悪魔のような女(笑)
3日目はビーチでいろんな体験をする。
ホテルの目の前なので、みんな部屋で水着に着替えていた。
もちろん真央も、こないだ買った水着に着替えている。
「真央、ビキニだけでいいんじゃない?」
「嫌だ」
トップスとボトムズが付いているので、それを着て準備完了。
「あーあ、せっかくだから木谷にビキニ姿を見せてあげればいいのに」
「香蓮!怒るよ」
冷たく睨むと、「冗談だよ」と笑ってから逃げていった。
昨夜、真央はちゃんと香蓮にも龍弥とのことを話しておいた。
まるで自分のことのように喜んでくれたのでありがたかったが、
それからは何かある度に冷やかしてくる。
まったく…話すんじゃなかったかな。
気を取り直して、巴菜たちと一緒に部屋を後にした。
今日の体験は、ダイビング、スノーケル、シーカヤックなどに分かれていて、
ダイビングは時間がかかって、これだけで終わってしまうので
真央たちはまずスノーケルを体験することにしていた。
その集合場所へ移動していると、龍弥たちとすれ違った。
「真央たちは何やるの?」
「スノーケルだよ。龍弥はダイビングだっけ?」
「そうだよ、じゃあ楽しんできてね」
龍弥と手を振って別れる。
昨日までのちぐはぐな気まずい感じはなく、とても自然体だ。
「真央もダイビングに変えたら?」
「香蓮!」
「きゃー、真央が怒った」
笑いながら逃げる香蓮を真央が追いかけていく。
いつもの光景だったので、巴菜は安心した。
それに木谷とも自然だったしね。
一緒にダイビングに行く伊藤が冷やかすように話しかけてきた。
「お前、竹下といい感じに見えたんだけど、何かあったろ?」
「なんもねーよ。あってもなくても何も言わないけどな」
ずいぶん心に余裕ができたな。
このやり取りを見ていた健吾は、何かあったのがわかったけど、
あえて何も言わないでおいた。
「伊藤、お前も龍弥と竹下のことばかり聞いてないで彼女でも作れよ!じゃないといつまでたっても童貞だぞ」
「うるせー!渡辺だって童貞だろ」
「ん、違うよ」
さらっと言う健吾に、龍弥も伊藤もビックリする。
「お前…いつの間に」
「中3の秋。ってか、今彼女もいるし」
「えー!」
「自分から言うのもおかしいだろ。自慢してるみたいだし」
クールに言う健吾が腹ただしい。
「お前…それでよく人のこと言えるな。真央と付き合えとか告白しろとか」
「他人の恋愛は楽しいからな。特に龍弥みたいにわかりやすいやつだと」
「てめー!」
龍弥は怒りながら健吾にフェイスロックをかけていた。
「やれ、もっとやれ!」
伊藤が一緒になって盛り上がり、賑やかなダイビング組だった。
インストラクターに説明を受け、ライフジャケットを着用して
早速海に入ってみた。
ただでさえ透き通るほどきれいな海なのに、
もぐることで、より鮮明に海の中が見えている。
魚が泳いでいるのもよくわかり、おもわず手を伸ばして触れてみたいと思い、
やってみたが魚はサッと避けていく。
さすがにそんな簡単に触れないか…けどすごい!
一度顔を上げると、同じタイミングで香蓮も顔を上げていた。
「すごいきれい!こんな体験できると思わなかったよ」
興奮気味に真央が話すと、香蓮も「わかるわかる」と同じように興奮していた。
「沖縄にきてよかった」
「真央の場合はいろんな意味でね」
「ちょっと、香蓮!」
「さて、また海の中を覗こうっと」
香蓮は逃げるように海面に顔を付けて泳いでいた。
「もー、香蓮め」
それを聞いた巴菜が言ってくる。
「しばらくは冷やかされそうだね。まあ、香蓮に話した真央が悪いんだよ」
「だって話さないわけにいかないじゃん…」
「逆に開き直ったら?そのときの香蓮が見てみたい」
それだけ言って、巴菜も潜って行った。
そうか、その手があったか…よし!
真央も再び潜って、スノーケルを続けていた。
少し休んで、今度はドラゴンボートに乗る。
ジェットスキーに引っ張られ、真央たちは「キャーキャー」叫びながら
海の上を走る爽快感を味わって、最後にシーカヤックに乗ることになった。
2人1組なので、真央は香蓮と乗ることになる。
きっと香蓮は言うだろうな…
「わたしでごめんね、本当は木谷がよかったでしょ」
ほら、きた。
また冷やかしてきたので、真央もわざと言ってみることにした。
「まあね、本当は龍弥と乗りたかったけど、仕方ないから香蓮と乗る」
「本当?ちょっと待って。木谷!」
え…ウソでしょ、香蓮…
香蓮が叫ぶと、ちょうどダイビングを終えた龍弥たちが歩いているのが視界に入った。
香蓮の声に反応した龍弥が叫んで返事をしてくる。
「なんだよ!」
「え、待ってよ香蓮!」
動揺する真央を無視して、香蓮が叫び続ける。
「真央がね、木谷と一緒にシーカヤックに乗りたいんだって。代わってくれる?」
これを聞いて、まわりの生徒たちが冷やかしてくる。
「やるねー」「ラブラブだね」「ヒューヒュー」
真央はここから逃げ出したい気分だった。
「香蓮!なんでそんなこと言うの!」
「だって真央が木谷と乗りたいって言ったんじゃん」
香蓮はニヤニヤしている。
そうだ、香蓮はこういう性格だった…
確か前にも、ふざけてメイクしたいっていったら本当にさせられたっけ…
あー…なんてバカなんだ、同じ過ちを犯すなんて…
チラッと巴菜を見ると、気まずそうに「ごめんね」とジェスチャーをしていた。




