まるで罰ゲームのような…
今日はホームルームで文化祭の実行委員を決めることになっていた。
各クラス、男女2名ずつ選ばなければいけない。
学級委員の杏華が「やりたい人は挙手を」と言うが、もちろん誰も手を挙げる気配がない。
このままではらちがあかないので、くじ引きで決めることになった。
「男子は右の箱を、女子は左の箱から1枚紙を取ってください。丸がついていたら、当たりです。全員が引き終わるまでは開けないように」
当たりというより、外れだろうと真央は思った。
みんなが渋々立ち上がり、順番に箱へ手を入れてくじを引いていく。
「香蓮…俺は左の箱…だよね?」
「なに言ってるの?当たり前じゃん」
真央は学校で女子として在籍しているので当然だが、一応確認した。
なぜなら、箱の前には杏華が立っているからだ。
左の箱にそーっと手を伸ばすと、キッと睨んでくる。
一瞬委縮して手を引っ込めそうになったが、
間違ったことはしていないと思い直し、くじを引いて席に戻った。
全員が引き終わり、みんなで一斉にくじを開く。
「うそ…」
真央のくじには赤い丸が書いてあった。
うわ…最悪だ…
「え、真央ひょとして…」
苦笑いをしながら香蓮に見せると「かわいそうに」と同情してくれた。
「当たりの人、挙手をしてください」
ほかは誰だろう…
すると、まず西川源治という、
強そうな名前とは裏腹に小柄で眼鏡をかけた大人しい男子が手を挙げていた。
男の頃から接点がほとんどないから微妙…
次に手を挙げたのは龍弥だった。
最近、龍弥がなんとなく避けているので、気まずい…
そして真央も手を挙げる。
チラッと龍弥を見ると、やはり気まずそうな顔をしていた。
ほかの女子は誰だろう…
すると突然杏華が怒鳴りだした。
「なんで?なんで竹下くんなわけ?」
なんでと言われても困る…くじ引きなんだから…
「先生、やり直していいですか?彼がクラスの女子の代表なんておかしいです」
この発言に対し、クラス中からブーイングが飛ぶ。
「竹下は女子だろ」「差別だ」「なんでもう一回やらないといけないんだ」
ほとんどの怒りは最後のもう一回だろう。
それもそのはず、外れたのにもう一回やって当たったらどうするんだと。
さすがの黒岩もそれは認めなかった。
「根津、公平に決めたんだ。お前のわがままでやり直すわけにはいかない。それに竹下は学校では正式な女子だ」
みんなが「そうだそうだ」と言っている。
「真央、気にしたらダメだよ」
香蓮たちが小声で声をかけてくれた。
「大丈夫、もう慣れたし、そんな弱くないから」
そうだ、いちいち根津の言っていることなんて気にしてられない。
それよりもう一人は誰なんだろう?
「それより、あと一人は誰なんだ?」
黒岩が聞くと、意外な人物が手を挙げ始め、クラス中が静まり返った。
マジで…ありえない…
真央は思わずおでこに手を当てていた。
その人物こそが杏華だった。
「先生、これじゃ女1人と男3人みたいなもんですよ。やっぱりおかしいです」
杏華はまだ食い下がらない。
真央も心の中で応援していた。
根津となんか無理!それに龍弥も気まずいし、西川もタイプ的に違うし、
こんな最悪なメンバーでやりたくない!
しかし、当然のごとく黒岩はそれを認めない。
「ダメだ、この4人で決まりだ。このあと4人で集まって今後の方針を決めるように。じゃあ今日は以上で終わりだ」
いやいやいや…マジで勘弁してよ!
「真央…こればっかりは何も言えない…」
だろうね…腹をくくるしかないか。
「いいよ、くじ引きで決まったんだから…先に帰ってて」
「ごめんね」と言いながら香蓮と巴菜が帰っていく。
ほかのクラスメイトたちも帰っていき、当たった4人だけが残っていた。
だが、誰も自分の席から動こうとしない。
気まずい空気だけが流れていた。
この中で、誰が一番話しやすい…?龍弥だよね、やっぱり…
それでも最近は話しかけづらい。
結局、真央は動かなかった。
そんな中、意外な人物が腰を上げて話し始めた。
「とりあえずさ、決まったんだから集まろうよ」
それは源治だった。
あまりしゃべらないタイプなのに率先して話したことで、みんながそれぞれ立ち上がり、
源治のところに集まった。
チラッと龍弥を見ると目が合った瞬間に逸らされ、
チラッと杏華を見ると相変わらず鬼のような形相をしている。
なんなんだ、この罰ゲームみたいのは…
「わたしは絶対に竹下くんを認めない。それだけは忘れないで」
いきなりの宣告。
そんな顔されれば忘れようがないよ、まったく…
そんな状況の中、源治が頑張って話をしてくる。
「みんなそれぞれ思うことがあるだろうけどさ、僕はこのメンバーでよかったと思うよ」
「なんでそう思うわけ?わたしは最悪なんだけど」
そういいながら、また杏華が真央のことを睨んでいる。
「だってさ、僕たち4人とも仲良くないでしょ。こういうバラバラな人たちが集まったほうがいろんな意見をまとめられることができるよ。例えばさ、4人のうち2人が竹下と大谷だったとするよ、仲のいい2人が中心で決めていって、最終的にその2人の意向がクラスの方向性に反映されるよ?僕はさ、せっかくの文化祭をクラスのみんなでやるんだから、みんなの納得のいくものをやるべきだと思うんだ」
なぜ俺たちを例に挙げたんだ…
けど、源治の言っている意味は納得がいく。
クラス委員長をやっている杏華よりもよっぽどしっかりしていた。
ただ腑に落ちないのは、バラバラな4人ということだ。
最近疎遠になっているとはいえ、真央にとって龍弥はまだ友達だと思っている。
まわりから見たら、俺と龍弥はもう仲良くないと思われているのかな…
ここでようやく、龍弥が口を開いた。
「お前のいうことも一理あるな。けどよ、相談しろって言われても何を相談するんだよ。何をやりたいかとかも決まってないだろ?」
「まずはみんなが何をやりたいか、アンケートを取るところからじゃない?ある程度まとめておいて、今度ある各クラスの委員が集まる全体会議で発表するはずだから」
「詳しいんだな」
「実は去年もやってるんだ。もちろんやりたくてやったわけじゃないけどね」
それでも経験者というのは心強い。
「まずはスケジュールを組もう。いつアンケートを配って、いつのホームルームで意見をまとめるか」
気が付けば源治がすべてを仕切っていた。
人は見かけによらないものだ。
同じ男同士だからか、龍弥もいろいろ提案していて、源治と決めていく。
真央と杏華はほとんど聞いているだけだった。
「じゃあ、今日はこの辺で終わりにしよう。それとさ、根津と竹下。2人が仲悪いのは知ってるけど、お互い会話くらいしたほうがいいよ。僕と木谷だって別に仲良くないのにこうやって話してるんだからさ」
これを聞いて、源治も真央のことを女子扱いしているというのがわかった。
まあ、今は実際に女子だからそれはそれで構わない。
「じゃあ僕は帰るから」
源治がかばんを持って歩き出すと、
龍弥も逃げるように「俺も帰る」と言って教室を出ていってしまい、
真央が龍弥と会話することは最後までなかった。
龍弥、やっぱり俺のこと避けてるんだね…
横を見ると、杏華が無言でバッグを持って帰ろうとしている。
そうだ、今は龍弥よりもまず根津をなんとかしないと…
西川の言う通り、このままじゃまとまるものもまとまらなくなる…
勇気を振り絞って、真央は杏華に向かいあった。




