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彗星に願いをこめて  作者: 姫
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龍弥の事情

あーあ、もう朝か…

趣味に夢中になりすぎて寝不足気味だ。

体を起こし、軽く首を回してから立ち上がって顔を洗いに行く。

冷たい水のおかげで目が覚めてスッキリした気分になる。

制服に着替え、朝食を食べてから家を出た。

いつもと同じ道を歩き、いつもと同じ電車に乗る。

ごく当たり前の1日が始まった。

学校に着き、教室に入ると宮本という友達が話しかけてきた。

「昨日教えた動画見た?」

「ああ…悪い、見てないや」

趣味のほうを優先してしまい、動画のことをすっかり忘れていた。

「なんだよ、すげー面白いのに」

「今日見るよ」

そう答えてからカバンを後ろの棚に入れてから自分の席に着く。

まわりを見まわしてみると、朝からみんな楽しそうに話している。

みんな元気だな、真央は…まだ来てないのか。

「よう」

みんなと同じように楽しげに渡辺健吾がやってきた。

「朝からテンション高いな」

「そうか?龍弥が低すぎるんじゃないか?」

そうかもしれない。

目は覚めているが、やはり寝不足が影響しているのか…

いや、違うな。

龍弥のテンションが低い理由は別にあった。

「なんかお前、最近ずっと暗いよな」

「気のせいだろ。俺はいつも通りだよ」

実際はいつも通りではない。

すると、急に廊下のほうが賑やかになり、それがだんだんと教室へ近づいてくる。

来た…

龍弥は思わず顔をしかめていた。

「お、賑やかなやつらがきたな」

健吾がそういうと同時に、真央と香蓮と巴菜が教室に入ってきた。

「絶対に真央だよ」

「絶対に香蓮だって」

「もう…どっちでもいいよ」

真央と香蓮のやり取りに巴菜が呆れている。

ここ最近見る、いつもの光景だ。

「あいつら、毎日毎日よく飽きもせずにやってるよな」

健吾の問いに、龍弥は「ああ」と答えてから真央を見ていた。

その真央は、みんなに「おはよう」と声をかけながらどんどん近づいてきた。

ああ、また気まずい時間がやってくる…

龍弥の席は廊下側から2列目の一番後ろ、真央たちは窓際のほうなので

席へ向かうとき必然的に龍弥の後ろを通ることになる。

通りざまに真央は「龍弥、渡辺、おはよう」と声をかけてきた。

健吾は普通に「おはよう」と返したが、龍弥は「あ、ああ…」とだけ言って、

すぐに前を向いた。

親友と言っても過言ではないほど仲が良かった真央との会話は1日1回、これだけだ。

この会話が龍弥にとっての気まずい時間だった。

女になったばかりの頃の真央は、

女扱いされたくなくて休み時間ごとに龍弥のところへやってきて会話をしていた。

昼も一緒に学食を食べていた。

それが段々会話をしなくなっていき、お昼も一緒に食べなくなった。

学校帰りに遊びに行くこともなければ休みの日に遊ぶこともない。

疎遠になった理由は龍弥にある。

それは真央を男として見れなくなったからだ。

挨拶もはじめの頃は「よう」とか軽い感じだったのに、

気がつけばいつの間にか「おはよう」に変わっていた。

真央を男として見ることができなくなった龍弥は無意識に避けていき、

そのせいかわからないが、真央は香蓮たちと行動することが多くなり、

気がつけば完全に女子グループの一人になっていた。

そして真央自身も、もう男の頃の面影を感じなくなり始めていたので、

そうなると龍弥はもう完全に今まで通り接することができなくなっってしまった。

なぜ龍弥がそうなったかというと、

それは、龍弥は女性が苦手だからだった。

苦手な理由は特にない。

ただなんとなく緊張してしまい、うまく話せずそっけなくなってしまう。

それは真央に対しても同じだった。

もう龍弥の中で、男の真央ではなくなっていた。

それでも気になって何度もチラッと真央を見てしまう。

「そういえば昨日のドラマ見た?」

「うん、真央と一緒に見たよ」

「ホント仲いいよね、2人って」

「だって香蓮が勝手に来るんだもん」

「真央が寂しいと思ったから行ってあげたのに」

「別に寂しくないから。そもそも香蓮は…」

健吾のセリフではないが、本当に飽きずに同じことを繰り返している。

男の頃の真央も同じようなやり取りをしていたが、それよりも楽しそうだ。

完全に仲のいい女同士にしか見えない。

もう昔みたいにお前と話したりすることはないんだな…

今の真央にとって、龍弥はただの友達で親友ではなくなっている。

「そういえば、お前竹下と全然話さなくなったな」

ふと健吾に言われ、回答に困ってしまった。

高校生にもなって、女性が苦手というのは恥ずかしいので誰にも話していない。

できればこのまま秘密にしておきたいので、とりあえず誤魔化すことにした。

「俺と話すより、大谷や三上と話してるほうが楽しそうだからな」

「それは言えてるな。あいつ、気が付けば普通に女子になってたもんな。俺も昔ほど話さなくなったし」

健吾も男の頃の真央とはそれなりに仲が良かったが、

真央が女になってからはそれほど話さなくなっていた。

それでも龍弥よりは会話をしている。

再度真央を見ると、やはり楽しそうに笑っていた。

親友を失ったことで龍弥の心はポッカリと穴が開いていた。

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