第九十三話 コルト都市国家での出来事 その8
「では、こちらの用紙に記入してギルドカードを提示の上、二階の会議室へお上がりください」
受付嬢は用紙を差し出し、ダリウスさんが無言で用紙にパーティー登録をする必要事項を記入し提出する。
俺たちはギルドカードを提示し、二階へ上がった。
ギルドカードには名前、ランク、出身等が記載されていて通帳も兼ね備えてある。
だから、ギルドカードを見ればだいたいの素性が分かるはずだけど、受付嬢は表情一つ変えなかった。
プロだな。
俺はそんな感想を抱きながら、みんなと一緒に二階へと続く階段を登る。
「ダリウスさん、あの受付嬢の人と何かあったんですか? 何かーー……」
「う、うるせぇ!! そんな事言ってないでいくぞ!」
ダリウスさんはそう言うと、そそくさと階段を登っていく。
まぁ、人には話したくない話も一つか二つはある。
ここは大人らしく、そっとしておこう。
うん、それがいい。
会議室に入ると30名程の冒険者がいた。
戦士、魔法使い、さらには騎士のような者まで、男女ともにいて、用意された椅子に腰をかけている者、壁にもたれかかって立っている者と、統率されている感じは全くない。
そして、パッと感じ取れる強さもバラバラな感じだ。
隙のない強者から隙が見える者まで、ダリウスさんが言ってた通りいろんなランクの冒険者が参加しているようだ。
確かにこれではパーティーを組んだりすると大変かもしれない。
俺がそんな事を考えていると、扉が開き、ギルドの職員らしき人が入ってきた。
「ようこそ、ギルドへ。 私はコルト都市国家のギルド長、コールだ」
コールという男は会議室の前にあるテーブルへ来るとそう自己紹介した。
見た目髪は茶色、歳は30半ばくらいだろうか?
隙のない立ち方、実力の方も高いんだろう。
そして、髭を生やしていて、見た目的にも威厳がある。
「ここに来ているという事はみな、戦闘狼の討伐に参加する者だろう。さっそくだが、今回の件の説明に入る」
コールさんは周り一瞥し、説明に入った。
「まず、現在の状況だが、コルト都市国家の北に位置するラーク大森林でCランクの魔物、戦闘狼が多数目撃されている。実際、被害も少なくない。さらに、今までと違い、戦闘狼が森林から出て来て、街の外で人が襲われるといった事例も出ている。そこで今回、討伐隊が編成される事になった。討伐にはパーティー組んで行ってもらう。ノルマは1パーティー戦闘狼五体。ノルマ達成報酬は金貨一枚だ。何か質問のある者は?」
「「「おぉ!!!」」」
報酬がパーティーで金貨一枚と聞き、冒険者達から驚きの声が上がる。
まぁ、報酬は置いておいて、どうやら、コルト都市国家の北にあるラーク大森林で戦闘狼が多数目撃され、被害が出ているらしい。
ラーク大森林はコルト都市国家から馬車で一時間ほどと比較的近い場所にある。
でも、魔物の戦闘狼が、なんで急にそんなに発生したんだろう。
「戦闘狼がそんだけ多く出現した原因は?」
俺が考えていると魔法使いらしき男が質問した。
「それは現段階では分かっていない。その調査も含めての依頼となる。また、原因を特定した者は別途報酬が用意される。他に質問は?」
まだ、原因の特定には至っていないというのか。
ゴルゴーラ教が関係しているのだろうか?
でも、魔物は関係ないはずだし……。
「戦闘狼を倒した後の素材と魔石は?」
俺が考えていると大剣を背負った戦士風の男が質問した。
「それは倒した者に権利がある。依頼終了後、希望があれば、ギルドで買い取る。他に質問は?」
俺たちも含めて、他に質問者はいなかった。
というのも、原因が分からない以上向こうに行ってからしか何も出来ない。
今はラーク大森林へ行くしかない。
「……質問はないようだな。では、討伐隊は明日の早朝、北門前から出発する! 馬車はギルドで用意するから後は各自で用意するように」
そう言ってコールさんは会議室を後にした。
「お、おい! ハル!」
俺は会議室を後にするコールさんを追いかけ会議室を出た。
「コールさん!」
「ん? どうした?」
コールさんは俺の呼びかけに反応して立ち止まり振り返る。
「あの、ゴルゴーラ教ってご存知ですか?」
「ゴルゴーラ教? 名前とちょっとした噂は聞いた事あるが……それが今回の件に関係あるのか?」
コールさんは鋭い視線を俺に送ってくる。
「いや、分からないです。 ちょっと気になっただけで……」
「そうか。まぁどちらにしても私もゴルゴーラ教は詳しく知らない。とりあえずは明日の討伐頑張ってくれ。期待してるぞ、ドラゴンキラー」
そう言うとコールさんは去っていった。
確かにゴルゴーラ教の事は分からない以上今は明日の討伐を頑張るしかない。
それにしてもドラゴンキラーって……。
多少複雑な心境を持って俺はみんなの元へ戻った。




