ともだち
真央は男に戻ったのかな?それとも女のままなのかな?
こればかりが頭をよぎって、香蓮はほとんど眠れなかった。
寝付いたのは明け方だったが、あまり眠気はなく目が覚めた。
早く真央に会いたい…はやる気持ちを抑え、身支度をする。
「香蓮、ご飯食べないの?」
「あんま食欲ないんだ。せっかく作ってくれたのにゴメンね」
由紀恵に謝ると「気にしなくていいよ」と笑顔で言ってくれたので少し安心する。
待ち合わせの時間まであと5分…ダメだ、待てない!
香蓮は家を出て、真央の家のドアの前で待つことにした。
あと3分…長いな。
ドアを叩こうか迷ったが、まだ待ち合わせ時間の前なので我慢する。
あと2分…あと1分…
時計と睨めっこしていたら、家のドアがガチャリと開いたので、
香蓮は慌てて顔を上げた。
「香蓮、おはよう」
出てきた真央は、昨日と同じ女の真央だった。
「真央…そっちを選択したんだ…」
すると、ケロッと言ってくる。
「ううん、どっちも選択してないよ。とりあえず学校行きながら話すよ」
「う、うん…」
トボトボと歩きながら真央は昨日のことを話してくれた。
「それにしても、あの彗星ってなんなんだろうね?香蓮の言った通り、願ったら本当に叶うんだもん。ほかにも願いが叶った人っているのかな?」
「だから言ったでしょ!真央が女になったのはわたしが願ったからだったんだよ。ほかの人はどうだか知らないけど…それより叶ったって何を願ったの?」
早く教えてほしくて香蓮は急かしていた。
すると「んー…」と少し考えてから、やっと話し始めた。
「なんかさ、本人を目の前にして言うのも恥ずかしいし、香蓮が図に乗りそうで嫌なんだよね」
「図に乗るってどういう意味!こっちは気になってほとんど寝られなかったのに」
そういうと真央は呑気に「あはは」と笑っていた。
まったく、人の気も知らないで…
「香蓮がさ、後悔しないことを願えって言ったじゃん?必死に考えたんだ。何が一番後悔しないことか。龍弥とのことも考えたし、巴菜のことも考えた。それ以外のこともいっぱい考えたんだよ」
そこまで言って一度話すのをやめて、香蓮の顔をジッと見てきた。
「でもね、一番考えたのは香蓮のことだったの。昔からずっと香蓮はわたしの隣にいた。何をするにも香蓮が一緒だった。だからこう言ったよ」
真央は立ち止り、空を見上げながら言った。
「これからもずっと香蓮と親友でいられますように!って」
「真央…」
それを聞いて、香蓮の目に涙が溢れていた。
「ちょっと泣かないでよ」
「だって、だって…わたしもずっと真央と親友でいたいから…」
「うん!だからこれからもずっと親友だよ」
真央がニコニコしているので、香蓮も涙を拭ってから笑顔になった。
ただ、疑問もあったので聞いてみた。
「なんで、親友でいられますようにって願ったら女のままだったんだろう?」
「やっぱり男女の親友よりも同性のほうがいいからじゃない?女になってからのことを考えればそう思うもん」
確かにそうかもしれない。
付き合ってるとか言われることもないし、同性のほうが話を通じることがたくさんある。
「でも…それって本当に叶ったのかな?だって今もこれからもずっと真央の親友だよ」
すると、真央は足を止めて、ジッと見つめてきた。
「香蓮、なんか違和感ない?」
「違和感…?なんだろう?」
真央を見ても、いつもの真央だし…
「じゃあ…高校の入学式思い出してみて」
高校の入学式…
「確か真央と一緒に学校に行って、制服かわいいよねって言い合って…ん?言い合う??」
ぼんやりと入学式の光景が浮かび上がってくる。
真央と一緒に同じ女子の制服を着ている光景だ。
「だって真央は男子の制服を着ていたはず…」
すると、真央がスマホに入っている入学式のときに撮った写真を見せてきた。
そこには今より少し幼い香蓮と、女の真央が写っている。
「どういうこと?それにいろいろ考えてみると子供の頃から女の真央しか出てこない…」
「なんかね、生まれたときから女だったってことになったみたい。気になって小学生の頃とか中学生の頃の写真や卒業アルバムとか見てみたけど、全部女だった」
彗星に願ったから?これが真央のいう叶ったってこと?
