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彗星に願いをこめて  作者: 姫
32/122

香蓮のためのWデート1

こないだ買った服に着替え、メイクをする。

なんでこんなに気合入れてるんだろう…

真央はため息をついていた。

それでも鏡でチェックをする。

出かける以上誰に見られているかわからないので、

身だしなみだけはキチンとしておきたい。

以前よりもメイクはうまくなっていたので問題ないし、服のコーデも悪くない。

香蓮のためと言い聞かせ、家を出た。

「真央、遅い!」

「時間通りだよ、香蓮が早すぎるの。楽しみなのはわかるけどさ」

香蓮もこないだ買った服を着て、真央と同じようにメイクもしている。

ホントに楽しみなんだなと思ったが、

真央も同じような雰囲気なので楽しみと思われるかもしれない。

なんとも言えない気分だった。

「ほら、行くよ」

真央ははしゃぐように歩き出す香蓮のあとを追うように歩き出した。

待ち合わせ場所に行くと、2人の男子が視界に入ってきた。

あ、きっとあれだ…あー面倒くさいな…

真央の思いとは裏腹に、香蓮は笑顔で男子2人に手を振っている。

向こうもそれに気づき、1人が笑顔で手を振り、2人がこっちに向かって歩き出して

目の前で立ち止った。

「お待たせ」

香蓮がそういうと、一人の男子が「ううん」と答えた。

どうやらこっちが佑太らしい。

前に見た写真より少し髪が伸びている。

爽やかな雰囲気で、笑顔が映えそうな顔立ちで、

背は170cmくらいか、男の頃の真央よりは低いと思ったが、

それでも今の真央よりは全然高い。

そして肝心のもう一人だ。

少し大人しそうな雰囲気で、顔もカッコいいというよりかわいい感じだ。

それでも背は佑太より高く、細身でスラっとしている。

佑太が真央に向かって話してきた。

「はじめましてだよね。自己紹介するね。俺が葛城佑太、隣にいるのが松井創。よろしくね」

創と紹介された男子が少し緊張した面持ちで軽く会釈していた。

なんか緊張している姿が龍弥みたいな雰囲気だな…

「わたしが大谷香蓮で、隣が親友で幼馴染の竹下真央、こちらこそよろしくね」

真央は特に緊張していないので、「どーも」と言って会釈をした。

すると2人から見えない背中をつねってきた。

痛っ!

心の中で叫んで香蓮の顔を見ると、目が怒っていた。

どうやら「どーも」という返事が気に食わなかったらしい。

「じゃあ行こうか」

佑太と創が歩き出したので、後ろをついていくと香蓮が小声で言ってきた。

「なんで男みたいな返答なの。普段通りにしてよ」

相手が年下の男子ということもあり、無意識に男同士な感覚になったのかもしれない。

男は同性の年下には上から目線になりがちなのだ。

って、今は男じゃないんだった…気を付けないとまた香蓮が怒る…

「わ、わかったよ…」

すると佑太が振り返って話しかけてくる。

「真央ちゃんは香蓮ちゃんと家が隣なんだってね。すごいよね」

男性から「真央ちゃん」なんて男から呼ばれたのは初めてだったので

全身が痒くなった気がした。

それに隣でなにがすごいんだ?

乗り気じゃないせいか、いつも以上に冷静でいて、やはり感覚が男のようになっていた。

「物心ついたときからずっと一緒だもんね。幼稚園、小中高って」

香蓮は逆にノリノリだ。

一応合わせることにしよう。

「うん、腐れ縁ってやつかな」

「ちょっと、もっとマシな言い方あるでしょ」

香蓮がそう返すと、佑太が笑い、創も控えめに笑っていた。

それを見て、龍弥とはちょっと違うのかなと思った。

アイツは緊張して笑うこともしないもんな。

それでも話すのは基本的に佑太だけで、創は横で頷いたり笑ったりしているだけだった。

そんな創にしびれを切らしたのか、佑太が「お前もなんかしゃべろよ」と言って

創を真央の隣に誘導してきた。

余計なことを…

「あっ…えーと、す、好きな食べ物は?」

「へ?」

あまりにも突拍子のない質問だったので呆気にとられる。

「お前…バカだろ」

佑太が突っ込んだ後、香蓮が笑いだし、真央も一緒に笑ってしまった。

「わ、笑わなくてもいいだろ…」

「ごめんごめん」

真央は涙を拭きながら答えた。

好きな食べ物だよね。えーと…」

昔ならカツ丼と即答したが、女になって味覚が変わったのか、

カツ丼はあまり好きではなくなっていた。

今の真央が好きなもの、それは…

「甘いものかな」

これが今の真央の好きな食べ物だった。

「へー、女の子らしいね」

「そう…かもね」

この一言が、男の感情に傾きかけていたのを少しだけ引き戻してくれた。

まあ、人間的には悪い子じゃなさそうだ。

ただ、内心の上から目線だけは変わっていなかった。

4人が向かった先、それは動物園だった。

夏休みということもあり、平日でも結構混んでいる。

母親ときている子供もいれば、真央たちのように高校生もいる。

中にはもちろんカップルもいるが、

こっちは4人だからカップルには見られないだろうと思い込んで動物を眺めていた。

「動物園なんて小学生以来だよね。覚えてる?」

「そういえば、おばさんに連れられて香蓮と3人で行ったような…」

「真央さ、ライオンの声を聞いて怖がっていたよね」

「そんな話しなくていいじゃん!小さい頃なんだから」

「それにクマも怖いって言ってたっけ」

「香蓮!」

2人のやり取りを見ていて、佑太と創が笑っている。

「ホントに仲がいいんだね」

「昔からこんな感じだからね。妹みたいな感じ」

「だからなんでこっちが下なわけ?香蓮が妹だから」

「絶対に真央のほうが下だって。こないだだってさ…」

いつものようなやり取りが始まり、やはり佑太たちは笑っていた。

そうこうしているうちに、ライオンのところへたどり着き、

ライオンが遠くまで響き渡るように吠えている。

さすがに怖いとは思わないが、それでもすごい声だなと思った。

そんな真央に創が話しかけてくる。

「ここのライオンは檻に入って毎日餌をもらってるからのんびりした雰囲気だけど、実際の野生のライオンはもっとやつれていて常に獲物を狙ってるから鋭い目つきをしてるんだよ。といっても狩りをするのはメスなんだけど。オスのライオンは体格が立派すぎて狩りに不向きなんだよ。だから狩りはオスより小柄で俊敏なメスの役目。オスは外敵から守るのが役割なんだ」

いきなり真面目な話を始めたので真央も香蓮もポカーンとしていた。

「出た、お前の動物知識。こいつさ、見かけによらず動物にすげー詳しいんだよ。俺も散々聞かされてさ、シマウマの蹴りはライオンの顎を砕くとか、ガゼルはバックステップで攻撃をかわすとか」

「別にいいだろ、動物好きなんだから」

意外な創の一面に正直驚いた。

ただ、あまりにも唐突すぎる。

これでは突然言われたほうは唖然としていまうというのを創は理解していなかった。

それでも香蓮は気をつかう。

「じゃあさ、これから見る動物、全部創くんに解説してもらおうよ」

香蓮がそういうと、佑太が横に手を振っていた。

「やめたほうがいいよ。うんちくが多すぎて逆につまんないから」

それには苦笑いしかなかった。

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