第七十八話 シーレント王国での出来事 その9
俺とシャーリーは無事釈放(?)され、シーレント城に向かう為、みんなで宿屋から出た。
うん。
やっぱりシャバの空気はうまい。
外は青空が広がり、昨日と同じように観光客や商人達が行き交い、活気に満ちていた。
まるで俺の心そのものを表しているようだ。
「じゃぁ、シーレント城へ行こうか!」
「マーシャル商会じゃなくていいのか?」
ロイが悪人顔をしながらさっそくからかってきた。
悪いクセだ。
しかし、俺はもう動じない。
あの取り調べに比べたらこれくらい……。
「それはシーレント城の後でな」
「……面白くない。ハルにそんな反応は期待してない」
ロイはそう言うと横を向き拗ねてしまった。
そんな事言われても仕方ない。
俺も大人の階段へ足をかけたのだ。
いつまでもやられっぱなしではいられない。
俺達は昨日歩いた海へ向かう方の道ではなく、城へ続く道を歩いて行く。
左右には外観、内装ともに落ち着いたキレイな感じの店が並び、中では客と店員が商談しているであろう姿が見られる。
そんな光景を目にしながら城へ近づいて行く。
「あっ、お兄ちゃん」
シャーリーの一言で俺は背中に棒が入ったように背筋を正す。
恐る恐る、シャーリーの視線を辿るとリチャードさんの姿が目に入る。
リチャードさんの後ろがマーシャル商会だろうか。
他の店とは比べ物にならない大きさでシーレント城の半分くらいの大きさだ。
城がない街にあったら城と言われても納得してしまうだろう。
外観も白を基調とした壁で、シンプルな外観だけどオシャレな感じだ。
「やぁ! おはよう!」
「お、おはようございます!」
俺は突然の事態に対応が追いつかない。
「君達が来ているって耳にしてね! こっちの二人はイストニア帝国の子かい?」
「ウィルハート=エイディン=イストニアだ」
「ソニン=エイディン=イストニアです」
二人はリチャードさんに自己紹介する。
この二人もここしばらくの間にちょっとは社会の常識が身についたみたいだ。
感慨深い。
でも、なぜかリチャードさんはウィルとソニンの事を知っている様子だ。
「そうですけど、なんでリチャードさん知ってるのですか?」
「ん、まぁ商人は情報が命だからね」
そうか。
シーレント王国、そしてアースハイト王国で一番の大商会となれば情報網が違うのだろう。
そもそも王族との繋がりも強いし。
「それはそうとハル君。後でゆっくり話をしたいんだけどいいかな?」
「は、はい!」
俺は思わず声が裏返ってしまった。
リチャードさんの情報網からすれば昨日の事をすでに知られていてもおかしくない。
「お兄ちゃん! ……もう!」
「な、なんだよ? 別に話すくらい、いいだろ?」
いつの間にかシャーリーはリチャードさんに対して強くなっていた。
リチャードさんもタジタジだ。
俺たちはリチャードさんに会釈をして城へ向かう。
「ふっ、やっぱりハルはハルだな。安心したよ」
「う、うるさい!」
仕方ないだろう。
不意打ちなんだから。
そんなやりとりをしながら俺たちはシーレント城に着いた。




