無事解決
「やったね、竹下さん!」
杏華がいつになく嬉しそうにハイタッチをしてきた。
真央は杏華だけでなくみんなに「ありがとう」とお礼を言ったが、
ある意味、一番感謝をしなければいけないのは源治だった。
不本意だが、これに関しては礼を言うべきだったので、源治にも直接お礼を言う。
「西川、一応お礼言っとく。ありがとう」
「本当にいい迷惑だよ。僕の趣味がみんなにバレちゃったじゃないか」
源治はムスッとしていたが、「まあ、面白いものが見れたからいいけど」と
ボソッと言っていた。
それともう一人、ちゃんとお礼を言わなければいけない人物がいる。
「龍弥、ありがとう」
「べ、別にいいよ…」
あいかわらずたどたどしいが、すべては龍弥の機転から始まった。
黒沢が真由美と教室を出て行ったあと、
全員でどうやって黒岩を説得させるかという話題になった。
「もう一度みんなで頼んでみる?きっと奥寺先生にも説得されてるんじゃない?」
「そうだね、そうしてみようか」
それでもみんなの不安は顔から消えていない。
真央は「もういいよ」と言い出した。
「みんなの気持ちだけで嬉しいから、これ以上揉めてもみんなに悪いし…」
これに対して、真っ先に声を上げたのは伊藤だった。
「別に悪いだなんて思ってねーよ。俺ら普通にムカついてるし。あいつ担任のくせに何も見てないからよ」
みんながそれに頷いている。
香蓮たちではなく、伊藤が言ったということに驚いたが、これには感謝しかない。
そこで今度は突然、龍弥が立ち上がって源治のところに向かった。
「何?」
「お前、黒岩の弱みとか知らないか?どうせあいつのことも観察してるんだろ?」
「観察って何?」とざわめき始める。
「お前…余計なこと言うなよ」
源治の目はあきらかに怒っていたけど、龍弥は構わず話を続けた。
「今はそれどころじゃないんだよ、お前の力が必要なんだよ!」
龍弥は机をゆすりながら頼んでいた。
そこに香蓮がやってくる。
「なんだかよくわかんないけど、西川がなにかできるんならお願い!」
みんなも「頼むよ」と言ってきて断れない状況に追い込まれる。
源治は舌打ちをしてから、渋々「わかったよ」と言って説明を始めた。
「黒岩はたまに横柄な態度をとるけど、実際はけつの穴が小さい小物だよ。上の人にごますって、無難にやり過ごそうとしてる。今回の件も、竹下を別にしておけば100%問題が起きないという発想からだね」
「それは俺でもわかる、もっと他のところだよ!」
「木谷でもわかるくらい黒岩は単純すぎて、ほかが特にないんだよ。無難にやり過ごそうと考えているときに右の鼻の穴がヒクヒクするくらいかな」
「そういうんじゃなくてさ、もっとあいつを追い込めそうな!」
「だったら簡単だよ、無難な選択肢をなくせばいいんだ。例えば竹下を認めないなら、竹下が学校を辞めるとか…いや、それだとあいつが逆に喜ぶな。問題が一つ減ったって。だとしたら…全員が修学旅行に行かないとか。そうなればあいつは、竹下と全員を天秤にかける。
それで間違いなく竹下のほうがマシって考えるはずだよ。あいつのポリシーは「無難に」だから」
香蓮が「それだ!」と叫ぶ。
「みんなでさ、真央を特別扱いするなら学校行事には一切参加しませんって署名するの!どう?」
「それいいな、黒岩がどんな顔するのかも見てみたい」
そういって、みんながノリノリで名前を書き込んでいく。
「西川も、ほら」
「僕はどうでもいいから書かないよ」
「お前、ノリが悪いな」
「別にいいだろ、こういうのは興味ないんだ」
龍弥が言っても応じない。
そこに今度は杏華がやってきた。
「西川くんってあれだよね、冷めてるくせに、なんだかんだいって最終的には協力しちゃうの。なんでかわかる?根がいい人だから。だから絶対に名前書くよ」
「僕を観察したのか?」
「されれば、される側の気持ちもわかるでしょ」
「それでも僕はやめないからね」
そう言ってから最後に源治の名前が加わり、これでクラス全員になった。
そして、みんなの作戦は見事に成功したのだった。
職員会議が始まり、真由美が真っ先に真央の件を言い始めた。
「もう一度ちゃんと竹下のこと考えませんか?彼女、今日あの話を聞いて泣いてたんですよ。それに修学旅行も行かないって」
「本当ですか、黒岩先生?」
「え、ええ…まあ」
ちっ、泣いてたとかまで言わなくてもいいのに…
「それで3組はうるさかったんですか。隣のうちのクラスまで怒鳴り声とか聞こえてきましたよ」
4組の担任の石破にも言われてしまい、気まずそうな顔をしてしまった。
「わたしから見たら、竹下はもう普通の女子です。うわべだけじゃなくて、本当に女子として見ませんか?じゃないとかわいそうですよ」
ほかの女性教師も「そのほうがいい」と言い始め、男性教師は「うーん」と言うだけで
前回と同じ平行線だった。
「黒岩先生から見たらどうなんですか?担任でしょう」
「お、俺ですか…?」
真由美が睨みつけている。
しかたない…
「竹下は…俺も普通の女子だと思います」
よし、これでいいんだろ!