「思うんだけどね、ずっと親友でいるには、元から女だったってほうがいいみたい。元男だったとか余計な話とか出てきそうじゃん?こないだの衣香のようなこともこの先あるかもしれないし。でも元から女だったら、そういうことはまず起きないもん」
まだ衣香と友達になる前、衣香は龍弥を手放したくないあまりに、
真央を男扱いして傷つけたことがあった。
そのせいで一時だけど自暴自棄になり、香蓮に説教されたこともある。
「確かにそうかもしれないね。それに…真央が男だったのは覚えているんだけど、記憶が変わっちゃったせいか、男の真央をあまり思い出せない…」
「やっぱり香蓮もそうなんだね、実はわたしもなの。しかもね、お母さんとかも元から女だっていうんだ」
目が覚めて、自分の姿を確認したら、女のままだった。
やっぱり何も変わってない、彗星の話なんて香蓮の思い込みだったんだ。
でもなんだろう…なんか違和感がある…
部屋のレイアウトが若干変わっていた。
カーテンやシーツ、ドレッサーなどは同じだったけど、タンスが白いものになっている。
前は濃い茶色だったはずなのに…
時計もシンプルなものだったのに、かわいいデザインのものになっていた。
このように、ほかにも細かい部分がかわいいものに変わっている。
以前の部屋は、年末に買い替えたもの以外は男の頃のものを使っていたはずなのに…
どういうこと?
タンスの中を見てみると、女になってから買ったものはもちろんあるけど、
ほかに買った記憶がない服や下着まで入っていた。
しかも生地の感じ的に1年以上前のものだ。
いや、よく考えると買ったような記憶がある…
このブラウス、香蓮と買いに行ったような…いつだっけ?高校1年の夏…?
待って!高校1年の夏は男だったはず!
それなのに思い出そうとすると、過去の男だった記憶が女の自分になって出てくる。
ピンクのランドセルがいいって駄々こねて、ピンクのランドセルで香蓮と小学校へ行き、
中学生になって初めて女子の制服を着て、香蓮とはしゃいだ記憶、
公園のベンチで恋愛の話をして○○がカッコいいと言った記憶、
卒業式で一緒に泣いた記憶、高校の入学式で、制服がかわいいって盛り上がった記憶、
どれも女の自分だ…
確かスマホに昔の画像があったはず…
立ち上げると、まず最近撮ったものが出てくる。
これは全部ハッキリと覚えている、
そのまま指をスライドさせて過去にさかのぼっていくと、高校1年の頃のものが出てきた。
やっぱり…
そこに映っているは女の真央だった。
入学式の画像も、中学の頃の画像も、すべて女の真央だ。
わたしは元から女だった…?
そんなはずない!
真央は部屋を出て雅子のところへ行った。
「お母さん、男の頃のわたしってどうだったっけ?」
「なにを言っているの?真央はずっと女じゃない。寝ぼけてる?」
お母さんは男のわたしの記憶がないんだ…
しかも、いつの間にか「お母さん」って呼んでる…
前まで「母さん」って呼んでいたはずなのに…
でも…やっぱり勘違いなんかじゃない、わたしは11か月前まで男だった。
それを香蓮に会ったことで確認することができた。
「じゃあ…真央が男だったって知ってるのは、わたしと真央だけ?」
「多分、そんな気がする」
その予想は見事に的中した。
学校に向かう途中で合流した巴菜が、「彗星見た?」と聞いてきたので、
「見た」と答えると、「大きかったよね」と言っていて、
願い事の話はまったくしてこなかった。
試しに香蓮が聞いてみる。
「結局、真央は女のままだったよ」
「何をいってるの?真央が女なの決まってるじゃん、変な香蓮。ねえ、真央?」
彗星の話を知っていた巴菜ですら、真央が男だった記憶はなかった。
そうなると、龍弥もほかの友達もみんな同じだろう。
知っているのは、彗星に願い事をして叶った、香蓮と真央だけだ。
「おはよう、龍弥」
「おはよう、昨日買った本、もう読み終わっちゃった」
「もう読んだの?早すぎ」
「だから今日も付き合ってくれよ、本屋」
「しかたないなぁ、その代わり本屋の後にパンケーキ付き合ってよ」
そんなやり取りをしていたら、いつものように伊藤が絡んでくる。
「朝から見せつけるなよ、こっちは何もないっていうのに」
「しかたないじゃん、ラブラブなんだもん。ね、龍弥」
あれ、わたしなんでこんなこと言ってるんだろ?
