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彗星に願いをこめて  作者: 姫
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それぞれの想い

杏華は相変わらず睨んでいる。

構うもんか、ちゃんと言いたいことを言うんだ!

「根津」

「軽々しく話しかけないで」

なんなんだ、一体、なんでこんな俺に敵対心むき出しなんだ?

段々腹が立ってきた。

こうなったらとことん話し合ってやる!

「俺、根津に何かした?なんでそういう態度を取られなきゃいけないの?そんなに俺が女になったことが気に食わない?そんなに女の俺を受け入れられない?そりゃ嫌だっていいたいのもわかるよ、男が女になって気持ち悪いかもしれないし、一緒に体育したりするのも嫌かもしれない…けどなっちゃったものは仕方ないんだよ!俺だってなりたくてなったわけじゃない!」

杏華は何も答えず、ただ下を向いているだけだった。

「根津が受け入れられないならそれでいいよ。でもね、今回は西川の言う通り俺たち4人が協力しないといけないんだよ。だからこのときくらいは普通に会話しようよ」

最初は強く文句をいうともりだったのに、最後はやさしい言い方になってしまった。

これが真央の本質だった。

どんなに嫌いだったりムカついても、本心から相手を嫌いになることはできない。

きっとどこかいいところがあるはずだ、と思ってしまう。

杏華はゆっくりと顔を上げた。

意外なことに、その目には涙が溜まっていた。

「だったら…なんでそんなに女子なの…せめてもう少し男っぽいままでいてくれたらよかったのに…女になりたかったわけじゃないんでしょ…」

「根津…なにを言ってる…」

まさか…いや、でもこれってそういうことだよね…

真央は気づいてしまった。

杏華は男の真央のことが好きだったということを。

だから女になった真央に納得がいかなかったし、女になった真央を見たくなかった。

香蓮たちとはしゃいでいる真央が嫌だった。

何よりも女を受け入れて、女らしくなっていく真央を認めたくなかった。

「ごめん…根津の気持ちに気づいてあげられなくて…」

「だったら…男に戻ってよ!男らしくしてよ!!」

杏華は泣きながら叫んでいた。

「女の竹下くんなんて竹下くんじゃない…」

前だったら、男だろうと女だろうと、「俺は俺」いっていただろう。

けど、それを言うことはできない。

今の自分が昔の自分と違うと理解しているからだ。

「ごめん…俺、気づいちゃったんだ…今の自分が嫌いじゃないことに…男に戻れる方法なんてわかんないし、だったら今の自分をありのままで生きようって。誰がなんて言おうと…今の俺は女だから…だから男らしくもできないと思う…」

「じゃあわたしの気持ちはどうなるの…?ずっと告白したかったのに隣にはいつも大谷さんがいて…それでもいつか告白出来たらって思っていたのに女になっちゃって…」

「香蓮は関係ないよ、それだけは言っておく。みんなに散々言われて、何十回も何百回も言ってきたけど、香蓮は幼馴染で大事な親友、今も昔も…それ以上でもそれ以下でもないよ。それと…前の俺を好きになってくれてありがとう。今はその気持ちに応えてあげられないけど…素直に嬉しかったよ。これだけは言っておくね」

杏華は泣いたまま、なにも答えなかった。

もうそっとしておいたほうがいいかもしれない。

「帰るね…」

真央はバッグを持って歩き出した。

「わたしこそ…ごめん」

杏華の声がしたので、足を止めて振り向いた。

「自分の気持ちばかり押し付けて…竹下くんの考え、間違ってないと思う…普通に考えれば女になったのに男らしく生きようとするほうが不自然だよね…今までのようにいかないことだってたくさんあるだろうし…だからもう、男の竹下くんのことは忘れるね…竹下…さん」

