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彗星に願いをこめて  作者: 姫
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そうだ、バイトをしよう!

翌日の昼、香蓮は突然家にやってきた。

といっても、いつも突然だから気にもしない。

「真央、バイトしよう!」

やっぱり、と思った。

「昨日、珍しく龍弥に食いついていたからそうだろうなと思った」

あまり乗り気じゃないので断るつもりでいるが、おそらく無駄だろうなと思っている。

「念のため聞くけど、理由は?」

「ネックレス買うため。ほかにもさ、バイトすれば服とかも買えるじゃん。今度のダブルデートに向けて」

「それは香蓮が一人でやればいいんじゃない?」

「ダメ、真央だってネックレス欲しかったの知ってるよ。それにさ、バイトに行けば「俺」って言えなくなるよね。真央が男だったってこと知らない人たちの前で言えないもんね。それにダブルデートまでに直してもらわないと困るんだから」

ネックレス欲しいと思ったのを見透かされていたのは、さすがだなと思った。

そして、「俺」というのをバイトで直させようとするあたりも考えたなと、

悔しいが感心してしまった。

ただ、自分自身でも昨日のような格好をして「俺」はおかしいなと思い、

あえて自分のことをなるべく言わないようにもしていた。

そろそろ本気で直さないといけない時期かも…

けど、ダブルデートのためと思われるのは癪だ。

それだけは否定しておこう。

「確かにネックレス欲しいと思った。いいかげん「俺」っていうのもおかしいと思い始めていたよ。だからその2点については賛成する。けどね、ダブルデートは関係ない!そもそも日程も決まってないし、香蓮だって相手とやり取りすらしてないじゃん!」

それを聞いて、香蓮は得意げな顔をした。

「今夜ね連絡がくるの」

「え、ホントに?」

「そーだよ、すごく楽しみ!だから早急にバイトしないとと思ってね。とりあえず短期のバイトやろうよ!」

ホントに楽しそうだ、まあ仕方ない、バイトしてみるかな…

2人でどのバイトがいいか、ネットを見ながら選んでいく。

「これいいんじゃない?ペットボトルのおまけをつける作業。時給1000円だよ!それに友達同士OKって書いてあるし」

「単調すぎない?なんか逆に苦痛そう…」

真央は反論したが、あとは引っ越しなど肉体を使うものばかりだ。

結局、ここに申し込んでみることになった。

香蓮が電話をすると、履歴書を持って3日後にきてほしいと言われたので、

今度は2人で履歴書を書き始める。

性別欄に女と記入するのはこれで2度目だ。

書き終わってから、そのまま香蓮は6時近くまで真央の部屋でくっちゃべっていた。

「香蓮、そろそろ帰ったほうがいいんじゃない?もうすぐ連絡くるよ、佑太くんから」

「あ、そうだった!どうなったか後で連絡する」

「はーい」

「ちゃんと真央の話のほうも進めておくから」

「それは別にいいよ…」

香蓮は浮かれながら家に帰っていった。

男の話はさておき、バイトはいいかもしれないかも。

高校生にもなって、毎回雅子にお金をもらって買うのは気が引けていた。

だが、女としてバイトするのは…と躊躇っていたのだ。

しかし、今ならある程度自信が付いたので、もう女としてバイトがでそうだ。

これで自分の買いたいと思ったものを、堂々と買うことができる。

短期が終わったら、長期的にできるバイトも探そうかなと思った真央だった。


香蓮はドキドキしながらスマホの画面をずっと見ていた。

LINEの通知がたので、急いで開いてみる。

(はじめまして、佑太です。こういうのあんま慣れてないから、ちょっと緊張してるけどよろしくです)

初対面だからか、それとも年下だからか、敬語だったのは少し好感が持てる。

(香蓮です、わたしもちょっと緊張してるかも…こちらこそよろしくね)

合わせてスタンプも送信すると、すぐに既読になった。

(香蓮ちゃんは話すのって苦手?俺、こういうやり取りよりも話したほうがお互いを知ることができるかなって思うんだけど)

いきなり話すのかぁ…けど、佑太くんが言ってることも一理あるしなぁ…

(うん、いいよ!)

既読になると同時に電話がかかってきた。

早すぎでしょ…

一度深呼吸をしてから通話を押して耳に当てる。

「もしもし」

「もしもし、香蓮ちゃん?」

「はい」

「あ、佑太です」

律儀にまた自己紹介してきたので、クスっとなった。

「うん、知ってる。はじめまして、だね」

「うん、はじめまして。自分から話そうと言っておいて緊張する…」

「大丈夫なの?そんな緊張しなくていいよ」

「香蓮ちゃんは緊張しない?」

「しなくもないけど…そこまでは」

「そっか、ところで今は何をしてたの?」

「佑太くんと電話」

「だ、だよね!」

ちょっと真面目なのかな、からかいたくなる。

けど初対面でそれをやってはいけない。

香蓮は気持ちを切り替えて会話を続けた。

最初はたどたどしかった佑太も徐々に自然体で話すようになり、

初めての電話なのに盛り上がっていた。

「へー、佑太くんはサッカー部なんだ」

「うん。それで先輩が彩華さんと付き合っていて、それで香蓮ちゃんを紹介してもらったの」

「そういう繋がりだったんだ。ところでさ、なんか友達に誰か紹介したいんだったよね?」

「そうなんだ、大丈夫?そいつ俺の親友でね、ちょっと変わってるやつなんだけど、こないだ振られちゃって落ち込んででさ、代わりに誰かいい子でも見つかれば元気になるかなって」

「佑太くんって友達想いなんだね。そういうのすごくいいと思う」

「ありがとう。じゃあ紹介してくれる?」

「うん。けどね、初めて会うときは4人がいいの。ダメかな?友達が一緒ならお互い緊張しないで会えるし」

「あれ、あんまり緊張しないんじゃないの?」

「それは電話の話!会うのは別だよぉ」

電話の向こうで佑太は笑っていた。

「冗談。それでいいよ。ちなみにどんな子なの?」

「わたしの幼馴染。真央っていうんだけどね、すごくいい子なの。ただね、ちょっと恥ずかしがりやだから、4人で会うまでは連絡先教えないっていうのはダメ?」

「うーん…必ず連れてきてくれるなら」

「連れてくよ、必ず!」

「ならいいよ。俺は香蓮ちゃんに会うのが楽しみ」

「もう…あまり期待すると後悔するかもよ?」

「それはないね。だって香蓮ちゃんの写真見せてもらってるし」

「へー…佑太くんは顔で選ぶんだ」

「そ、そういうわけじゃないけど」

香蓮はその反応に笑っていた。

やっぱりからかいやすいな。

「今日はそろそろ切るね」

「うん、また明日かけてもいい?」

「いいよ。話してて面白かったし。また明日ね、ばいばーい」

香蓮は通話を切ると、テンションが上がっていた。

このあと真央のところへ行き、延々と佑太の話をしたのは言うまでもない。


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