3学期初日に
「おはよう、香蓮」
「おはよう、今日は珍しく真央のほうが早かったね」
「珍しくは余計!3日に1度くらいはわたしのほうが早く来てるじゃん」
「でもそれって3分の1だよ、誇れないから」
「う、うるさいな」
冬休み中もほぼ毎日会っていたので、特別な会話もなく、いつも通り学校へ向かう。
駅から学校に向かって歩くと、大半の生徒が少しダルそうに通学していた。
冬休み明けなのと、寒さのせいかもしれない。
そんな中、元気に声をかけてくる子が一人いた。
「香蓮、真央、おはよ!」
「おはよ!久しぶりだよね、会いたかった~」
香蓮はふざけて巴菜に抱きつき、「わたしも会いたかった」と抱き返していて、
真央はそれを見て笑っていた。
巴菜と会うのはクリスマス以来だったが、SNSなどではほぼ毎日連絡を
取り合っていたのにすごく懐かしい感じがする。
「真央はわたしに抱きつかないの?」
「抱きつく!巴菜ぁ」
「真央!」
ふざけながら抱き合い、3人で声を出して笑う。
本当に仲がいい3人だった。
教室でもみんなと久々の再会の挨拶を交わしてから席に着くと、龍弥が教室に入ってきて、
そのまま真央のところまでやってきた。
「おはよう」
「おはよう、龍弥」
まだ2人が付き合い始めたのを知っている人物は少ないが、
元々両想いなのはみんな知っているので、こういう光景に違和感はない。
龍弥はそのままバッグに手を入れて何冊か本を取り出した。
「ほら、昨日話してた本」
「あ、ありがとう…って多いよ!何冊あるの?」
「とりあえず4冊」
そういいながらも3冊は単行本なのでかさばるし重い。
「1冊ずつでいいのに。こんなにあったら重いよ」
「ああ、そうか。何も考えずに読んでもらいたいのを持ってきたんだけど…」
呼んでもらいたい気持ちが先行して、一気に貸してしまうという、
本が好きな人にありがちなパターンだ。
「1冊だけ渡して残りは持って帰ろうか?」
「いいよ、せっかく持ってきてくれたから全部借りてく。それで、どれから読めばいい?」
「んー、個人的にはやっぱり町田美月のから読んでもらいたいかな」
4冊の本を見てみると、3冊の単行本すべてが町田美月だ。
だから…
「町田美月のどれ?3冊あるでしょ?」
「あ、えーと…これ。「朝日が見えたとき」これから読んでみて」
「わかった。これ読み終わったら次にどれを読むのか聞くよ。ありがとう」
お礼を言って、4冊の本をバッグにしまうと、思った通りかなりかさばってしまった。
まあ、しかたないかな。せっかく気合い入れて貸してくれたんだし。
そこでようやく、香蓮と巴菜が会話に加わってくる。
「本なんか読むの?」
「うん、龍弥が面白いっていうから読んでみようかなって」
「木谷ってこういうの好きだったの?」
「まあ…一応趣味が読書だから」
まったく想像がつかないような趣味に驚く一方だ。
それに真央が本を読む姿も想像できていなさそうだったが、
それは真央自身も理解している。
まさかわたしが本を読むなんてね…
ちょっと知的になった気分だ。
「じゃあまた」
手を挙げて龍弥は自分の席に戻っていく。
「なんか…いい感じだね。すごく自然な感じ」
巴菜がニコニコしているので、少し照れくさくなる。
そのタイミングでチャイムが鳴り、ホームルームが始まった。
この日は始業式と簡単なホームルームだけで終わり、
帰り支度をしながら、このあとどうするかを話し合う。
「真央は木谷と一緒に帰らなくていいの?」
「いいの。龍弥は渡辺とラーメン食べに行くって言ってたから」
そんな話をしていたら、龍弥が「じゃあ帰るな」と声をかけてきたので、真央も「バイバイ」と軽く手を振り、龍弥が健吾と一緒に教室を出ていくのを見送った。
「ちゃんと声かけてくれるんだ、なんか本当に付き合ってる感じが出てるね」
巴菜がからかってくると、その言葉を聞いた残っていた女子たちが反応した。
「やっぱり付き合ってるの?そんな気がしたんだよね!」
「おめでとう!いつから付き合いだしたの?」
「クリスマスイブから…恥ずかしいからそんな言わないでよ!」
顔が真っ赤になっている真央を見て、みんなが笑っていたら、
その笑い声がピタリと止まり、視線が教室の入り口に向けられる。
来た…
衣香がニコニコしながら教室の中へ入ってきたので、凛が近づいて冷たく言い放つ。
「よくここに来れたね。木谷ならいないよ。それと木谷は真央と付き合ってるの。もう邪魔しないで」
事情を知らないので、釘を刺す意味でもきつく言う。
いや…そんな言い方しなくてもいいの…
真央、それと事情を知っている香蓮と巴菜はドキドキしていた。
「龍弥くんに会いに来たわけじゃないの」
そう言って教室内をキョロキョロとみまわして、真央を発見すると「あ、いたいた!」と
いつものようにニコニコしながら駆け寄ってきた。
「真央ちゃん、こんにちは」
「こ、こんにちは」
衣香が真央ちゃんと呼んだことに、みんなキョトンとしている。
こないだまでは「竹下くん」と呼んで、真央を男扱いしていたからだ。
「真央ちゃん、このあとって予定ある?よかったらご飯でも食べに行かないかなって思ったんだけど」
「ちょっと何考えてるの!いい加減にしなよ。なんで真央がアンタなんかとご飯に…」
ほかの女子が衣香に向かって怒鳴り始めたので、真央はそれを慌てて止めた。
「い、いいの!もうわだかまりとかないから」
「いいのって…あんなに罵倒されたんだよ?」
「本当にいいの、ありがとう」
お礼を言ってから再び衣香を見ると、気まずそうな表情に変わっていた。
こういう表情って苦手なんだよね…
さらに残念な顔にさせちゃうかな…でもしかたないよね、先約があるんだから。
真央は衣香の顔を見て、申し訳なさそうに言った。
「ごめんね、今日は香蓮と巴菜と先に約束しちゃったの」
「そっか…気にしないで!突然言ったわたしがいけないから」
これで終わると思ったら、香蓮が突然予想だにしないことを言い出だす。
「真央、わたしたちのことは気にしないで行ってきなよ。せっかく来てくれたんだから!ね、巴菜?」
「そうだよ、一緒に行ってきなよ」
あれ…そういうパターン?
かわいそうなのと今までの経験で、揉めはじめたら面倒くさいという両方の意味で、
香蓮も巴菜も真央を差し出したのだ。
こうなると、友達になると龍弥に約束した手前、行かざるをえなくなる。
ところが、今度は衣香が想定外のことを言い出した。
「だったらさ、4人でご飯食べに行こうよ。わたしね、真央ちゃんたち3人の関係が羨ましくていいなってずっと思ってたんだ。だからその輪に交じって4人で行きたいな」
真央は思わず「ぷぷっ」と噴き出しそうになった。
わたしを売ろうとするからだ。
香蓮も巴菜も、この状況で「嫌だ」なんて絶対に言えない。
「そ、そうだね…行こうか、4人で…」
「やったぁ!楽しみだな」
一人はしゃぐ衣香を横目に、真央たちは苦笑いをするしかなかった。