やっと杏華はわかってくれた。

悩んでいたものの一つが解決してスッキリした気分だ。

やはり杏華も悪い人間ではなかった。

キッカケを与えてくれた西川に感謝しないと。

真央は杏華に歩み寄り、ハンカチを差し出した。

杏華がハンカチを受け取り、涙を拭いてから「ありがとう」と笑顔で言ってくれた。

根津もこんな風に笑うんだ…

真央は微笑みながら言った。

「一緒に帰ろう」

「うん」

この日から真央と杏華のあいだにわだかまりはなくなり、

普通の友達のような関係になった。


俺はなぜか西川と一緒に帰っている。

別に男同士だから構わないけど。

「木谷さ、実は聞きたいことがあったんだよね」

「なんだよ」

「竹下を避けてるだろ」

いきなり核心を突かれて焦ってしまった。

「べ、別に避けてなんか…」

「どう見たって避けてるよ。あれだけ仲良かったのに女になったとたんに話さなくなったし」

「そういうわけじゃ…」

「僕は、竹下が女らしくなったのは木谷のせいでもあると思う」

「は?どういうことだよ」

「木谷が避けるから、竹下は大谷や三上と行動せざるを得なくなって、一緒にいるうちに女らしくなったんじゃないかなって」

「バカらしい」

そんなことくらいで人間の中身が変わるはずがない。

「じゃああれか、俺が大谷や三上と一緒に行動してれば女らしくなるとでも言うのか?」

「ならないよ、木谷は男じゃん。けど竹下はもう女だもん。女と行動してれば女らしくなってもおかしくないよね」

「だったら…俺が一緒に行動してれば真央はああいう風になってないと思うのか?」

「うーん…それもちょっと違うな。女らしくなるんだろうけど、もう少し男の頃の面影もあったんじゃないか。でもあれか、男と女って脳の構造が違うっていうから竹下も女になって、女の脳になってるから考え方や見方が変わるのか、結局は」

こいつ、何を言いたいんだ?

俺のせいと言っておきながら、やっぱり違うとか…

「お前の言っていることがよくわからん。もうこの話はやめようぜ」

と言っているのに、源治はやめようとしない。

「でもさ、僕は今の竹下が大谷たちと楽しそうにしてるの嫌いじゃないけどね。見てて楽しい」

「あっそう」

俺は…好きではない。

あんな真央は見たくない、俺の知っている真央は男の真央で、俺の親友だ。

「なんでそんなに女の竹下を毛嫌いするわけ?」

「別に毛嫌いなんか…」

「してるよ。そんなに今の竹下が嫌なの?」

「当たり前だろ!俺とあいつは親友だったんだ!その親友が女になったんだぞ、お前にその気持ちがわかるはずないだろ!」

気が付いたら怒鳴っていた。

それでも興奮は収まらない。

「あいつは男なんだ…男なんだよ!」

「今は女だよ」

西川は怒鳴られても堂々としていた。

こいつ…

龍弥は思わず拳を握っていた。

「木谷は、竹下が女になったから避けたんじゃない、女だから避けたんだ」

「て、てめ…」

「なんだかんだ言っても、木谷は単純に女が苦手なだけ。それを知っているのに気づかないふりをして、それで竹下も苦手になったから避けてるんだよ」

「な、なんでそれを…」

源治に事実を突きつけられて龍弥は何も言えなかった。

「無理に隠そうとしなくていいと思うよ、そんなの克服すればいいんだから。最初は話すのとか緊張するかもしれないけど、そのうち慣れてくるよ。そうなれば竹下と普通に話せるようになるし、昔みたいにはいかないかもしれないけど、それなりに仲良くはなれると思うけど?」

龍弥は源治が不思議だった。

学校ではほとんど無口でおとなしいのに、言いたいことをづけづけ言って、見ているところはしっかりと見ている。

なんなんだ、こいつは…

「お前…なんで俺が女が苦手って知ってたんだ…?誰にも話したことないのに…」

「そんなの見てればわかるよ」

「見てればって…お前、普段俺と一緒に行動したりしてないだろ」

「あ、言ってなかったけど、僕の趣味は人間観察だから。それでみんなを観察して楽しんでる、木谷は女が苦手だなとか、根津は男の竹下が好きだったんだなとか、竹下は三上と一緒に教室に遅れて入ってきたときは生理になったんだろうな、とかね」

こいつ…最低だ…

思わず呆れてしまったあとに「えっ?」となった。

「根津が真央のこと好きだった?真央が生理になった?っておい!」

「だから観察してるからわかるんだよ。その日を境に竹下が女らしくなっていったとか」

「お前…そういう話誰にもするなよ!」

「しないよ、木谷にはたまたま話したけど、基本は観察したことを一人で楽しんでるから。お前こそ僕の趣味が人間観察だってことを誰にも話すなよ」

源治は平然と言ってのける。

本当に最低だな、こいつ…ん?ってことは…

「西川、お前さっき真央たちを見てて楽しいって言ったよな?」

「言ったよ」

「それって単純に見ていて楽しいという意味か?それとも…」

「観察に決まってるだろ。男から女になったやつを観察するなんて最高じゃないか」

やっぱり最低だ、この男…

けど、源治にまともなことも言われたので少しだけ真央と話してみようかなと、

前向きにはなっていた。

そうだ、克服すればいいんだ!克服…すれば………できるかな…

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