第七十三話 シーレント王国での出来事 その4
「シャーリー! あそこまだ空いてるぞ!」
ステージ正面、人が並んだとしたら10人目くらいのところに二人くらいなら入れるスペースを見つけた。
俺はその場所を確保するべく走り出した。
すると、服のすそが引っ張られる感じがする。
何かに引っかかったんだろうか?
俺は振り返り、引っ張られている先を見る。
「ハル君、待って……」
そこには人混みに飲まれそうなシャーリーの姿があった。
ヤバイ!
つい場所の確保で頭がいっぱいになりシャーリーを置き去りにしそうになってしまった。
最悪だ。
俺はすぐさま人混みをかき分けシャーリーの元に戻る。
周りの人にうっとしそうな顔をされたけど気にしている場合ではない。
「シャーリー大丈夫!? ……ゴメンな」
「大丈夫、私がどんくさいだけだからハル君は悪くないよ? ゴメンね?」
シャーリーは俺が悪いのに気遣ってくれている。
くそっ!
俺は最低な男だ。
せめて、次ははぐれないようにしなくては。
「シャーリー、はい!」
俺は左手をシャーリーに差し出す。
「えっ……?」
……ヤバイ!!
咄嗟にはぐれないようにって考えたけど、よくよく考えたら手をつなぐって事だ!
俺は自分の失敗に動揺して『はぐれないように』ってのだけ考えて『手をつなぐって事の持つ意味』まで気が回らなかった。
かと、言って今更手を引くのはシャーリーとの今までの関係から失礼かもしれない。
ここは……突っ走るしかない!!
「ほら、はぐれちゃうだろ?」
「…………ぅん」
シャーリーは顔を真っ赤にして俯きながら聞こえるか聞こえないくらいの声で返事して、恐る恐る手を伸ばし弱々しい力で手を握ってきた。
と言う俺も内心バクバクで背中に汗が滲み、手にも汗が滲み出てきそうだった。
「じゃぁ行こうか!」
俺は誤魔化すかのように、そして半ば開き直ってシャーリーの手を強く握り返しステージ前のスペースへ向かった。




