真央の好きなもの
龍弥はカフェラテ、真央はカプチーノを注文して席に座る。
「本当は早く読みたくてしょうがないんでしょ?」
「んー、半々かな」
「もう半分は?」
「真央と一緒にいたい」
たまにこういうことをサラッと言ってくるので、嬉しくもあり恥ずかしくもある。
でも…やっぱり嬉しい気持ちのほうが強いかな。
「ありがとう」
素直に言葉を伝えると、龍弥はニッコリと微笑んでくれた。
「あーあ、それにしてももう冬休み終わりだよ。早かったな」
「確かに。でもわたしは学校嫌いじゃないよ。みんなに会えるの楽しいし」
そう、たかが2週間程度だけど、巴菜をはじめ会っていない友達が何人もいるので、
3学期が待ち遠しかった。
「真央は友達が多いからな」
「龍弥だって多いじゃん。渡辺とか伊藤とか…それに西川も」
「西川は友達じゃない!」
「なんで?よく話してるじゃん」
「それは文化祭の実行委員の名残りだよ。それを言うなら真央だって西川の友達だぞ」
最初は何を考えているのかわからない、趣味が人間観察の源治を好きになれなかったが、
実際に話したり接したりして、それほど源治が悪い人間じゃないというのを知ったので、
真央は友達でもいいと思っている。
「うん、友達でいいよ。そんな嫌いじゃないし」
「え?そうなの??」
「西川って不器用なだけで、結構仲間想いだからね。龍弥だって知ってるでしょ」
「まあ、そうだけど…」
考えてみれば、実行委員の頃から源治は龍弥に何度も真央とのことを言われていた。
アイツももう少し素直になればもっといいやつだと思うんだけどな…
「って、なんで西川の話なんだよ!別に今アイツの話しなくてもいいだろ」
「じゃあ、なんの話する?」
「なんの話と言われても…特にこれ話そう!っていうのはないけど」
だったら西川の話でいいじゃん。
と言おうと思ったが、確かに源治の話をする意味もないので言わないでおく。
「そうだ、あれからあの子から連絡あった?」
「あの子って、衣香か?」
「うん…」
衣香と呼び捨てにしていいのかわからない、けど衣香ちゃんと呼ぶのも抵抗があるし、越野さんと呼ぶのもピンとこないので、「あの子」と真央は呼んでいる。
「明けましておめでとうと、あとは…真央とうまくいってるかって聞いてきたくらいかな」
「連絡はあるんだ?」
「頻繁にじゃないけどね」
でも、こないだ話をしたように、邪魔をするとかそういう感じではなさそうだから
安心した。
「あとね…いや、やっぱりいい」
龍弥が何か言いかけてやめてしまう。
こういうのが一番気になるパターンだ。
「なに?言ってよ!」
ちょっと強く聞くと、龍弥が頭を掻きながらポツリと言ってきた。
「真央と友達になりたいって…」
「ああ…」
そういえば仲良くしてねって言ってたっけ。
本当は素直でいい子なんだよねぇ…うーん。
「龍弥はどうしてほしいの?」
「俺は…」
躊躇うのを見て、真央は刹那に龍弥の気持ちを感じ取ることができた。
昔の恋人で、こないだまで散々引っ掻き回した衣香だけど、やはりどこかに情が残っている。
それに、本当はいい子だというのを一番知っているのは龍弥だ。
その衣香と友達になってもらいたい、
それが衣香に対する龍弥なりの償いだと思っているに違いない。
わたしは龍弥の彼女だ、その思いに報いる義務がある。
「わかった、すんなりいくかはわからないけど、友達になってみるよ」
「本当か?すまない」
「別に謝らなくていいよ。それにさ、あの子転校してきたばかりで友達もまだあまりいないだろうから」
それを聞いて、龍弥が微笑んでいる。
「なんで笑ってるの?」
「真央は本当に優しい子だなって思ってさ。そういう真央の性格、好きだよ」
