍弥はさっきのことは歯を食いしばって耐えることにした。

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