言い切ったことでホッとした。
ところが、すぐに突っ込みの声が飛んでくる。
「だったらなんでこないだ反対したんですか?」
「そ、それは…」
返答に困ってしまうと、学年主任の丹波が怒り口調で言ってきた。
「黒岩先生、担任のあんたがしっかり見てないでどうするんだよ。教師としての自覚あるのか?」
「す、すいません…」
「まったく」と丹波は呆れていた。
「もう一度多数決取りますか?丹波先生」
「いや、無駄でしょう。おそらく奥寺先生の言った通りだと思います。それにクラス中の生徒が反対したとなれば、我々は認めざるを得ない。異論がある先生はいますか?」
誰も何も言わなかった。
つまり、ここにいる教師全員も認めたということだ。
「じゃあ竹下の修学旅行の件は、特別扱いしないということにします。なにか問題があったときは、学年主任の私が責任を取りますから」
俺の責任にならないのか、よかった…
黒岩がホッとしていたら、丹波が冷たく言い放った。
「本来なら担任の君が言わなければいけないんだからな。君がだらしないから、私が言ったということをちゃんと頭に叩き込んでおきなさい」
「は、はい…」
この日一日で、黒岩の株は大暴落してしまったが、
それは自分自身のまいた種なのでしかたない。
「じゃあ竹下の件は以上でいいかな?」
丹波が確認すると、奥寺が挙手をした。
「すいません、もう一ついいですか?」
こうして会議は夜まで続いた。
「真央、おはよー」
「おはよう、香蓮」
「落ち込んでなさそうだね、よかった」
「みんなにあれだけしてもらったんだもん、これで落ち込んでたらみんなに合わす顔がないよ!」
何事もなかったかのように学校へ行き、
いつものように明るく振舞って朝のホームルームになった。
黒岩が教壇の前に立つ。
気のせいか、いつもよりやつれたような顔をしていた。
ちょっとだけ、「ざまーみろ」と思った。
「えー、まず昨日の件だが、会議の結果、竹下は特別扱いしないということになった」
それを聞いて、真央の顔がみるみる明るくなっていく。
思わず香蓮が「本当ですか?」と聞き返した。
「ああ。それとな、一応女子全員に聞くが、竹下を通常のトイレも使用していいことにしようと思っているが、意義はあるか?それと体育の着替えも」
女子全員が口々に「ありません」と言っている。
真央はそれを聞いて目に涙を溜めていた。
「真央、泣かないでよ」
「だって…やっとみんなと一緒になれたから…本当に女子って認めてもらえたから…」
「おおげさなんだから」
香蓮は真央の頭を撫で、まわりからは「よかったね」と声をかけてもらった。
黒岩もこの真央を見てやっと気づいた。
そうか、竹下は本当に女子なんだな…
もっと早く気づいていれば俺はあんな目に合わなかったのに…くそ。
最終的には自分本位な考えだった。
「じゃあ異議なしということにする。俺からは以上だ」
あっさりと朝のホームルームが終わり、黒岩はそそくさと教室を出ていった。
「ホントよかったね、これでトイレも一緒に行けるよ」
巴菜がニコニコしながら言ってくるので「うん」と笑顔で返事した。
「きっとさ、全部奥寺先生のおかげだと思うよ。黒岩が自分から言うはずないもん」
香蓮が言う通りだと真央も思った。
あとで奥寺先生にお礼を言わないと!
いつも以上に真央は笑顔で1日を過ごした。