「い、いきなりそういうこと言わないでよ!」
恥ずかしいから…
真央は残っていたカプチーノを飲み干し、照れ隠しのために「そろそろ行こう!」
と龍弥に促し、強引にカフェを出ていった。
慌てて龍弥も後を追い、「出たはいいけど次どうするんだ?」と問いかける。
えーと…えーと…
照れ隠しだけのために、後先考えずに出てしまったので次の行き先が思い浮かばない。
目的の本屋はもう行ったし、休憩でカフェも行ったし…
「こ、コスメ見に行きたい!」
「い、いいけど…」
なんだ、ここは…
龍弥が気まずそうにしている。
それもそうだ、今いる場所は真央の大好きなシャーロットフランシスだ。
若いキラキラした女子ばかりなのでものすごく抵抗がある。
ただ、カップルできている人もいるので、男子がゼロではないのが救いかもしれない。
真央もなぜコスメと言ったのかわからなかったが、
きてしまった以上は楽しむつもりだった。
「ねえ、これすごくいい香りじゃない?」
ボディークリームのサンプルのふたを開け、龍弥に匂いを嗅がす。
「ああ、いかにも女の子って香りだな」
「これがシャーロットフランシスの香りなんだよ。ホントずっと嗅いでいたい」
「本当に好きなんだな、いくらするんだ?」
「えっと…3000円だね」
「3000円!?」
龍弥が大きな声を出してしまったので、まわりの人たちがジロジロと見てくる。
「ちょっと大きな声出さないでよ…」
「わ、わりぃ…でも高すぎるだろ?ボディクリームなんてドラックストアで500円とかで売ってるぞ」
1000円くらいなら買ってあげてもいいかなと思ったが、3000円となると話は別だ。
高校生が気軽に買ってあげられる値段ではない。
「しかたないじゃん、シャーロットフランシスなんだから。デパコスのブランドってこういうもんなんだよ」
そういうもんと言われても…やっぱり高いだろ。
「こんなのばかり買ってるのか?」
「まさか!さっき本屋でも話したけど、シャーロットフランシス買うのはたまにだよ。それこそすごく気に入った色のリップが出たときとか。あとは香蓮の誕生日プレゼントに買ったりとか」
それを聞いてホッとした。
こんな値段のものを当たり前のように買っていたら、金銭感覚が合わなすぎる。
それにしても…真央は本当に女子だな。
1年前はまだ普通に男だったのに…
今はその真央が自分の彼女というのも不思議なもんだなと思っていた。
「なにニヤニヤしてるの?」
「べ、別にニヤニヤなんかしてねーよ」
顔に出ていたらしい、気を付けないと。
「それよりなんか買うのか?」
「ううん、買わないよ。2日にきたばっかりだし。ここはね、見てるだけでも楽しいの!」
見てたら欲しくならないのかな?
よくわかんない感覚だと思った。
「このチーク、パケがすごくかわいいの!」
「このティント、発色がすごくいいの!」
「このグロス、ラメが入っててかわいいの!」
コスメを手に取る度に、龍弥に言ってくる。
パケ?ティント?グロス?
真央は何語を話してるんだろう?
言ってる意味がさっぱりわからない。
女になって9か月、ここまでの知識を当たり前のように得られるものなのか?
すげーな…女って…いや、真央がすごいのか…?
龍弥は終始苦笑いをするしかなかった。
本当に見ただけで、何も買わなかったが、龍弥はかなり疲れてしまった。
気が付けば夕方になっていたし、そろそろ帰るタイミングでちょうどいい。
「ぼちぼち帰るか?」
「そだね、明日から学校始まるし」
こうやってブラブラショッピングをしただけでも結果的に楽しめたので、
こういうデートもいいもんだと思いながら、真央と龍弥はそれぞれ家に帰り、
明日から始まる3学期に備えた。




