真央の気持ち
なんか変な空気だ。
あれから真央と龍弥は一言も会話をしていないし、目も合わせない。
さすがにこの空気に香蓮たちも耐えられなくなっていた。
2人きりにさせたのは失敗だったのかも…
次の目的地、首里城についてもそれは変わらなかった。
「香蓮、すごくない?日本っぽくないよね。さすが琉球王国」
真央は写真を撮りながら、少し興奮している。
「真央、一緒に撮ろう」
2人で写真を撮り、5mほど離れたところで龍弥たちはそれを見ている。
そこに健吾も加わり、4人で撮ろうと提案してみた。
香蓮はもちろん「撮ろう」という。
真央も「いいよ」とは言ったものの、一番端に移動してしまった。
龍弥もその反対側に立っている。
うーん…これはなんとかしないと。
写真を撮った後、健吾は小声で龍弥に話しかけた。
「お前、いい加減竹下としゃべれよ。別に告白したわけでもないし、振られたわけでもないんだから…意識しすぎ!」
「別に意識なんか…」
「だったら話せよ。ほら」
健吾が龍弥を突き飛ばし、その勢いで真央と香蓮の前に出てしまう。
一瞬目が合ったが、真央は慌てて逸らしていた。
「ま、真央…あのさ」
「なにやってるの?香蓮、行こう」
あいかわらず龍弥を避けるようにして歩いて行ってしまった。
ダメだこりゃ…
健吾は頭を掻きながら、その様子を見て苦笑いしていた。
真央ったら…そこまで避けなくてもいいのに。
でもこれって完全に木谷のことを意識してるってことだよね。
やっぱり2人は両想いだったんだね。
「香蓮、なにニヤニヤしてるの?」
「あ、ううん、なんでもないよ!」
いけない、思わず顔に出ちゃった。
けど両想いなら、もう少し進展させたいよなぁ…
ところが肝心の真央は龍弥と話すどころか目を合わせようともしない。
よし、こうなったら直接話してみるか!
「ねえ、ちょっとトイレ行ってくる。真央、行こう」
香蓮は健吾たちにそう告げて、真央と一緒にトイレに行った。
ここなら龍弥がいないので話しやすい。
「真央、木谷のこと避けてるでしょ」
「さ、避けてなんていないよ!」
「嘘、見てればわかるよ。ねえ、一つ聞いていい?真央は木谷のことどう思ってるの?」
ズバリ聞いてしまった。
最初はまわりくどく聞こうと思っていたが、それは香蓮の性分じゃない。
特に真央に対して言いたいことはハッキリと、これが香蓮だ。
その真央は明らかに戸惑っている。
「別に…龍弥はただの友達…」
「真央って本当に昔から嘘が下手だよね。別に隠さなくてもいいじゃん、木谷いいやつだし」
「隠してなんか…」
そこまで言って、真央は考えていた。
隠す必要はないけど…やっぱ無理!だって龍弥だよ…
「認めたっていいじゃん。なにを気にしてるの?木谷が男の頃の親友だから?それとも真央が元男だから男子を好きになるのが嫌?そんなのにこだわってたらつまんないし損するよ。今の真央は女なんだし、恋する権利は誰にだってあるんだよ」
「うっ…」
言葉に詰まってしまう。
なんでこんなことになっているのか…さっき龍弥と2人きりになったからだ。
ん?
真央の中に疑問が浮かんだ。
なんで香蓮は突然こんな話をしだしたわけ?
龍弥のこと意識してるのを知っているわけ?
ひょっとして…
「香蓮!水族館でわざとはぐれたでしょ!」
「な、なんのことかな…」
あきらかに動揺している。
ってことは、渡辺もグルだ。
うー…
「香蓮!」
真央は怒りながら香蓮の頬をつねった。
「痛い、痛いって…」
「じゃあ白状しろ」
「だ、だってもどかしかったから…」
白状したので手を放したが、怒りは収まらない。
「こういうの嫌いって知ってるじゃん!なんでするの?」
「真央が木谷のことどう思ってるか知りたかったからだよ。だって普通に聞いたってはぐらかして否定するに決まってるもん」
「それは…」
攻守交替、今度は一気に香蓮が攻めてくる。
「ほら、だから2人きりにさせたんだよ。おかげで自分の気持ちに気づけたでしょ。好きって認めればもっと楽しくなるんだよ。変に気を使うこともないし。だから認めなさい!」
「わかったよ…好き…かも」
意外にあっさり認めたことに香蓮は驚いた。
そんな真央はいつも以上に恥ずかしそうな顔をしている。
香蓮にとっては微笑ましい光景だ。
「うん、よろしい!あとはこれからどうするかだね。もう一度2人なってみる?」
「それは嫌!好きかもって言ったじゃん。かも…だよ!まだハッキリわかんないし、付き合うとかそういうのもまったくイメージできない…だから、しばらくは今まで通りがいいの」
まあ、今はそれでもいいのかな。
本人が自覚しただけでも充分!
「わかった。けど普通に会話くらいはしなよ。じゃないと木谷がかわいそうだよ」
「わかってるよ…」
意識しなければいいんだ、今まで通り普通に…
真央はそれだけを自分に言い聞かせた。
「なげーな、女のトイレって」
「別にいいんじゃん」
外で待っている龍弥は壁にもたれかかり、健吾はしゃがんでいた。
「お前は竹下に会いたくないからだろ」
「そうさせたのはお前らだろ。どいつも余計なことばかり」
「あれ、俺ら以外にも余計なことしてるのいるの?」
「別に…言ってくるだけだ」
それだけみんなに龍弥が真央のことを好きってことがバレているということだ。
「それって俺は羨ましいと思うよ、だってそれだけお前のことを応援してくれている人がいるってことじゃん」
「面白半分だろ、どうせ」
龍弥が不貞腐れたように顔を背ける。
「お前、俺らがそんな人間だと思ってるのか?お前がいつまでもウジウジしてるからだろ。だから俺らが動いたんじゃねーか。だったらさっさと告白しろよ!」
龍弥が思わず舌打ちする。
「ホントどいつもこいつも同じことを…好きなら告白しなきゃいけないのか?付き合わなきゃいけないのか?俺は現状でいいんだ」
本音を言われ、健吾もなんて返していいか考えてしまう。
俺なら絶対に付き合いたいと思うけど…こいつはそういう考えじゃないのか。
とりあえずこれ以上はあまり無理強いしないほうがよさそうだ。
「けどよ、ずっと現状維持でいいのか?」
「そのタイミングは自分で決める。付き合いたいと思えば告白するし、このままがいいと思えばずっと告白しないし。だからもう放っておいてくれよ」
「わかったよ、ここまで言われたら何もできねーし。ただ、お前がモタモタしてて竹下が別の男を好きになっても知らねーぞ」
龍弥は何も答えず、ただ天井だけを見つめていた。
「お待たせ」
真央と香蓮が戻ってきて、小声で香蓮が真央に「ほらっ」と言っているのが聞こえた。
少しモジモジしながら真央が前にやってくる。
「い、行こう。龍弥…」
「あ、ああ…」
その姿を香蓮と健吾は後ろから眺めて、ニコニコしていた。
「ちょ、ちょっと!なんで香蓮と渡辺は来ないの?4人で行くよ!」
香蓮が恥ずかしそうに言ってくるので、「はいはい」と返事をして4人で歩き出した。
そうだ、今はこれでいい。
みんなで仲良く過ごせれば、それだけで満足なんだ。
真央は楽しそうに笑い、2日目の班行動を無事に終わらせた。