まあいいか、本当にラブラブなんだから。
こんなことを言われて、龍弥は苦笑いしている。
「真央、人前でそういうこと言うなよ。恥ずかしいだろ…」
ふふ、龍弥が照れてる。
それを見て真央はニコニコしていた。
元から女だった真央の性格は、今まで以上に恋愛体質だったらしい。
だから、龍弥のことが大好きで、触れ合ったりはしないけど、
学校でも彼氏彼女を隠さず堂々としている。
さっきの発言も、まさにそれによるものだ。
しかし、基本的なところは変わっていないので、
今までと同じように楽しくて平穏な日々が続いていく。
結局、あの彗星がなんだったのかわからないままだった。
ただ、間違いなく願い事は叶った。
隣で笑っている香蓮を見て、真央は改めてそれを理解した。
そして、そのまま1か月が過ぎた。
「真央、遅い!」
「ごめん、前髪が決まらなくて」
今日から真央たちは3年生になる。
早く新しいクラスを確認したかったので、香蓮は怒っていた。
「また同じクラスだといいね」
「ね、そしたら真央と3年間一緒だよ。でも真央はわたしより木谷と同じクラスのほうがいいんじゃない?」
「んー、それもある」
「ホント木谷のこと大好きだよね」
「えへへ」
真央は照れたような笑みを浮かべていた。
「でもやっぱり香蓮と同じクラスのほうがいい、あともちろん巴菜も。3人一緒のほうが楽しいもん!」
この1か月の間で、真央の中でも香蓮の中でも真央が男だったという記憶は
どんどん薄れていて、今では、言われてみればそうだったかも…というくらいになっていた。
おそらく、その記憶は近いうちに2人の中でも完全に消えるだろう。
そうなると、もう真央が男だったというのを知っている人物は誰もいなくなる。
けど、それでいいと思う。
今いる世界で、真央は元から女なんだから。
「真央、走るよ!」
「えー、髪が乱れるから嫌だ」
「じゃあ置いていく」
香蓮が走り出すと、真央は慌てて追いかけた。
「待ってよ」
それでも2人はずっと笑顔のままだった。
この笑顔は2人が一緒にいる限り、いつまでも続くだろう。
今までも、これから先も、真央と香蓮はずっと親友だから。
長い間ご愛読いただきありがとうございました。
これで完結になります。
皆様からの感想や評価に大変感謝しています。
今まで書いたものは、すべてテーマがあり、成長、家族などでしたが、
今回は友情をテーマにしてみようと思って書いたのがスタートでした。
しかも男女の幼馴染が女同士の幼馴染になったらどうなるのかなと考えながら書いたので、
個人的に書いていて楽しかったです。
まさかここまで長くなるとは思っていませんでしたけど(笑)
それでも友情だけを書いていくには限界があって、
当初では入れる予定じゃなかった恋愛を入れてしまいました。
そのせいで途中は恋愛が中心になってしまったり…
でも最後はちゃんと真央と香蓮に戻すことができたのでよかったです。
というか、最後だけは最初から決まっていたんですけどね。
あと姫奈は出す予定なかったんですけど、話の流れでまた出しちゃいました(笑)
さて、次の作品は…まったくの未定です。
何も手を付けていません。。。
いいアイデアが思いついたらまた書きますので・・・
ちなみに今作のお気に入りは巴菜でした。
どこかで出したいなと思っています。
最後、個人的に思ったことをちょっとだけ書かせてもらいます。
真央と香蓮の友情がテーマだったのに
2人が最後付き合うと思っていた方がいたことが非常に残念でした。
冒頭から2人に恋愛感情はないって散々書いておいたのに…
それと途中の前書きにも書いたんですけど、
こうしてほしいという要望も残念な気持ちになりました。
こういう気持ちになりたくないので再度言わせてもらいますけど、
ストーリーや展開に関する要望は受け付けていません。
あくまで自分が考えたものを投稿しているので、そこのところはご理解ください。
あと展開についてのネタバレ的な質問も本当に迷惑なのでやめてください。
本当に嫌だったので書かせてもらいました。
批判めいた形になってしまいましたが、今後ともよろしくお願いします。




