夜風と巴菜と…
ホテルに着き、早速部屋に行く。
「結構広いね」
「うん」
香蓮が心配そうに顔を覗き込んでくる。
「まだ元気ない?」
「そんなことないよ!新垣さんと約束したから」
そういって真央がニコッとしたので、香蓮は「よかった」と笑顔で返していた。
「それより早く着替えて食堂に行こうよ」
ホテル内は学校のジャージなので、巴菜が早速着替え始める。
真央も一緒に着替えるが、もうすでに体育などで一緒に着替えているので、
違和感などまったくない。
食堂で夕食を食べ、このあとは入浴の時間だった。
「真央とお風呂に入るのなんて何年ぶりだろうね」
「幼稚園以来じゃない?」
真央は恥ずかしげもなく、堂々と裸になる。
それは香蓮や巴菜たちも同じだった。
もう真央は立派な女子だ、それをここにいる誰もが理解しているので、
普通に楽しい入浴をすることができた。
「湯船で足が伸ばせるのっていいね」
香蓮が気持ちよさそうに足を伸ばしてくつろいでいた。
「香蓮は小さいから家のお風呂でも足伸ばせるんじゃない?」
「あー、巴菜ひどい!えいっ」
香蓮がお湯を顔にかけたので、巴菜もかけ返す。
それを見て真央が笑っていたら、今度も真央もかけられてしまった。
「なんでこっちまで…えい!」
真央も一緒になってはしゃぎ、笑いあっていた。
なんか不思議…男だったころ、男湯でこういうことしたことなかったかも。
それにこんな楽しいと思ったこともなかったような…
女子というのは、とにかく話をするのが大好きだ。
それはお風呂でも変わらなかったので、思った以上に長湯になってしまった。
お風呂から上がっても身体が火照っている。
「ちょっとのぼせちゃったね」
「結構長い間浸かってたもんね」
真央も香蓮も手で顔を仰いでいる。
そんな中、巴菜が提案してきた。
「屋上で夜風に当たらない?気持ちよさそうだよ」
ところが2人の反応はイマイチだった。
「んー、それより部屋でくつろぎたい」
「同じく」
「つれないなぁ…凜はいく?」
「わたしもいいや。逆に冷えたら嫌だし」
誰も賛同してくれず、巴菜は一人で屋上に行くことにした。
誰も付き合ってくれないんだもん、冷たいな。
ちょっとふてくされながら屋上の扉を開ける。
そのとたんに、心地よい風が吹いてきたので、きて正解だと思った。
それに思った以上に空気が澄んでいたので、夜空がとてもきれいだった。
「わー…すごい…」
そのまま進むと、柵のところに誰かがいることに気づいた。
柵にもたれかかっていて、後ろ姿なので誰かまではわからないが、その人物は男子だった。
誰だろ…?知らない人だったら嫌だな…
そーっと近づくと、それは龍弥だった。
なんだ、木谷か…
同じクラスだし、巴菜もそこそこ会話をするので話しかける。
「夜風が気持ちいいね」
突然話しかけられたせいか、それとも巴菜に気づいていなかったからか、
龍弥はビクッとして驚いていた。
「な、なんだ三上か…」
「真央のほうがよかった?」
「そ、そんなわけないだろ。俺は一人で風にあたっていたかったんだよ」
「ふーん…」
そういいながら、巴菜は龍弥の隣に行き、柵にもたれかかった。
「な、なんで隣にくるんだよ!」
「別にいいじゃん。それより聞いたよ」
「な、なにを」
以前ほどではないが、あいかわらずたどたどしい。
巴菜は気にせず話を続けた。
「真央のこと、助けたんでしょ。やるじゃん」
「おま…なんでそれを」
思いがけない話だったせいで、龍弥はまた驚いていた。
「真央から聞いた。先に言っておくけど、真央が自分からペラペラしゃべったわけじゃないよ。こないだ真央と一緒に買い物してたら…偶然佐山に出くわしたの」
「なんだって?それで真央は大丈夫だったのか!?」
龍弥は血相を変えて巴菜の両肩を掴んでいた。
「痛いって!」
「わ、悪い…」
龍弥が慌てて手を放していた。
もう…真央のことになると夢中なんだから。
「結論から言うと、大丈夫じゃなかった。泣きながらガタガタ震えだして…何も知らなかったからビックリしちゃったよ。それで落ち着かせたら話してくれたの。あのときのことを」
「そうか…やっぱり心の傷はしっかり残ってるんだな…」
「けど、木谷…それに伊藤もだけど、助けてくれてよかったよ。わたしからも礼を言う、ありがとう。もし手遅れになっていたら…真央はもっと傷ついていたから」
「ああ、それは俺も思う。間に合って本当によかったよ」
真央の話だからか、龍弥のたどたどしい話し方が普通になっていた。
「ねえ、木谷はなんで真央が危ないって思ったの?」
「文化祭の話し合いが終わって、俺は西川と下駄箱まで先に行ったんだけど、西川がさっさと帰っちゃったから、真央と帰ろうと思って待ってたんだけど、いつまで経ってもこなくてさ。そしたら部活が終わって忘れ物を取りに教室に行ったっていう伊藤がきて、教室には誰もいなかった、廊下で女子が男子2人と歩いていたって聞いて、嫌な予感がしたんだよ。そしたら的中したから…」
なるほどね、それで伊藤も一緒だったんだ。
それに、きっと西川は気をつかったんだな。
いや、気を使うような男じゃない。
純粋に一人で帰りたかったのか…まあ西川はどうでもいいや。
自問自答しながらも、龍弥サイドのいきさつがわかったことで巴菜はスッキリしていた。
それよりも今一番知りたいのは龍弥の気持ちだ。
今なら素直に答えそうな気がする。




