第八十八話 コルト都市国家での出来事 その3
「馴れ馴れしいやつだな」
「まぁまぁ、堅い事言うなよ? 一杯奢るからさ?」
「ウィル、俺たちは今交流が必要だ」
確かにちょっと馴れ馴れしいな。
その調子でシャーリーに喋りかけたら許さない。
しかも、俺の計画を邪魔しようとしている。
でも、これはロイの奴、この男に責任をなすりつけて飲むつもりだな?
「いや、今は飲まないので」
「まぁまぁ! そこのお嬢ちゃんは飲む気だぞ?」
言われた方向を見るとすでにアリィは目を輝かせて男の方を見ている。
「ハル、剛に入れば郷に従えと言う」
ダメだ。
場の空気がもう手遅れ感を漂わせている。
「はぁ〜……軽くだぞ?」
「よし、決まりだな! おーい! エール人数分くれ!」
「はーい! 了解しました!」
ウィルもなんだかんだ言って飲みたいのだろう?
店の奥でさっきのスタイルの良い店員さんが返事をする。
「エール? エールって何だ?」
「何だ? 知らないのか?」
「いつもは果実酒だからな……」
俺たちはいつも果実酒を飲んでいる。
だから、お酒と言えばそうだと思ってた。
「果実酒!? そんな上品なもん飲んでいるのか!? 男ならやっぱ庶民の酒、エールだろ!」
男は大きな声で言うと豪快に笑った。
いや、うちは女性もいますけど。
内心で突っ込んだ。
「エールってのは麦から出来た酒でな、のどごしがたまらないんだよ! しかも、ここのエールは冷やしてあって、なおうまい! 暑い疲れた日には最高だ!」
男はエールについて力説した。
エールの説明より、まず名前くらい名乗ったらどうなんだろうか?
「あの〜、それより、なまーー……」
「お待たせ致しました!」
振り返ると、先ほどのスタイルの良い店員が右手に4つ、左手に3つのジョッキを持って現れた。
器用にまぁ……これぞ職人技だな。
俺は店員を眺めた。
「おっ、きたな! 細かい話は後だ! 冷えたエールの前に言葉はいらない!」
男は名言らしく言葉を口にするが名言でもなんでもないと思う。
そうして名前を聞かないまま乾杯が始まった。




